ヴェリエーロ ブックケースは、フランコ・アルビーニが1940年に自邸のために設計した一点物の本棚である。イタリア語で「帆船」を意味する名のとおり、細いスチールのタイロッドが帆船の索具のように張り渡され、ガラスの棚板を支える。
アルビーニはこれを量産品として構想したわけではなく、自らの住まいのための実験として作った。長い研究開発を経て、2011年にカッシーナが製品化し、現在は同社の「I Maestri」コレクションに含まれている。
特徴・コンセプト
張力で支える構造
通常の本棚が部材の圧縮で荷重を受けるのに対し、ヴェリエーロは張力で棚板を保持する。二本のアッシュ材の支柱に、直径4mmのステンレススチール製タイロッドが斜めに渡され、その引張力が棚板を宙に浮かせているように見せる。カッシーナはこの状態を「不安定な均衡」と呼んでいる。
床から天井まで突っ張る方式ではなく、スチールフレームとアッシュ材で覆われたベースを持つ自立式である。両面から使えるため、壁付けだけでなく間仕切りとしても機能する。
素材の構成
支柱とベース、棚板を受ける横木にはアッシュ無垢材が用いられ、先端には真鍮のキャップが付く。棚板は強化合わせガラス、棚板を補強する斜材はポリッシュド仕上げの真鍮、ロッドの固定部はバーニッシュドアイアンである。木、ガラス、鋼、真鍮という四つの素材が、それぞれ担う力に応じて配置されている。
軽さという主題
ガラスの棚板は視線を遮らず、書物やオブジェだけが空中に置かれているように見える。部材を最小限まで削ったこの見え方が、アルビーニの設計を貫く関心事であった。空間を仕切りながら、視覚的には仕切らない。ヴェリエーロが家具でありながら建築的と評される理由はここにある。
誕生の背景
戦時下の限られた資材と空間のなかで、アルビーニは構造の実験を私的な住まいで試みたことになる。
カッシーナはこれを製品として成立させるために、張力の管理、ガラスの安全性、組立時の調整といった課題を順に解いた。オリジナルの構成と見え方を保ちながら現行の安全基準に適合させることが、復刻の主眼であった。
現在の評価
ヴェリエーロは、20世紀イタリアの家具設計における構造的実験の代表例として言及されることが多い。工業素材を用いながら重さを感じさせないという方向性は、後年のイタリア・デザインに繰り返し現れる主題となった。
カッシーナは現在、ナチュラルステインのアッシュ仕上げを標準とし、ブラックステインのアッシュにステンレススチール金具を組み合わせた仕様も展開している。高さ2,660mmという寸法のため、設置には相応の天井高と、専門技術者による張力調整を伴う組立が必要となる。
基本情報
| 名称 | 838 ヴェリエーロ ブックケース / 838 Veliero Bookcase |
|---|---|
| デザイナー | フランコ・アルビーニ / Franco Albini |
| デザイン年 | 1940年 |
| 復刻年 | 2011年 |
| メーカー | カッシーナ / Cassina(I Maestri コレクション) |
| 素材 | アッシュ無垢材、強化合わせガラス、ステンレススチール、真鍮 |
| 構造 | タイロッドによる引張構造。自立式・両面使用可 |
| サイズ | W2,050mm × D550mm × H2,660mm |
| 原産国 | イタリア |