ニュアージュ ブックシェルフが長く愛される理由

「Nuage」はフランス語で「雲」を意味する。シャルロット・ペリアンは日本滞在中の京都で、雲の形を思わせるかたちで壁に並べられた棚を目にした。曲線でできた家具ではない。標準化された木の棚板と金属の部材を、大きさの異なる区画として非対称に積み上げていくと、壁の上に描かれる輪郭が雲のように見える。名はそこから来ている。

部材の体系が整えられたのは1952年から56年にかけてで、諸モデルはパリのギャラリー・ステフ・シモンから世に出た。2012年、カッシーナはペリアンの娘であり相続人であるペルネット・ペリアン=バルサックとの協働のもと、ニュアージュの各モデルを「Cassina I Maestri」コレクションとして世界で初めて体系的に復刻した。バユ(サイドボード)、ランジュマン(自立式書棚)、ビブリオテーク・エピ、ビブリオテーク・ミュラル(壁掛け式)、ビブリオテーク・アシメトリック、そしてニュアージュ・ア・プロ(Nuage à Plots)。ひとつの部材体系から派生した、家具の族である。

本ページでは、正規品の仕様と構成、類似するモジュラーシェルフとの比較、暮らしへの取り入れ方、メンテナンス、購入方法までを整理する。

正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材

ニュアージュは、カッシーナが「I Maestri」コレクションとして製造する受注生産品である。棚板、仕切り、パネル、引き戸、トレイといった構成要素を組み合わせるため、寸法も価格も選んだ構成によって変わる。

正式名称 Nuage(ニュアージュ)
デザイナー シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand, 1903–1999 / フランス)
デザイン年 1952〜1956年(着想は1940年代の日本滞在期)
復刻年 2012年(カッシーナによる復刻。ペルネット・ペリアン=バルサック監修)
製造ブランド カッシーナ(Cassina)/ I Maestri Collection
製造国 イタリア
カテゴリ モジュラーブックシェルフ / サイドボード / ウォールシェルフ / ルームディバイダー
棚板素材 ブロックボードにオーク突板。ナチュラル またはブラックステインのローグロス仕上げ
金属部素材 アルミニウム(ナチュラルアノダイズド / マットブラック塗装 / マットホワイト塗装)。パネルはアルマイト加工のアルミニウムで複数色
設置方式 壁掛け式 / 床置き式 / 自立式(ルームディバイダー)
付属品・オプション アルミニウムトレイ、引き戸、スライディングパネル等(モデルにより異なる)
ファミリー構成 バユ(サイドボード)、ランジュマン(自立式)、ビブリオテーク・エピ、ビブリオテーク・ミュラル(壁掛け)、ビブリオテーク・アシメトリック、ニュアージュ・ア・プロ
サイズ 構成により大きく異なる。壁掛け式は奥行きが浅く、自立式は両面からアクセスできる。ニュアージュ・ア・プロは棚の奥行きが335mmで統一されている
参考価格帯 受注生産品であり、選択したモデルと構成、仕上げにより変動する。デザイナーズシェルフとしては上位の価格帯にあたる。正確な価格はカッシーナ正規販売店に問い合わせられたい
納期 受注輸入品。イタリア本国からの取り寄せとなるため相応の期間を要する

構成要素という考え方

ペリアンは、金属の支持材、厚みと幅の異なる木の棚板、垂直方向を仕切る金属のブロック、色を持つパネル、引き戸、トレイという一式を「新しい金物(nouvelle quincaillerie)」と呼んだ。ここから壁一面の構成も、小さな一台も、同じ語彙で組み上げられる。棚板の幅と厚みが一様でないのは、何を載せるかによって必要な寸法が変わるからである。

ニュアージュ・ア・プロは、この体系のなかでもやや性格が異なる。棚の奥行きが335mmで揃えられ、側板と背板の代わりに、一枚のアルミニウムを曲げてつくった垂直材(プロ)がむき出しのまま棚を仕切る。テンションロッドとアンカーで締め上げる構造である。

類似商品・競合との比較

ニュアージュにリプロダクト品は存在しない。壁面を構成するモジュラーシェルフとして、比較の対象になりうる製品を挙げる。

比較項目 カッシーナ ニュアージュ(ペリアン) Vitsœ 606 ユニバーサル・シェルビング(ディーター・ラムス) String System(ニルス・ストリニング)
デザイン年 1952〜56年 / 2012年復刻 1960年 1949年
構成の考え方 標準化された部材から非対称の構成を組む Eトラックに沿って棚を自由に配置する ワイヤーサイドパネルに棚を掛ける
素材 オーク突板の棚板+アルミニウム アルミニウム+粉体塗装スチール 木材またはメラミン+スチールワイヤー
設置方式 壁掛け / 床置き / 自立(間仕切り) 壁掛け / 床置き 壁掛け / 床置き
拡張性 モデルを組み合わせて拡張可能 後からの追加・組み替えを前提とする 後からの追加・組み替えを前提とする
価格帯 上位価格帯 中〜上位価格帯 中位価格帯

