PH スノーボールは、デンマークを代表する照明デザイナー、ポール・ヘニングセンが1958年に設計したペンダントランプである。8枚のシェードが織りなす優美な球形シルエットは、同時代に発表されたPH アーティチョークやPH 5と同様、ヘニングセンの照明哲学の結晶として位置づけられる。デンマーク装飾美術館(現デザインミュージアム・デンマーク)で開催された「Glass, Light and Colour」展にて初公開されたものの、当時は他の作品の陰に隠れ、長らく忘れられた存在となっていた。しかし1983年、その卓越した設計思想と美的価値が再評価され、ルイスポールセン社より正式に製品化された。四半世紀の時を経て蘇ったこの傑作は、今日においてもなお、光の芸術としての普遍的価値を放ち続けている。
特徴・コンセプト
PH スノーボールの設計は、ポール・ヘニングセンが生涯を通じて追求した「完璧なグレアフリー照明」という理念を体現している。1925年から26年にかけて確立された「PHシステム」を基盤とし、数学的精度をもって構成された8枚のアルミニウムシェードが、360度全方向において眩しさのない均質な光を実現する。
光学設計
本器の最も顕著な特徴は、すべてのシェード表面に対して光が同一角度で到達するよう幾何学的に設計されている点にある。シェード上面には光沢仕上げを施すことで光に煌めきを与え、下面にはマット仕上げを採用することで光源の映り込みを防止する。この二重の表面処理により、点灯時には上部が明るく照らし出され、下部は柔らかな陰影を保つという、絶妙な明暗のコントラストが生まれる。壁面と天井を均一に照射しながらも、主たる光は下方へと導かれ、空間全体に温かみのある拡散光をもたらす。
構造と素材
シェードはスパンアルミニウムの削り出しにより成形され、フレームにはダイキャストアルミニウムを使用、ハイラスタークロームメッキによる高い光沢仕上げが施される。この製造工程は部分的に手作業を要する精緻なものであり、各工程において熟練した職人技が求められる。直径40センチメートル、高さ39センチメートルというサイズは、デンマーク・スコツボーのアドベンチスト教会のために設計されたPH ルーヴルの縮小版として構想されたものである。PH ルーヴルが13枚のシェードを4本の支柱で支える大型器具であるのに対し、スノーボールは8枚のシェードを3本の支柱で支えるコンパクトな設計とし、一般的な天井高の住空間にも適応可能としている。
デザイン系譜
PH スノーボールは、ヘニングセンが1942年に設計したスパイラルランプ、および1957年のPH ルーヴルと密接な関係を持つ。また、初期のコントラストランプにも形態的類似性が認められる。これらの作品に共通するのは、複数のシェードを水平に配列し、光源を完全に遮蔽しながらも周囲に豊かな光を拡散させるという設計思想である。スノーボールという名称は、その純白の球形シルエットが雪玉を想起させることに由来し、北欧の冬景色を思わせる詩情を湛えている。
エピソード
1958年、デンマーク装飾美術館において「Glass, Light and Colour」と題された展覧会が開催された。ポール・ヘニングセンはこの展覧会に向けて、PH アーティチョーク、PH 5、そしてPH スノーボールという三つの革新的な照明器具を発表した。PH アーティチョークはコペンハーゲンのモダニズム建築レストラン「ランゲリニエ・パビリオン」のために設計され、PH 5は後にルイスポールセン史上最も売れた製品となる運命にあった。しかしながら、同じ展覧会で発表されたPH スノーボールは、これら二つの華やかな作品の影に隠れ、特段の注目を集めることなく終わった。
それから25年の歳月が流れた1983年、ルイスポールセン社はこの忘れられた傑作を再発見し、正式な製品ラインナップに加えることを決定した。図面の再検討と製造技術の確立を経て、ようやくスノーボールは世に送り出されることとなった。ヘニングセンは1967年に他界しており、自らの作品が製品化される姿を目にすることは叶わなかったが、その設計思想の純粋さと普遍性は、時代を超えて評価されることとなった。
