概要
TAWARAYAは、梅田正徳が1981年に設計した家具である。四畳半にあたる広さの台に畳を敷き、四隅に立てた支柱へロープを渡してボクシングリングの枠を組む。1981年9月18日にミラノで開かれたメンフィスの第1回展で発表された、ポストモダン期を代表する製品の一つである。
座る、語らう、食べる、眠るといった行いを、仕切りを設けずに一つの面の上で入れ替える。外形は280cm角、高さ120cm。メンフィス・ミラノが現在も生産を続けている。
特徴・コンセプト
四畳半という外形
日本の住宅では、部屋の広さを畳の枚数で数える。梅田が選んだ四畳半は、日本の住まいとして成り立つ最小の広さにあたる。その一室では、食事も来客も就寝も同じ床の上で行われ、用途は時間とともに入れ替わる。この仕組みを部屋ではなく家具の寸法へ移したのが、この製品の出発点である。
当初の題名も寸法をそのまま指しており、図面には「Mobili "4 1/2"」と記されている。完成した外形は280cm角、高さ120cmで、家具というより小さな室に近い大きさになった。
リングの枠を借りた理由
梅田は、空間でありながら同時に家具でもあるものをつくろうとしたと記している。壁や建具を立てれば部屋になってしまうため、床に置くだけで内と外が分かれる構成が必要だった。四隅の支柱とロープは、高さのある境界をつくりながら面をふさがない。外からは内部の畳もクッションも見え、中に入った人の姿も隠れない。
リングという選択には、議論の場という含みもある。梅田はイタリアで暮らした間、広場で政治や経済や食べ物について言い合う人々をよく見ていた。その光景を踏まえ、知的な言い争いのための場としてこの枠を与えたと述べている。製造元の製品説明も、この家具を会話の比喩として位置づけている。
畳と化粧板を重ねる
床面には畳を敷き、台の縁は黒と白の縞のメラミン化粧板で覆う。化粧板は、メンフィスが台所や店舗の表面材から家具へ持ち込んだ工業材料である。素足で座る在来の床材と、印刷された工業的な表面材とを上下に重ねることで、東西どちらの系譜にも収まらない台をつくっている。
台の上には、絹を張ったクッション5枚と木のトレーが置かれる。クッションの色のぼかしは引き染めによる。支柱やロープの取り付けには金属とラッカー塗装の木部を用いる。1981年の展示で示された構成では、支柱の頂部に向きを変えられる照明が付いていた。
エピソード
ソットサスからの手紙
1980年、東京に戻っていた梅田のもとにエットレ・ソットサスから手紙が届いた。新しいグループの展覧会への参加を求めるもので、「新しいインターナショナル・スタイル」を掲げると書かれ、参加予定の設計者の名前と、ソットサス自身の素描が同封されていた。
梅田はその標語の定義を問うかわりに、同封された素描から意図を読み取り、ソットサスの色面と日本の在来の寸法・工法を組み合わせる方向を選んだ。案を送るにあたっては、ソットサスが等角投影の図を好むことを知っていたため、その形式で描いている。
四枚の図
送られたのは四枚の図で、同じ台がそれぞれ別の場として描かれている。一枚目は会話と宴の場。二枚目は節句や祭礼の場で、雛人形、鯉のぼり、七夕の笹が描き込まれている。三枚目は葬礼の場で、黒白の幕と祭壇が置かれる。四枚目は布団を敷いた寝床である。各図の四辺には、その場にふさわしい語がイタリア語と日本語で書き添えられた。
用途を一つに定めず、同じ床の上で入れ替えるという考えは、製品になる前のこの四枚の段階ですでに示されている。
名称の由来
梅田が付けた題名は「Furniture 4½」だった。ソットサスは展覧会の出品物に世界各地のホテルの名を与えており、この家具には、かつて自分が泊まった京都の旅館「俵屋」の名を当てた。梅田にとってこの台が指していたのは、最も安く借りられる部屋であり、誰のものでもない広場だったため、高級旅館の名は意外なものだったという。ソットサスの側では、名と物の対応が筋道立っている必要はなかった。
製作と発表
梅田の回想によれば、最初の個体は日本から送った畳を、彼が描いた詳細な図の指示に従ってイタリアの職人が台に張って仕上げた。当時のヨーロッパで畳を見たことのある人は少なく、オランダの柔道場で使われる程度だったという。
