アルビーニ ヴェリエーロ ブックケースが長く愛される理由——張力で棚を支える、自邸のための実験

1940年、フランコ・アルビーニはミラノの自邸のために一台の本棚を作った。ステンレススチールのタイロッドの張力でガラス棚板を保持するこの構造は、通常の本棚が部材の圧縮で荷重を受けるのとは逆の考え方に立つ。イタリア語で「帆船」を意味する「Veliero(ヴェリエーロ)」の名は、帆船の索具に似た斜材の見え方に由来する。作られたのは一台のみで、量産の計画はなかった。

この一点物を製品として成立させるため、カッシーナは長期の研究開発を行い、2011年に「I Maestri(イ・マエストリ)」コレクションのモデル838として生産を開始した。張力の管理とガラスの安全性を現代の基準で解決しつつ、オリジナルの見え方を保っている。本ページでは、正規品の仕様、類似するブックシェルフとの比較、空間への取り入れ方、メンテナンス、購入先を整理する。

正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材

ヴェリエーロは、カッシーナが2011年から生産する復刻版(モデル838)として、現在も正規品が入手可能である。オリジナル(1940年)はアルビーニの自邸のために作られた一点物であった。カッシーナは長期にわたる研究開発を経て、この構造を量産可能な製品へと落とし込んでいる。

正式名称 838 Veliero(ヴェリエーロ)ブックケース / 838 Veliero Bookcase
デザイナー フランコ・アルビーニ(Franco Albini, 1905–1977 / イタリア・ロッビアーテ生まれ)
オリジナルデザイン年 1940年(ミラノの自邸のために設計。一点物)
復刻年 2011年(カッシーナ I Maestri コレクション)
製造ブランド カッシーナ(Cassina S.p.A. / イタリア・メーダ)
コレクション I Maestri(イ・マエストリ)——20世紀の巨匠の作品を正規復刻するカッシーナの歴史的コレクション
製造国 イタリア
生産状況 現行生産品。カッシーナ正規ディーラーにて受注可能
垂直支柱 アッシュ無垢材(ナチュラルステイン仕上げ)。先端に真鍮キャップ。限定版:ブラックステインドアッシュ+ステンレススチールキャップ
タイロッド(外部斜材) ステンレススチール(直径4mm)。棚板支持のテンション構造を形成
アンカー要素 バーニッシュドアイアン(ロッド固定部)。中央ロッド:ポリッシュドブラス(真鍮磨き仕上げ)
棚板 強化合わせガラス(3mm + 3mm、エクストラクリア)。研磨エッジ仕上げ
棚板サポート アッシュ材、ポリッシュドブラス端部
棚板補強斜材 ポリッシュドブラス(真鍮磨き仕上げ)
ベース スチールフレーム、MDFパネル+アッシュ材カバー(厚さ1mm)、塗装チューブラーメタルフレーム
構造方式 テンション(引張)構造。帆船のマストとリギングに着想を得た張力による棚板支持。自立式(床置き。天井固定不要)
両面使用 可能。ルームディバイダーとしても機能
サイズ W2050mm × D550mm × H2660mm(W205cm × D55cm × H266cm / W80.7" × D21.9" × H104.7")
仕上げバリエーション ナチュラルステインドアッシュ(標準)、ブラックステインドアッシュ(限定版、ステンレススチールキャップ・エレメント)
参考価格帯(税込目安) 約33,000〜40,000 EUR(約530万〜640万円)。仕上げ・販売店により変動

類似商品・競合との比較

ヴェリエーロのリプロダクト品は流通していない。構造の特殊さと製造上の要求が高いことがその背景にある。同じカッシーナのコレクションに属するブックシェルフとの比較を整理する。

