概要

アントチェアは、アルネ・ヤコブセンが1952年に発表したスタッキングチェアである。座面と背もたれを1枚の成形合板で成形し、細いスチールパイプの脚に載せる。1952年10月にフリッツ・ハンセンから発表され、最初に使われたのはフレデリクスベアにあるノボ・テラピュティスク・ラボラトリウム(現ノボ・ノルディスク)の新しい社員食堂であった。オリジナルは3本脚で、型番は3100である。

特徴・コンセプト

1枚のシェルで背と座をつくる

座面と背もたれを別の部材にすれば、両者をつなぐ金物や枠が必要になる。アントチェアは、二方向に曲がる曲面を1枚の合板で成形することで、背と座を継ぎ目なくつないだ。この二重の曲率が、平らな板では得られない剛性を生み、支える枠を省くことを可能にしている。部材が減れば重量も減り、椅子は片手で持ち運べる軽さになる。

背もたれのくびれは、曲率が最も大きくなる位置にあたる。ここを細く絞ることで、成形時に無理のかかる面積を減らしている。構造上の要請から決まった輪郭が、結果として頭をもたげた蟻の姿を思わせるかたちになった。

積層の構成

シェルは9層の突板を圧着して成形される。層のあいだには綿布が挟まれ、木の繊維方向の違いから生じる割れを抑える。積層と圧着の組み合わせにより、曲面を保ちながら体重に応じてわずかにしなる。仕上げは天然木の突板、着色アッシュ、ラッカーから選べる。

3本脚という選択

オリジナルは前1本・後2本の3本脚である。脚の数を減らせば、テーブルの下に椅子を寄せたときに脚どうしがぶつかりにくく、着座者の足も引っかかりにくい。丸テーブルの周囲に多くの椅子を並べる食堂では、この差が使い勝手に直接効く。のちに安定性を求める用途に向けて4本脚の3101が加わり、現在は両方が生産されている。積み重ねができるため、使わないときにまとめて片付けられる。

エピソード

ヤコブセンは1930年代からノボ社の建築を手がけており、アントチェアはその一環として社員食堂のために設計された。フリッツ・ハンセンは当初、この形の椅子が売れるかどうかを判断しかねていたが、ノボ社からまとまった数の注文が入ったことで生産に踏み切ったと伝えられている。

1952年10月の発表から3年後、ヤコブセンは同じ製法を発展させたセブンチェア(3107)を発表した。アントチェアは、その後のシェルチェアの出発点にあたる。

評価と影響

背と座を1枚のシェルで成立させる方法は、以後の量産椅子で広く用いられるようになった。発表から70年以上を経て生産が続いており、ヤコブセンにとっては国際的に知られるきっかけとなった仕事でもある。

美術館コレクション

ニューヨーク近代美術館は、成形合板とクロームメッキ鋼管による椅子を収蔵番号140.1955.1-2で登録している(1955年、リチャーズ・モーゲンソー社からの寄贈。同館の登録名は「Stacking Side Chair」、制作年は1951年と記録されている)。メトロポリタン美術館も同型を収蔵番号1984.265.2で登録している。

基本情報

名称 アントチェア(アリンコチェア)3100 / Ant Chair
デザイナー アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)
ブランド フリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)
発表年 1952年
デザインの成立国 デンマーク
分類 ダイニングチェア/スタッキングチェア
シェル 9層の突板を圧着した成形合板(層間に綿布)
脚部 スチールパイプ(クロームメッキまたは粉体塗装)/3本脚が3100、4本脚が3101
サイズ 幅51cm × 奥行51cm × 高さ77cm、座面高44cm
スタッキング
収蔵 ニューヨーク近代美術館(140.1955.1-2)、メトロポリタン美術館(1984.265.2)

Reference