イームズ プラスチック アームチェア DAW ── 量産プラスチック椅子の原点

1950年、チャールズ&レイ・イームズ夫妻が世に送り出したプラスチック アームチェアは、家具史に決定的な転換をもたらした。それまで手工業的な生産に依存していた椅子のデザインを、工業的な大量生産の領域へと押し上げたこの一脚は、史上初の量産プラスチック椅子として知られる。DAW(Dining Height Armchair Wood Base)は、その有機的なシェルに木製のダウェルベースを組み合わせたモデルであり、温かみのある素材のコントラストが空間に穏やかな品格を添える。

誕生から75年以上を経た現在もなお、Vitra(ヨーロッパ・中東地域)およびHerman Miller(アメリカ・アジア地域)によって正規に製造が続けられており、2024年にはシートシェルの素材がリサイクルプラスチックへと刷新された。改良を重ねながらも、イームズ夫妻が掲げた「最大多数の人びとに、最良のものを、最低の価格で」という理念は、現在もこの椅子に受け継がれている。

概要

イームズ プラスチック アームチェア DAWは、一体成型されたシートシェルと木製ダウェルベースから構成されるダイニングハイトのアームチェアである。DAWの名称は「Dining Height Armchair Wood Base」の頭文字に由来し、イームズ夫妻が考案したモジュラーシステム──ひとつのシェルに多様なベースを組み合わせる手法──の代表的なバリエーションのひとつである。

メープルまたはアッシュ材のダウェルレッグとスチールロッドのクロスストラットからなる繊細な脚部が、プラスチックシェルを支える。ダイニングチェアとしての用途にとどまらず、書斎、リビング、カフェ、オフィスなど、幅広い空間において違和感なく溶け込む汎用性の高さは、このモデルの大きな魅力である。

特徴・コンセプト

イームズ プラスチック アームチェアの最大の特徴は、人体の輪郭に沿うように成型された一体型シートシェルにある。イームズ夫妻は1940年代から、人間の身体を包み込む単一素材の座面を追求し、合板やアルミニウムによる試作を繰り返した。しかし満足のいく結果が得られず、やがてガラス繊維強化ポリエステル樹脂(FRP)という、当時の家具業界では未知の素材に着目した。成型性、剛性、手触りの良さ、工業生産への適性というFRPの利点を最大限に活かし、量産可能なシェルデザインを確立したのである。

DAWにおけるウッドベースの採用は、工業素材と天然素材を調和させる選択である。「エッフェルタワー」の異名をとるワイヤーベース(DAR)の構造的な美しさとは異なり、ダウェルベースはメープル材の柔らかな表情によって、居住空間により親密な雰囲気をもたらす。スチールロッドのクロスストラットが構造的な強度を確保しつつ、木脚の温かみがプラスチックシェルのモダンな印象を和らげ、素材間の均衡が保たれている。

さらに2024年以降、Vitraではシートシェルの素材を家庭ごみから回収されたポストコンシューマーリサイクルプラスチックへと転換した。これにより従来の石油由来ポリプロピレンに比べ、気候変動に影響を与える排出量を低減し、一次エネルギー消費も大幅に削減している。リサイクル素材の特性により、特に淡色のシェルには微細な色素の斑点が現れるが、これは環境配慮の証として新たなテクスチュアの魅力ともなっている。

エピソード

イームズ プラスチック チェアの原型は、1948年にニューヨーク近代美術館(MoMA)が主催した「ローコスト家具デザイン国際コンペティション」に出品された作品にさかのぼる。チャールズ・イームズは、この以前にもエーロ・サーリネンと共同で1940年のMoMA「オーガニック・デザイン・イン・ホーム・ファニッシングス」コンペに参加しており、成型合板を用いた有機的なフォルムの椅子を提案していた。しかし当時の技術では、複雑な三次元曲面を合板で量産することは困難であった。

この経験を経て、イームズ夫妻はFRPという新素材に可能性を見出した。Zenith Plastics社との協業により、1950年にプラスチック アームチェア(Aシェル)とプラスチック サイドチェア(Sシェル)が市場に投入された。これらは家具史上初の量産プラスチック椅子として記録され、同時にひとつのシェルに複数のベースを組み合わせるという新たな家具の類型を世界に示した。

その後、FRP素材の環境負荷が問題となり、1990年代に一度生産が中止された。のちにポリプロピレン素材による復刻が実現し、VitraとHerman Millerの両社が生産を続けている。2015年には、現代人の平均身長の増加に対応するため座面高が引き上げられ、座面形状も微調整された。そして2024年には、シートシェルの素材がリサイクルプラスチックへと切り替えられた。

評価

イームズ プラスチック アームチェアは、20世紀デザインを代表する一脚として国際的に高く評価されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されているほか、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館をはじめとする世界各地の美術館・博物館においても所蔵されている。

1985年、アメリカ工業デザイナー協会(IDSA)はイームズ夫妻に「20世紀最も影響力のあるデザイナー」の称号を授与した。プラスチック チェアは、その独創的な製造手法とデモクラティックなデザイン思想により、インダストリアルデザインの教科書において必ず言及される存在となっている。量産品でありながら美的価値を損なわないという命題に対する回答として、今日なお多くのデザイナーにとっての規範であり続けている。

受賞歴・主な所蔵

  • 1948年 MoMA「ローコスト家具デザイン国際コンペティション」入選
  • ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵
  • ヴィトラ・デザイン・ミュージアム所蔵
  • 1985年 IDSA「20世紀最も影響力のあるデザイナー」(チャールズ&レイ・イームズ)
  • Vitra正規品:10年保証付き(GS認証取得、耐荷重110kg)

基本情報

正式名称(日本語) イームズ プラスチック アームチェア DAW
正式名称(英語) Eames Plastic Armchair DAW(Dining Height Armchair Wood Base)
デザイナー Charles & Ray Eames(チャールズ&レイ・イームズ)
国籍 アメリカ
デザイナー生没年 Charles Eames(1907–1978)/ Ray Eames(1912–1988)
デザイン年 1950年
製造ブランド Vitra(ヨーロッパ・中東地域)/ Herman Miller(アメリカ・アジア地域)
製造国 ドイツ(Vitra)/ アメリカ(Herman Miller)
素材(シェル) 原液着色リサイクルポリプロピレン(100%リサイクル可能)
素材(ベース) メープル材またはアッシュ材(ステイン仕上げ+ラッカー塗装)、スチールロッドクロスストラット(ベーシックダーク)
サイズ(Vitra) W630 × D600 × H830 mm / 座面高 430mm / アーム高 675–690mm
サイズ(Herman Miller) W625 × D600 × H805 mm / 座面高 415mm
耐荷重 110kg(GS認証基準)
カラーバリエーション シェル:コットンホワイト、ペブル、アイスグレー、グラナイトグレー、ディープブラック、マスタード、シトロン、ラスティオレンジ、ポピーレッド、ペールローズ、シーブルー、エメラルド、フォレスト 等
ベースバリエーション メープル(イエローイッシュ/ダーク/ブラック)、アッシュ(ハニートーン)
オプション シートクッション(シェルにネジ留め)、フルアップホルスター(ポリウレタンフォーム+ファブリック)、各種グライズ(フェルト付き/プラスチック)
保証 Vitra:10年保証 / Herman Miller:5年保証
スタッキング 不可