比較項目 アルビーニ 838 ヴェリエーロ(カッシーナ) アルビーニ 835 インフィニート(カッシーナ) 526 Nuage(シャルロット・ペリアン / カッシーナ)
デザイン年 1940年 1956-57年 1950年代
設計思想 張力で棚板を支える「不安定な均衡」。帆船の索具に着想した斜材の構成 モジュラー構造による「無限の構成」。工業的生産性と建築的空間構成の融合 非対称のユニットを自由に組み合わせる「自由な形」。壁面マウント式
主要素材 アッシュ無垢材、強化合わせガラス、ステンレススチール、真鍮 アッシュ材 / ウォールナット材。扉付き・フラップ付きユニット アルミニウム+木製ユニット
構造方式 テンション(引張)構造。自立式 支柱による構成。壁面配置が基本 壁面マウント(メタルブラケット)
両面使用 可能(ルームディバイダー機能) 壁面配置が基本 壁面配置が基本
拡張性 単体完結型 モジュラーによる水平・垂直拡張 コンポーネントの自由な組み合わせ
サイズ W205 × D55 × H266 cm 構成により可変 構成により可変
参考価格帯 約33,000〜40,000 EUR 構成により約5,000〜20,000 EUR 構成により約4,000〜15,000 EUR

選び方の指針

空間の中心に置く一台を求めるなら
ヴェリエーロが第一の候補となる。ガラス棚板が宙に浮いて見える引張構造、帆船の索具を思わせる斜材の網目、両面から使える間仕切りとしての機能——これらを併せ持つブックシェルフは他にほとんど例がない。ただし、W205 × H266cmという寸法を受け止める広さと天井高を持つ空間が前提となる。
機能的な収納量とモジュラーの柔軟性を両立させたいなら
同じアルビーニ設計の835インフィニートが向く。支柱に扉付きキャビネット、フラップ扉、棚板を組み合わせる構成で、収納量を確保しやすい。アッシュ材、ブラックステインドアッシュ、ウォールナット材から選べる。
壁面を活かした自由な収納を求めるなら
シャルロット・ペリアンの526 Nuage(カッシーナ)が候補となる。壁面にマウントしたユニットを非対称に組み合わせる構成は、アルビーニとは異なる方法で「軽さ」を扱っている。

使用感と暮らしへの取り入れ方

収納力と使い勝手

棚板は強化合わせガラス(3mm + 3mm)で、書籍やオブジェを載せられる。ただし引張構造のため一点に重量を集中させるのは避けたい。大量の重い書籍を詰め込むより、選んだ本や器物を見せる使い方に向く。両面から手が届くので、カッシーナが「家具化された窓」と呼ぶように、置いたものを裏側からも眺められる。

W2,050mm × D550mm × H2,660mmという寸法には、天井高2,700mm以上と、周囲に余白を取れる床面積が要る。

空間別のコーディネート提案

リビングルーム——ルームディバイダーとして
リビングとダイニング、あるいはリビングと書斎の間に置く。ガラスの棚板と細いタイロッドは視線を通すので、壁とは異なる緩やかな区切りになる。ル・コルビュジエのLC2/LC3ソファなど、同じカッシーナのI Maestri作品と合わせやすい。
書斎・ライブラリー——コレクションの舞台として
壁面に寄せ、書籍や画集を並べる。ガラスの棚板は本の下に影を落とさないため、通常の書棚より軽く見える。フロスのアルコやトイオなど、イタリアの名作照明と相性がよい。
エントランスホール・ギャラリー空間
エントランスに置き、棚板には花器や彫刻だけを配する。高さ2,660mmの構造体そのものが、置かれたものと同じくらい見られる対象になる。

