概要
セレーネチェアは、ヴィコ・マジストレッティが設計し、アルテミデが製造したスタッキングチェアである。ガラス繊維で強化したポリエステル樹脂の薄いシートを、圧縮成形で一体成形する。1968年のミラノ・トリエンナーレで発表され、翌1969年に生産が始まった。
特徴・コンセプト
断面をS字にする
薄い板は、平らなままでは曲げに弱い。断面をS字に曲げると、板の厚み方向に高さが生まれ、同じ材料のまま曲げにくくなる。マジストレッティは脚部にこの断面を用いることで、3mm厚のシートで自立する脚を成立させた。
当時のプラスチックの椅子は、強度を確保するために脚が太くなりがちだった。断面の形で強度を得れば、木の椅子と同程度に細い脚が保てる。マジストレッティ自身、座面と背もたれは単純な曲面にすぎず、この椅子の要点は脚にあると述べている。
圧縮成形で一度に成形する
樹脂を含ませたガラス繊維のシートを型に置き、圧力をかけて一度の工程で椅子全体を成形する。脚に付くゴムのキャップを除けば、部品の接合がない。量産時には短い間隔で成形できたため、当時としては効率の高い生産になった。
積み重ねと屋外
軽量で積み重ねができ、屋内外どちらでも使える。背もたれには弾力があり、体重をかけるとたわむ。表面は光沢のある仕上がりで、射出成形の製品に近い見え方になる。発売当初はホワイト、レッド、ブラックの3色で、のちに色が加えられた。
エピソード
構想は1961年に始まった。アルテミデの技術者やモデル製作者との検討を重ね、最初の生産モデルができたのは1969年である。1967年には製造原理について特許を取得している。
同じS字断面の考え方は、先行するキメラランプやデメトリオテーブルの脚部にも用いられており、マジストレッティが継続して扱っていた主題にあたる。
評価と影響
1970年にウィーンサロン金賞、同年のコンパッソ・ドーロで佳作を受けている。1960年代には、安価で速く作れ、かつ積み重ねられる椅子を一体成形で実現することが複数の設計者と製造業者の課題になっていた。同時期のイタリアでは、同じマジストレッティのエクリッセ テーブルランプと同様、素材の性質から形を導く方法がとられている。
美術館コレクション
ニューヨーク近代美術館は、ガラス繊維強化プラスチックによる1968年のセレーネ スタッキングチェアを収蔵番号412.1972.1-3で登録している(製造元からの寄贈。寸法74.9×47×50.2cm)。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館も、1968年のセレーネチェアを収蔵番号CIRC.280-1970およびCIRC.504:1-1973で登録している。
ヴィコ・マジストレッティの設計思想や経歴について詳しくはヴィコ・マジストレッティプロフィールページをご覧ください。
アルテミデの歴史や他の製品について詳しくはアルテミデブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | セレーネチェア / Selene Chair |
|---|---|
| デザイナー | ヴィコ・マジストレッティ(Vico Magistretti) |
| ブランド | アルテミデ(Artemide) |
| 発表年 | 1968年(生産開始は1969年) |
| デザインの成立国 | イタリア |
| 分類 | スタッキングチェア |
| 主要素材 | ガラス繊維強化ポリエステル樹脂 |
| 構造 | 脚部の断面をS字にすることで、3mm厚のシートで強度を得る |
| 製法 | 圧縮成形による一体成形 |
| 受賞 | 1970年 ウィーンサロン 金賞/1970年 コンパッソ・ドーロ 佳作 |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(412.1972.1-3)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(CIRC.280-1970、CIRC.504:1-1973) |
Reference
- Selene Stacking Chairs | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/3508
- Selene Chair | Victoria and Albert Museum
- https://api.vam.ac.uk/v2/objects/search?q=CIRC.280-1970