ゴールデンベル (A330S) ── アアルトが手がけたベル型ペンダントライト
「ゴールデンベル」の愛称で知られるペンダントライトA330Sは、1936年、アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトがヘルシンキの高級レストラン「サヴォイ」の内装のためにデザインした照明器具である。接合部を持たない一枚の真鍮またはスチールから手作業で成形されるベル型のシェードが特徴で、点灯時も消灯時も彫刻のような佇まいを見せる。誕生から約90年を経た現在も、Artek(アルテック)によってフィンランドで製造が続けられている、北欧モダンデザインを代表する照明の一つである。
デザインの特徴とコンセプト
ゴールデンベルの最大の特徴は、継ぎ目のない一枚の金属板から手作業で成形される流麗なベル型のフォルムにある。アアルトは「照明は明かりが灯っているときも消えているときも美しくなければならない」という信念を持っており、その考え方がこのランプにも反映されている。シェードの下端には小さな穴が連続するパーフォレーション(穿孔)が施されており、ここから漏れる光がシェードの周囲に柔らかな光の輪(ハロー効果)を生み出す。この穿孔は眩しさを抑えるグレア防止の役割も兼ねており、美と実用を両立させるアアルトの設計思想を示すディテールである。
シェード内面はホワイト塗装(ブラス仕上げのモデル)もしくは素材そのままの仕上げ(サヴォイ・エディション)とされ、光源からの光を効率的に反射・拡散させることで、温かみのある柔和な光を空間に届ける。ブラス仕上げのモデルでは、真鍮特有の黄金色の輝きがシェード外面に反射し、「黄金の鐘」の名にふさわしい光を見せる。その簡潔なフォルムは、北欧モダニズムの機能主義と有機的な造形美を両立させている。
誕生の物語 ── サヴォイレストランとパリ万博
1936年、ヘルシンキのエテラエスプラナーディ通りに面する商業ビル「インダストリアル・パレス」の最上階に、新たな高級レストラン「サヴォイ」の開業が計画された。その内装デザインの一切をアルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトが委嘱され、家具、照明、テキスタイル、食器に至るまでを統合的にデザインした。ゴールデンベルはこの空間のために生み出されたペンダントランプであり、同じく内装のためにデザインされた「サヴォイ・ベース」(アアルト・ベース)とともに、レストラン全体の有機的な調和を形づくる重要な要素であった。
サヴォイレストランは1937年に開業し、以来、フィンランドの政財界の社交場として名声を博してきた。かつてフィンランドの指導者マンネルヘイム元帥が常連客としてテーブルを構えた由緒ある空間には、開業当初のオリジナルのゴールデンベルが現在もなお灯り続けている。また、開業と同じ1937年には、パリ万国博覧会のフィンランド・パビリオンにおいてもA330Sが展示され、国際的な評価を得る端緒となった。
A330SとA330 ── 二つのゴールデンベル
Artekのカタログにおいて、ゴールデンベルにはA330とA330Sの二つの型番が存在する。A330はセグメント(分割構造)を持つオリジナルのデザインであり、A330Sはそれを一枚のシームレスな金属で再構成した簡潔なバージョンである。「S」はSimplified(簡略化)を意味するとされ、1950年代にアアルトがユヴァスキュラ大学をはじめとする大規模建築プロジェクトのために展開した派生型である。今日、一般的に「ゴールデンベル」として広く流通しているのは、このA330Sモデルである。
サヴォイ・エディション ── 80周年記念の真鍮回帰
2017年、サヴォイレストラン開業80周年を記念して、Artekは「A330S ゴールデンベル サヴォイ」を発表した。このエディションは、外面に研磨を施した無塗装の真鍮を用い、内面も無塗装のまま仕上げるという、オリジナルに最も近い仕様で製作されている。塗装を施さない真鍮は、時間の経過とともに空気中の酸素や湿気と反応して美しいパティナ(経年変化による酸化被膜)を形成し、使い込むほどに深みのある表情へと変化していく。サヴォイレストランに80年以上灯り続けるオリジナルが醸し出す風格を、自宅の空間でも追体験できる特別なモデルである。
評価と影響
ゴールデンベルは、北欧モダンデザインの初期を代表する照明器具として広く知られている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションにアアルトの作品が多数収蔵されていることが示す通り、その造形は芸術作品としての評価も高い。MoMAでは1938年の「Alvar Aalto: Architecture and Furniture」展をはじめ、複数の企画展においてアアルトのデザインが取り上げられてきた。
ゴールデンベルの意義は、単なる照明器具にとどまらず、建築と照明デザインを有機的に結びつけた点にある。アアルトが手がけた照明器具の中でも、そのコンパクトなプロポーションと普遍的な美しさから、住宅照明としても広く親しまれてきた。約90年にわたり同一メーカーで生産が続いているという事実は、このデザインの完成度の高さを示している。
基本情報
| 正式名称 | ペンダントライト A330S "ゴールデンベル" / Pendant Light A330S "Golden Bell" |
|---|---|
| デザイナー | アルヴァ・アアルト / Alvar Aalto(1898–1976)、アイノ・アアルト / Aino Aalto(1894–1949) |
| 国籍 | フィンランド |
| デザイン年 | 1936年 |
| ブランド | Artek(アルテック) |
| 製造国 | フィンランド |
| 分類 | ペンダントライト |
| 素材 | 真鍮(ブラス仕上げ・サヴォイ)、スチール(ブラック・ホワイト・クローム仕上げ) |
| サイズ | シェード:φ170 × H200mm |
| 重量 | 約0.7kg |
| コード長 | 約250cm(日本仕様:全長約1000mm、引掛シーリング対応) |
| 光源 | E26口金 LED電球 40Wタイプ対応(LED電球付属) |
| カラーバリエーション | ブラス(クリア塗装)、サヴォイ(無塗装ブラス)、ブラック、ホワイト、クローム |
| 参考価格(税込) | 約68,200円〜82,500円(仕上げにより異なる) |