経年変化とメンテナンス

素材の特性と経年変化

アッシュ無垢材(支柱・棚板サポート)
アッシュ材は経年で僅かに色味が深まる。紫外線による褪色を避けるため、直射日光の当たる位置は避けたい。ブラックステインド仕上げは色味の変化が少ない。
強化合わせガラス(棚板)
エクストラクリアの強化合わせガラスは、通常のガラスより緑味が少ない。経年での変色はほとんどないが、表面の細かな傷は蓄積する。端面は研磨仕上げである。
ステンレススチール・真鍮(金属部)
直径4mmのステンレススチール製タイロッドは腐食に強い。ポリッシュドブラスの中央ロッドと棚板の補強斜材は、経年でマットな金色に変わることがあるが、磨けば光沢は戻る。

メンテナンスの方法

ガラス棚板
柔らかい布とガラス専用クリーナーで拭く。指紋や埃は透明なガラス面で目立つ。研磨剤入りのクリーナーは避ける。
アッシュ材部分
柔らかい布での乾拭きが基本。汚れが気になる場合は、硬く絞った布で水拭きし速やかに乾拭きする。カッシーナ社が提供するケア&メンテナンスマニュアルに従い、木部専用のクリーナーまたはワックスを定期的に使用する。
真鍮部分
サテンフィニッシュおよびポリッシュドブラスは、専用の真鍮磨き剤で光沢を維持できる。マットペインテッドブラス仕上げの部分は、柔らかい布での乾拭きのみとし、研磨は避ける。
テンション構造の点検
タイロッドの張力は、載せた書籍やオブジェの重量、温湿度の変化により微細に変動する場合がある。異常な撓みや緩みを感じた場合は、カッシーナの正規ディーラーまたはメーカーに相談する。

どこで買うか:正規販売店と購入方法

ヴェリエーロはカッシーナの現行生産品であり、世界各地の正規ディーラーを通じて購入可能である。高度なテンション構造を持つ特殊な製品であるため、正規ルートでの購入と専門的な設置が強く推奨される。

正規販売ルート

カッシーナ公式サイト(cassina.com)
製品情報、2D/3Dデータ、技術シート、ケア&メンテナンスマニュアルを公開。オンラインでの見積り依頼や最寄りのショールームの検索が可能。
カッシーナ直営ショールーム
東京(青山)をはじめ世界主要都市にカッシーナ直営ショールームがあり、実物の確認と専門スタッフによるコンサルテーションが可能。日本国内ではカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)が正規販売を行う。
カッシーナ正規ディーラー
Luminaire(アメリカ)、Artemest(イタリア)、einrichten-design(ドイツ)、Breda Quaranta(イタリア)、Miliashop(イタリア)、SMETS(ルクセンブルク)など、世界各地の正規ディーラーで取り扱い。価格はディーラーにより異なるが、概ね33,000〜40,000 EUR(約530万〜640万円)が目安。
デザイン家具マーケットプレイス
Pamono、1stDibs等にカッシーナ正規品のヴェリエーロが出品される場合がある。出品者と来歴、保証の有無を確認したうえで検討したい。

購入時チェックリスト

  • カッシーナ正規品であることの確認(I Maestriコレクションの証明、シリアルナンバー)
  • 仕上げの選択確認(ナチュラルステインドアッシュ / ブラックステインドアッシュ限定版)
  • 設置場所の寸法確認(W2050mm × D550mm × H2660mm。周囲に十分な余白を確保)
  • 天井高の確認(H2660mm以上。2,700mm以上を推奨)
  • 床面の耐荷重確認(大型のスチール・ガラス構造物としての重量に対応する床面強度)
  • 搬入経路の確認(大型部材。エレベーター・階段・ドア幅の事前確認必須)
  • 配送・設置サービスの確認(専門的な組み立て・テンション調整が必要。カッシーナ正規の設置サービスを推奨)
  • 保証内容の確認(カッシーナ正規品の保証期間、対象範囲)
  • ケア&メンテナンスマニュアルの入手

配送・設置に関する注意事項

ヴェリエーロは高度なテンション構造を持つ大型のブックケースであり、組み立てにはタイロッドの適切な張力調整が不可欠である。カッシーナまたは正規ディーラーが提供するホワイトグローブ・デリバリー(専門スタッフによる搬入・組み立て・設置・テンション調整を含むフルサービス配送)の利用が強く推奨される。組み立て後の張力の微調整も含め、専門技術者による設置が製品の性能と安全性を担保する。