選び方の指針

棚そのものを空間の構成要素として扱いたいなら
ニュアージュが適している。非対称に配された区画は、絵や彫刻を置くための空隙を残す。棚が壁を埋めるのではなく、空隙が壁に律動を与える。オークとアルミニウムの対比、面と空隙の交替は、しばしばモンドリアンの絵画になぞらえられる。
後から棚を足し、位置を変えながら長く使いたいなら
Vitsœ 606が候補となる。レールに沿って棚を移動でき、住み替えのたびに構成を組み直せる。1960年の設計が現在も同じ規格で供給されている点も、この製品の性格を示している。
より手頃な価格帯で北欧的な軽やかさを求めるなら
String Systemが適している。ワイヤーのサイドパネルに棚を掛ける構造は軽快で、少ない部材から始めて徐々に育てられる。

使用感と暮らしへの取り入れ方

収納力と使い勝手

ニュアージュの区画は、幅も高さも一様ではない。大判の写真集から文庫本まで、それぞれに収まりのよい場所が自然に見つかる。棚板の幅と厚みが収納物に応じて変えられていることが、この使い勝手を支えている。

モデルによっては取り外し可能なアルミニウムトレイを組み込め、小物や雑誌の整理に使える。引き戸を備えた区画は、見せたくないものの収納に充てられる。

空間別のコーディネート提案

リビングルーム
壁掛け式を壁面に配し、書籍、オブジェ、植物を非対称の区画に散らす。ナチュラルオークとアノダイズドアルミニウムの対比が、壁面に構成的な表情を与える。カッシーナのLC2やLC4と組み合わせれば、20世紀モダニズムの系譜をひとつの空間に置くことができる。
書斎・ライブラリー
自立式を部屋の中ほどに据え、ルームディバイダーとして使う。両面からアクセスできる構造を活かし、書斎とリビングをゆるやかに分けながら、蔵書を見せる。
ダイニング・エントランス
バユ(サイドボード)タイプをダイニングの壁面やエントランスに置き、食器や花瓶を飾る。背が低いため空間に落ち着きが出る。天面にはオブジェや照明を置ける。
和の要素を取り入れた空間
ニュアージュの出発点には、ペリアンが京都で見た棚がある。左右対称でない構成は、和の設えと無理なく共存する。ナチュラルオーク仕上げを選び、陶器や生け花を配すると、来歴が空間のうえで説明を必要としなくなる。

経年変化とメンテナンス

素材の特性と経年変化

オーク突板(ナチュラル / ブラックステイン)
ナチュラルオークは経年により色味が穏やかに深まり、飴色を帯びていく。ブラックステインは比較的安定した色調を保つが、直射日光の長時間照射による退色には留意されたい。
アルミニウム(アノダイズド / 塗装)
ナチュラルアノダイズド仕上げは耐腐食性に優れ、経年変化は小さい。マットブラック・ホワイトの塗装仕上げも安定しているが、硬いものとの接触による擦り傷には注意したい。

日常メンテナンスの方法

オーク面
柔らかい布での乾拭きが基本。汚れには中性洗剤を薄めた布で対応し、水気は速やかに拭き取る。研磨剤やアルコール系クリーナーは仕上げを傷めるため使用しない。カッシーナが公開しているケア&メンテナンスマニュアルを参照されたい。
アルミニウム面
柔らかい布での乾拭きで足りる。汚れには湿らせた布か中性洗剤を用いる。酸性・アルカリ性のクリーナーはアノダイズド処理面を侵すため使用しない。
引き戸
レールの埃を定期的に取り除き、滑らかな開閉を保つ。戸の面は柔らかい布で拭き上げる。

修理・パーツ交換

カッシーナはニュアージュの製造を継続しており、日本ではカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)を通じてパーツの追加購入、オプションの後日追加、修理について相談できる。正規パーツによる対応が受けられる点は、モジュラー家具を長く使ううえで大きい。

どこで買うか:正規販売店と購入方法

ニュアージュはカッシーナの受注輸入品であり、正規販売店での相談とオーダーが購入の基本となる。

日本正規販売店

カッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)
カッシーナの日本総代理店。青山本店をはじめとする各店舗で、I Maestriコレクションの相談とオーダーに対応している。素材サンプルや構成の確認も店頭で行える。店舗情報および連絡先は公式サイト cassina-ixc.jp を参照されたい。

海外正規販売店

カッシーナ公式サイト(cassina.com)
各モデルの詳細仕様、2D/3Dデータ、世界各国のストアロケーターを提供している。ケア&メンテナンスマニュアルもここから入手できる。
各国のカッシーナ正規ディーラー
欧米にはカッシーナの正規ディーラーが複数あり、プランニングと見積り、設置を伴う配送に対応している。取扱状況は公式サイトのストアロケーターで確認されたい。