1981年9月18日、ミラノのコルソ・エウローパの会場で第1回展が開かれた。この家具は寸法が大きいことから部屋の中央に置かれ、開場には約2,000人が訪れた。梅田が最もよく憶えているのは、下ろしたての畳の匂いが会場に広がったことだったという。
会期中、リングの中に参加者が腰を下ろした写真が撮られた。この一枚は以後、メンフィスを紹介する図版として繰り返し使われている。
評価と影響
発表当時から、メンフィスの出品物のなかでも寸法と着想の点で注目され、20世紀のデザインを扱う書籍や展覧会で取り上げられることが多い。同じ展覧会で発表されたカールトン・ルームディバイダーなどが化粧板で覆った箱を組み上げるのに対し、こちらは床そのものを製品の一部として扱っている。
靴を履いたまま室内に入る欧州の生活と畳は合わないと、梅田は当初から考えていた。発表後、雑誌に載った所有者の室内写真では、靴のまま畳の上に立つ姿が写っていたという。梅田はこの写真を、作品が受け取られた最初の手応えとして書き残している。
生産は現在も続いている。2026年には、二畳分の寸法に縮めた「Tawaraya Ring 2×2」(216×216×96cm)がメンフィス・ミラノから発表された。日本では2026年7月に東京のギャラリーで製品版が公開されており、それ以前に国内で展示されたのは試作であったとされる。
収蔵
以下の収蔵が確認できる。
- 京都国立近代美術館 Tawaraya(俵屋)(1981–85年) 収蔵番号 Ot0004(1985年度寄贈)
- ニューヨーク近代美術館(MoMA) Tawaraya Ring(1981年) 収蔵番号 173.2026
このほか香港のM+には、梅田正徳アーカイブの一部として、この家具の素描と図面が収められている(整理番号 CA28/6)。
梅田正徳の設計思想や経歴について詳しくは梅田正徳プロフィールページをご覧ください。
メンフィス・ミラノの歴史や他の製品について詳しくはメンフィス・ミラノブランドページをご覧ください。
基本情報
| デザイナー | 梅田正徳(Masanori Umeda) |
|---|---|
| ブランド | メンフィス・ミラノ(Memphis Milano) |
| デザイン年 | 1981年 |
| 現行の製品名 | Tawaraya Ring |
| サイズ | 幅280cm × 奥行280cm × 高さ120cm |
| 主要素材 | 木材、メラミン化粧板、畳(藁)、金属、塗装木部、絹(クッション) |
| デザインの成立国 | 日本 |
| 生産国 | イタリア |
Reference
- Tawaraya Ring - Memphis Milano
- https://memphis.it/en/products/tawaraya-ring/
- Tawaraya Ring 2x2 - Memphis Milano
- https://memphis.it/en/products/5430/
- The Tale of Tawaraya: From Sketches to Centre Stage - M+
- https://www.mplus.org.hk/en/magazine/tawaraya/
- Tawaraya in Memphis - Umeda Design Studio
- https://umedamasanori.com/2021/04/03/tawaraya-in-memphis/
- 梅田正徳 Tawaraya(俵屋) - 独立行政法人国立美術館 所蔵作品検索
- https://search.artmuseums.go.jp/records.php?sakuhin=152924
- Masanori Umeda. Tawaraya Ring. 1981 - The Museum of Modern Art
- https://www.moma.org/collection/works/507457
- 梅田正徳がデザインしたメンフィスを代表する作品「TAWARAYA」を間近に - AXIS
- https://www.axismag.jp/posts/2026/07/716526.html