チューブチェア

1969年にイタリアのデザイナー、ジョエ・コロンボが発表したチューブチェアは、従来の椅子という概念を組み替えた座具である。異なる直径をもつ4本の中空シリンダーを金属フックで連結し、アームチェアにもシェーズロングにも構成できる。半世紀を経た現在も、モジュラーデザインの先駆的な作品として、ミラノ・トリエンナーレ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館の永久コレクションに収蔵されている。

概要

チューブチェアは、ジョエ・コロンボが1960年代後半に追求した「脱構築的な家具」の考え方を形にした作品である。脚、座面、背もたれといった固定的な要素を解体し、径の異なる4本のチューブに還元した。各チューブはポリウレタンフォームで内張りされ、バイエラスティック生地またはレザーで覆われる。金属製のフックで相互に連結することで、座面の高さや背もたれの角度を自由に構成できる。

オリジナルはフレックスフォーム社が製造したが、長らく生産が途絶えていた。2016年にカッペリーニ社がコンテンポラリー・エディションとして復刻し、現行版は回転成形によるポリプロピレン製のチューブを採用している(オリジナルはPVC製)。オリジナルのデザイン特性は保たれている。

特徴・コンセプト

チューブチェアの核心は「可変性」にある。コロンボは1960年代イタリア社会の変化――都市生活の流動化、住空間の縮小、ライフスタイルの多様化――に応えるべく、単一の用途に固定された家具ではなく、使い手の生活に適応する家具システムを志向した。

4本のチューブは入れ子状に収納でき、省スペースにも対応する。背もたれと座面は同一形状であるため、各要素は用途に応じて相互交換が可能である。このモジュラー構造により、アームチェア、シェーズロング、ラウンジソファなど多様な座のかたちが一つの製品から生まれる。

回転成形による一体構造

現行版の各チューブは、回転成形(ロテーショナルモールディング)によってポリプロピレンの中空体として一体成形される。この製法により継ぎ目のない構造体が得られ、軽量でありながら堅牢さを備えている。

脱構築的デザインの先駆

コロンボは椅子を「もの」ではなく「システム」として捉え直した。チューブチェアは、その後のモジュラー家具やトランスフォーマブルファニチャーの流れに影響を与えた作品として位置づけられている。

誕生と復刻

チューブチェアは、コロンボが1969年のヴィジオナ展で提示した「未来のリビングルーム」の中核的な要素として発表された。生産が途絶えていた本作について、2016年、カッペリーニのクリエイティブ・ディレクターであるジュリオ・カッペリーニは「この重要な作品をデザイン書の中だけに留めておくべきではない」との考えから復刻を決めた。ジュリオ・カッペリーニは本作を、コンテンポラリーデザイン史上のマイルストーンであり「最初のモジュラーソファ」であると位置づけている。

評価

チューブチェアは、20世紀イタリアンデザインにおけるモジュラー家具の代表例として国際的に評価されている。シェーズロングとカナペの境界を曖昧にする可変的な姿は、家具の概念そのものへの問いかけとして、デザイン評論で繰り返し取り上げられてきた。

ミラノ・トリエンナーレ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館の永久コレクションに収蔵されていることは、本作がデザイン史における持続的な価値を有することを示している。コロンボの先見的なモジュラーデザインの思想は、現代のトランスフォーマブルファニチャーの源流として、改めて注目を集めている。

基本情報

正式名称 チューブチェア / Tube Chair
デザイナー ジョエ・コロンボ / Joe Colombo(イタリア、1930–1971)
デザイン年 1969年
製造ブランド Cappellini(カッペリーニ)※2016年復刻版。オリジナルはFlexform社製
製造国 イタリア
素材 ポリプロピレン(4本の異径チューブ/現行版)、ポリウレタンフォーム、金属フック
張地 バイエラスティック生地またはレザー
サイズ(アームチェア構成時の目安) W約115 × D約62 × H約66.5 cm(構成により変化)
カラーバリエーション ブラック、ホワイト、イエロー、ターコイズ、オレンジ(バイエラスティック生地)
製法 回転成形(ロテーショナルモールディング)
構造 モジュラー構造(4本のチューブを金属フックで連結、入れ子式収納可能)
永久コレクション ミラノ・トリエンナーレ、MoMA(accession 470.1972)、メトロポリタン美術館