概要

バルセロナ コレクションは、1929年のバルセロナ万国博覧会ドイツ館のためにルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが手がけた家具を起点とする製品群である。交差する金属のフレームと、正方形に区切った革のクッションという構成を共有し、チェア、オットマン(スツール)、デイベッドで構成される。

ドイツ館は博覧会の終了後に解体され、7か月ほどしか存在しなかったが、そこに置かれた家具は現在まで生産が続いている。ミース・ファン・デル・ローエは1953年にノル社へチェアとスツールの製造販売権を与えており、以後同社が一貫して製造している。

共通する設計原理

コレクションを貫くのは、支持構造を隠さずに見せる姿勢である。チェアとオットマンでは、二本の帯状の金属材が交差してX字を描き、その交点で前脚と後脚が入れ替わる。デイベッドでは水平方向に長く伸びたフレームと細い脚がこれに対応する。いずれも構造材の輪郭がそのまま製品の輪郭を決めている。

座面と背には、正方形に裁った革を縫い合わせたクッションが用いられる。1枚の革から取ったパネルを手作業で接ぎ、縫い目に玉縁を入れ、角をボタンで留めて面をつくる方法は全点で共通する。フレームには本革のストラップが渡され、クッションを下から支える。

金属部は、初期のノル社製がステンレス鋼のバーを手作業で研磨したものだったのに対し、現行品は鏡面に磨いたクロムめっきを用いる。ノル社の製品にはブランドのロゴとミース・ファン・デル・ローエの署名が刻印される。

成立と展開の経緯

ミース・ファン・デル・ローエは、1929年の万国博覧会でドイツ館の設計を担当した。館内にはスペイン国王夫妻が開会式で立ち寄る場が想定されており、そのための椅子とオットマンが用意された。交差するフレームの着想は古代ローマの折りたたみ椅子にあるとされるが、これは伝承として語られているもので、一次資料による裏づけがあるわけではない。

翌1930年には、同じ造形言語を水平方向に展開したデイベッドが設計されている。ノル社が製造販売権を得たのは1953年で、対象はチェアとスツールだった。同社はその後デイベッドを含む形でコレクションとして扱っている。

なお、ドイツ館の内装はリリー・ライヒとの協働によるものであり、近年ではバルセロナチェアを含む家具についてもライヒの関与を認めるべきだとする議論がある。ノル社の製品表記はミース・ファン・デル・ローエ単独としているが、デザイン史の研究では共同設計として扱う例が増えている。

メンバー一覧

発表年 区分 製品名 位置づけ
1929年 チェア バルセロナチェア コレクションの起点。ドイツ館のために設計された。
1929年 オットマン バルセロナオットマン チェアと対で用意されたスツール。同じX字のフレームを低く展開する。
1930年 ベッド バルセロナ デイベッド 翌年に設計された寝椅子。同じクッション構成を水平方向に伸ばしている。

評価と影響

ドイツ館は近代建築の代表的な作品として扱われており、そこに置かれた家具も同様に評価されてきた。工業素材である金属を、装飾を加えずに造形の主役として用いた点は、以後の家具設計に広く参照されている。

一方で、需要の大きさから多数のリプロダクトが流通しており、正規品はノル社の刻印と製造仕様によって識別される。

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA バルセロナチェア(1929年設計、1953年の個体) 収蔵番号 552.1953
  • MoMA バルセロナオットマン(1929年設計、1976年の個体) 収蔵番号 415.1976
  • MoMA カウチ(1930年設計、1976年の個体。デイベッドにあたる) 収蔵番号 416.1976
  • V&A バルセロナチェア(1929年) 収蔵番号 CIRC.84:1-1969
  • AIC バルセロナチェア(MR 90、1929年設計、1957年の個体) 収蔵番号 1984.719

3点すべてが揃っているのはMoMAで、いずれもノル社からの寄贈による。Met(メトロポリタン美術館)では該当する収蔵は確認できなかった。

基本情報

デザイナー ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(リリー・ライヒとの協働)
ブランド ノル
共通構造 交差させた帯状の金属フレームと、革のストラップで支えるクッション
共通素材 金属フレーム、本革のクッション
金属仕上げ 鏡面研磨のクロムめっき(初期はステンレス鋼のバー)
製造権 1953年にチェアとスツールの製造販売権をノル社へ供与

Reference

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