概要

プルーストの肘掛け椅子(Poltrona di Proust)は、アレッサンドロ・メンディーニが1978年に発表した椅子である。18世紀様式を模して量産された既製のアームチェアを買い求め、木部と張り地の区別なく全体を多色の点で手描きした。形は一切いじらず、表面だけを設計の対象とする。

当初はスタジオ・アルキミアの活動として1点ずつ制作された。現在はカッペリーニが木製フレームの手描き版を、マジスが回転成形によるポリエチレン版を生産している。一般的に、イタリアのポストモダンデザインを代表する作例の一つとして扱われている。

特徴・コンセプト

形を新しく作らない

この椅子の形は、メンディーニが描いたものではない。ヴェネト地方で見つけた、18世紀の様式を模した安価な既製品をそのまま用いている。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は所蔵品の素材を「手で彩色したレディメイド」と記録しており、設計者が加えたのは彩色だけで、構造や輪郭には手を触れていない。

メンディーニはこの手法を「リ・デザイン」と呼んだ。すでに存在する形を選び直し、その上に装飾を重ねることで別の物に変える。新しい形を生み出すことを設計の中心に置いてきた近代デザインに対し、形を作らないことで設計とは何かを問い直す姿勢がここにある。

絵画の点を家具に移す

表面を覆う多色の点は、19世紀末の新印象派の画家ポール・シニャックの点描画の一部を拡大したものに由来する。V&Aの記録によれば、シニャックの絵をスライドで椅子に投影し、その上から点を直接描き込むという方法がとられた。

点は木部の彫刻にも張り地にも同じ密度で置かれる。素材ごとに仕上げを変える通常の家具とは逆に、木と布という素材の違いが点の連続の中で見分けにくくなり、椅子の輪郭そのものがぼやける。既製品の形が持つ意味を、色の層で覆い隠す手法である。

名称と発想

名称はフランスの作家マルセル・プルーストにちなむ。メンディーニはプルーストを読んだ印象から、この作家が座ったであろう椅子を想像し、同時代の絵画である点描を装飾に選んだ。既製の形、既存の絵画、文学からとった題名という三つの引用を組み合わせて一つの物を作るこの方法は、V&Aによってポストモダンに典型的な設計手法と説明されている。

エピソード

フェラーラの展覧会のために

最初の1点は、1978年にフェラーラのディアマンティ宮で開かれた展覧会「Incontri ravvicinati di architettura(建築との遭遇)」のために制作された。アンドレア・ブランジとエットレ・ソットサスが企画したこの展覧会の一室「Sala del Secolo(世紀の部屋)」に置く家具として作られ、当初は1点限りの作品として構想されていた。

彩色は画家のプロスペロ・ラズーロとピエラントニオ・ヴォルピーニが担当した。メンディーニが投影した絵柄と色に従って点を置いていく作業で、最初の数点はこの二人の手による。

1点ものから量産へ

発表後、スタジオ・アルキミアの活動として同じ方法で少数が制作された。手描きのため同じ絵柄の個体はなく、いずれも1点ものである。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の所蔵品は、この時期にミラノで制作されたものである。

その後、木製フレームの手描き版はカッペリーニが引き継いだ。手彫りのブナ材フレームに手で点を描き、張り地には同じ絵柄を印刷した生地を用いる。1点ずつ塗るという工程の一部を印刷に置き換えることで、継続的な生産を可能にした。2009年には、点描ではなく大きな色面で覆う「プルースト・ジェオメトリカ」が同社から加わっている。

2011年にはマジスが回転成形のポリエチレン製の版を発売した。手描きの装飾を前提にした椅子が、金型による工業製品になった形である。単色の各色に加え、点描の絵柄を再現した仕様もあり、屋外でも使用できる。メンディーニ自身は、これを逆説が現実になったものと述べている。

評価と影響

一般的に、1970年代末のイタリアで機能主義への反動として起きたラディカル・デザインから、1980年代のポストモダンへの移行を示す作例として扱われている。既製品の選択と装飾の重ね合わせによって設計を成立させる方法は、その後のメンフィスをはじめとする動きの前段に位置づけられることが多い。

発表から40年以上を経て、手描き版と樹脂版の両方が現行品として生産されている。

受賞・収蔵

ニューヨーク近代美術館(MoMA)が収蔵している(Poltrona di Proust armchair、1978年、収蔵番号 965.2016)。

ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)が収蔵している(Poltrona di Proust、1978年設計、収蔵番号 W.9-2012)。

基本情報

デザイナー アレッサンドロ・メンディーニ
ブランド カッペリーニ(木製・手描き版)、マジス(ポリエチレン版)
初期製作 スタジオ・アルキミア
発表年 1978年
デザインの成立国 Italy
主要素材 カッペリーニ版: 手彫り・手描きのブナ材フレーム、ポリウレタンフォーム、多色プリントの張り地
マジス版: 回転成形ポリエチレン
サイズ カッペリーニ版: W1050 × D930 × H1090mm、座面高420mm

Reference

Poltrona di Proust | Mendini, Alessandro | V&A Explore The Collections
https://collections.vam.ac.uk/item/O1247425/
Alessandro Mendini. Poltrona di Proust armchair. 1978 | MoMA
https://www.moma.org/collection/works/206491
Proust by Alessandro Mendini - Armchairs | Cappellini
https://www.cappellini.com/fr/en/products/proust.html
Proust Geometrica by Alessandro Mendini - Armchairs | Cappellini
https://www.cappellini.com/ww/en/products/proust-geometrica.html
Magis Proust - Now available | Magis S.p.A.
https://www.magisdesign.com/magis-proust-ora-disponibile/
Poltrona Proust - Alessandro Mendini con Alchimia | Google Arts & Culture
https://artsandculture.google.com/asset/proust-armchair-alessandro-mendini-with-alchimia/GwHdw59mMmBDcw