コーディネート事例

イタリアン・ラツィオナリズムスタイル

ヴェリエーロをリビングの中央に置き、同じI Maestriコレクションのル・コルビュジエLC2アームチェアやペリアンの526 Nuageと合わせる。アルビーニの「マルゲリータ」チェア(籐編み)を一脚加えると、スチールとガラスの硬さが和らぐ。

コンテンポラリー・ギャラリースタイル

白壁の空間にヴェリエーロを一台だけ置き、彫刻やオブジェを飾る。フロスのパレンテージやアルテミデのティツィオを添えると、斜材が壁に細い影の線を落とす。

ラグジュアリー・レジデンシャルスタイル

天井の高いリビングやライブラリーに、ブラックステインドアッシュ仕様を置く。黒い木部とステンレススチールの組み合わせは硬質な印象になる。ポルトローナ・フラウの革張りソファなど重量感のあるピースと並べると、ヴェリエーロの軽さが際立つ。

よくある質問

ヴェリエーロの価格はどのくらいですか?
カッシーナ正規品の参考価格は約33,000〜40,000 EUR(約530万〜640万円、税込目安)です。ナチュラルステインドアッシュが標準仕上げ、ブラックステインドアッシュが限定版として展開されています。販売店や地域により価格は異なりますので、最寄りのカッシーナ正規ディーラーにお問い合わせください。
どこで購入できますか?
カッシーナの現行生産品として、世界各地のカッシーナ直営ショールームおよび正規ディーラーで購入可能です。日本国内ではカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)が正規販売を行っています。東京・青山のショールームで実物をご確認いただけます。
実物を確認できる場所はありますか?
カッシーナ直営ショールーム(東京・青山、ミラノ、ニューヨーク、パリ、ロンドン等)で実物の確認が可能です。展示状況は時期により異なるため、事前にショールームへお問い合わせください。
設置は自分でできますか?
ヴェリエーロは引張構造の製品であり、タイロッドの張力調整が構造の安全性と見え方に直結します。カッシーナまたは正規ディーラーによるホワイトグローブ・デリバリー(搬入・組み立て・張力調整を含むフルサービス)の利用を強く推奨します。
リプロダクトはありますか?
ヴェリエーロのリプロダクト品は存在しません。テンション構造の高度な技術的要求と、カッシーナが保有するアルビーニ財団公認の製造権により、正規品以外の製造は行われていません。カッシーナI Maestriコレクションの正規品のみが唯一の選択肢です。
棚板にどの程度の重量を載せられますか?
テンション構造の性質上、棚板一枚あたりの耐荷重には制限があります。大量の重厚な書籍の収納よりも、厳選された書籍やアートオブジェの展示に適した設計です。具体的な耐荷重の数値については、カッシーナの技術シートまたは正規ディーラーにご確認ください。
天井高はどの程度必要ですか?
本体の高さがH2660mm(約266cm)であるため、最低でも天井高2,700mm以上が必要です。ヴェリエーロの存在感と周囲の余白を考慮すると、3,000mm以上の天井高を持つ空間でより美しく映えます。設置前に天井高の正確な計測を行ってください。
他に検討すべきデザイナーズブックシェルフはありますか?
同じアルビーニ設計のカッシーナ835インフィニートは、モジュラー構成による大容量収納が魅力です。カッシーナI Maestriコレクションでは、シャルロット・ペリアンの526 Nuageシリーズも壁面収納の名作として候補となります。テンション構造に惹かれる方には、ヴィトソエ606やUSMハラーのモジュラーシステムも、異なるアプローチで空間を構成する選択肢です。詳しくは収納家具カテゴリページをご覧ください。