中古・ヴィンテージ市場

1950年代にギャラリー・ステフ・シモンから世に出たオリジナルは希少で、専門のディーラーやオークションを通じて取引される。来歴の裏づけと真贋の確認が欠かせない。1stDibs、Chairish、Pamonoといった国際的なプラットフォームでは、カッシーナ復刻品の中古も流通している。中古で求める場合は、カッシーナ正規品であることをラベルやシリアルナンバーで確認されたい。

購入時チェックリスト

  • モデルの決定(壁掛け式 / 床置き式 / 自立式 / バユ / ニュアージュ・ア・プロ 等から選択)
  • 仕上げの選択(オーク:ナチュラル または ブラックステイン / アルミニウム:ナチュラルアノダイズド、マットブラック、マットホワイト)
  • 設置壁面の確認(壁掛け式の場合:壁面の材質、耐荷重、幅と高さの実測)
  • 搬入経路の確認(大型モデルは幅が2mを超える。エレベーター、階段、ドア幅の事前確認が必須)
  • 壁面固定の可否確認(壁掛け式は相応の壁面強度を要する。賃貸住宅では管理会社への事前確認を)
  • オプションの検討(アルミニウムトレイ、引き戸の有無)
  • 正規品の確認(カッシーナ I Maestriコレクションのラベル、シリアルナンバー)
  • 施工・設置サービスの確認(壁掛け式は専門施工が推奨される)
  • 納期の確認(受注輸入品のため相応の期間を要する)

配送・設置に関する注意事項

ニュアージュは大型かつ高額な家具である。壁掛け式は壁面への確実な固定が安全上不可欠であり、専門施工が強く推奨される。壁面の材質(コンクリート、木造、石膏ボード等)によってアンカーの選定が変わるため、事前の現場確認が重要である。床置き式・自立式では、脚部での水平出しが必要になる。

コーディネート事例

20世紀モダニズムの系譜

ナチュラルオーク仕上げの壁掛け式を、カッシーナ I Maestriコレクションの他の作品——LC2グランコンフォール、LC4シェーズロング、ペリアン自身のフリーフォーム・テーブル——とともに構成する。20世紀モダニズムの仕事をひとつの空間に置く配置である。壁面のニュアージュが背景となり、椅子とテーブルが前景に立つ。

和の要素との構成

ナチュラルオーク仕上げのニュアージュに、萩焼や備前焼の陶器、生け花、和紙の照明を合わせる。畳の和室ではなく、フローリングの空間に置き、和の小物を数点だけ配する。区画の空隙を埋めないことが、この構成では要になる。

ギャラリーのような空間

ブラックステインオーク仕上げの自立式をルームディバイダーとして据え、現代アートやデザインオブジェを一区画に一点ずつ配する。白壁を背景に、非対称の区画それぞれが独立した展示面として働く。マットブラックのアルミニウムが、空間に緊張感を与える。

よくある質問

ニュアージュの価格はどのくらいですか?
受注生産品であり、選んだモデルと構成、仕上げによって価格が変わります。デザイナーズシェルフとしては上位の価格帯にあたります。正確な価格はカッシーナ・イクスシーにてご確認ください。
どこで購入できますか?
日本ではカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)が正規販売店です。青山本店をはじめとする各店舗で相談とオーダーが可能です。店舗情報は公式サイト cassina-ixc.jp をご覧ください。
実物を確認できる場所はありますか?
カッシーナ・イクスシーの店舗でI Maestriコレクションの展示が行われています。ニュアージュの展示状況は時期により異なるため、来店前にお問い合わせください。海外ではカッシーナ直営店で確認できる場合があります。
壁掛け式の設置に特別な工事は必要ですか?
壁掛け式は壁面への確実な固定が安全上不可欠であり、専門施工が強く推奨されます。壁面の材質(コンクリート、木造、石膏ボード等)に応じたアンカーの選定が必要です。賃貸住宅の場合は管理会社への事前確認をおすすめします。
壁掛け式と自立式の違いは何ですか?
壁掛け式は奥行きが浅く、壁面に浮くように据えられます。自立式は床に置き、両面からアクセスできるためルームディバイダーとしても使えます。どちらも同じ部材体系から構成されます。
リプロダクトやジェネリック品はありますか?
ニュアージュのリプロダクト品は存在しません。カッシーナがシャルロット・ペリアンの相続人であるペルネット・ペリアン=バルサックとの協働のもとで製造しています。
ヴィンテージのオリジナルを購入することはできますか?
1950年代にギャラリー・ステフ・シモンから世に出たオリジナルは希少で、専門ディーラーやオークションで取引されます。来歴の裏づけと真贋の確認が不可欠であり、価格は個体と来歴によって大きく異なります。
他に検討すべきシェルフはありますか?
同じカッシーナ I Maestriコレクションでは、フランコ・アルビニの829ヴェリエロが知られています。壁面を構成するモジュラーシェルフとしては、ディーター・ラムスのVitsœ 606、ニルス・ストリニングのString Systemが比較の対象になります。詳しくは収納家具カテゴリページをご覧ください。