2018年にはPH アーティチョーク、PH 5とともに発表60周年を迎え、ルイスポールセン社は記念エディションを発売。2025年には新色としてダスティブルー、ダスティグリーン、ソフトホワイトが追加され、真鍮メタライズドフレームとの組み合わせも選択可能となった。四分の一世紀以上の眠りを経て蘇ったこの照明は、今もなお新たな表情を獲得し続けている。
評価
PH スノーボールは、ポール・ヘニングセンの照明哲学を凝縮した傑作として、デザイン史において確固たる地位を築いている。「形態は機能に従う」というモダニズムの原則を忠実に体現しながらも、その彫刻的な美しさは純粋な芸術作品としての鑑賞にも堪える。ルイスポールセン社のコレクションにおいて、PH アーティチョーク、PH 5と並ぶアイコニックな存在として位置づけられている。
住宅のダイニングテーブルやリビングスペース上方への設置はもとより、高天井の空間や階段室においても優れた照明効果を発揮する。ホテルやレストランなどの商業空間においても、その格調高い佇まいは洗練された雰囲気の演出に貢献する。グレアフリー設計による目に優しい光は、長時間の滞在を前提とした空間において特に真価を発揮する。
発表から半世紀以上を経た現在においても、PH スノーボールの設計思想は色褪せることなく、むしろ現代のインテリアデザインにおいて新たな文脈で再解釈されている。温かみのある人間的な空間づくりが求められる今日、ヘニングセンが追求した「光と人間の関係性」への深い洞察は、ますますその重要性を増している。
ポール・ヘニングセンについて
ポール・ヘニングセン(1894-1967)は、コペンハーゲンに生まれたデンマークの建築家、デザイナー、文筆家、文化批評家である。母は著名な女優アグネス・ヘニングセン。フレデリクスベアの工業学校およびコペンハーゲン工科大学で学んだ後、機能主義建築家としてキャリアを開始したが、次第に照明デザインへと関心を移していった。
1907年に初めて電気照明を目にして以来、ヘニングセンは生涯をかけてこの新しい光源の「馴致と洗練」に取り組んだ。1924年にルイスポールセン社との協働を開始し、1925年から26年にかけて、パリ万博のために革新的な三層シェードシステムを開発。眩しさを軽減しつつ照明効果を高めるこのシステムは、その後の全作品の基盤となった。ルイスポールセン社との協力関係は彼の死まで続き、PH 5、PH アーティチョーク、PH スノーボールをはじめとする数々の名作を世に送り出した。光の構造、影、眩しさ、色の再現性に関する彼の先駆的研究は、今日においてもルイスポールセン社の照明哲学の根幹を成している。
基本情報
| 製品名 | PH Snowball / PH スノーボール |
|---|---|
| デザイナー | Poul Henningsen(ポール・ヘニングセン) |
| デザイン年 | 1958年 |
| 製品化 | 1983年 |
| メーカー | Louis Poulsen(ルイスポールセン) |
| 製造国 | デンマーク |
| カテゴリー | ペンダントランプ |
| サイズ | 直径400mm × 高さ390mm |
| 重量 | 約3.5kg |
| 素材 | シェード:スパンアルミニウム(ラッカー仕上げ) フレーム:ダイキャストアルミニウム(ハイラスタークロームメッキ) ハウジング:スパンアルミニウム(ハイラスタークロームメッキ) |
| 仕上げ | シェード上面:光沢仕上げ シェード下面:マット仕上げ |
| カラーバリエーション | ホワイト/クローム、ソフトホワイト/真鍮メタライズド、ソフトホワイト/クローム、ダスティグリーン/真鍮メタライズド、ダスティグリーン/クローム、ダスティブルー/真鍮メタライズド、ダスティブルー/クローム |
| 光源 | LED 44W(3000K、894ルーメン)または E26/E27電球対応 |
| 保護等級 | IP20(屋内用) |