概要
キンツレ ウォールクロックは、1930年代にドイツのキンツレ社が製造した壁掛け時計の総称である。設計を担ったのはハインリッヒ・メラーで、同社のデザイン部門を率いた。単一の型番を指す名称ではなく、円形や菱形のケース、木製と真鍮製など複数の系統を含む。
特徴・コンセプト
直線と円弧だけで構成する
円形の文字盤を基本としながら、ケースの外形には正円のほか、正方形を45度回した菱形が用いられた。ベゼルからケースへの移行、針の付け根から先端までの太さの変化といった細部にも、直線と円弧の組み合わせ以外の要素がほとんど現れない。
目盛の間隔で読ませる
文字盤は数字とインデックスを最小限に留める。数字を並べれば読み取りは確実になるが、盤面が文字で埋まる。目盛の間隔と針の長さだけを手がかりにすれば、面に残る要素が減る。
針の形は、細く長い分針と、先端に向かって輪郭が変わる時針の組み合わせをとる。数字が少ないぶん、二本の針の判別が読み取りの手がかりになる。
素材
ケースには、光沢仕上げのウォールナットやオークなどの木材と、真鍮や黒塗装の金属が用いられた。インデックスは真鍮の浮き出し加工とされることが多く、針も磨いた真鍮による。文字盤の前面はドーム状に膨らんだミネラルガラスで覆われる。仕様は型番や製造年によって異なる。
エピソード
メラーがキンツレに加わったのは1931年である。経営不振に陥っていたテューリンゲンの時計工場をキンツレが買収した際、そこで家具や展示室の設計を手がけていたメラーも移籍した。以後、彼はキンツレのデザインと建築を統括する部署を率いる。
1930年代のドイツでは、バウハウスに代表される造形の考え方が工業製品の設計にも及んでいた。1932年には、ドイツ時間計測・時計技術協会が主催したデザインコンペティションで、キンツレが賞の半数を得たと伝えられる。
もっとも、同社は同時期に伝統的な木製の時計も作り続けていた。1930年代のキンツレは、二つの系統を並行して展開している。
評価と影響
メラーがキンツレで手がけた仕事は壁掛け時計に限らない。1933年設計の背の高いケース時計は、製造期間中に50点ほどしか作られなかったと伝えられる。1939年に最初の設計がなされた世界時計は、後年まで生産が続いた。壁掛け時計は、こうした一連の仕事のなかで最も広く普及した製品群にあたる。
現在はヴィンテージ市場で扱われる。機械式のムーブメントは経年により交換されている個体が多く、後年のクオーツ式に載せ替えられたものも流通する。ケースの状態、ベゼルとインデックスの仕上がり、針が当時のものかどうかが確認の要点になる。
数字を減らして目盛と針で読ませるという方向は、同じドイツのユンハンス マックス・ビル ウォールクロックにも見られる。あちらは戦後の設計にあたり、こちらはそれに先行する。
ハインリッヒ・メラーの設計思想や経歴について詳しくはハインリッヒ・メラープロフィールページをご覧ください。
キンツレの歴史や他の製品について詳しくはキンツレブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | キンツレ ウォールクロック / Kienzle Wall Clock |
|---|---|
| デザイナー | ハインリッヒ・メラー(Heinrich Möller) |
| メーカー | キンツレ(Kienzle) |
| 製造年代 | 1930年代 |
| デザインの成立国 | ドイツ |
| 分類 | 壁掛け時計 |
| 構造 | 直線と円弧で構成。文字盤は数字とインデックスを最小限に留める |
| 主要素材 | 木材(ウォールナット、オークほか)、真鍮、金属、ミネラルガラス(型番により異なる) |
| ムーブメント | 機械式(現存個体は交換されている場合がある) |
| 生産状況 | 生産終了 |
Reference
- Kienzle
- https://www.kienzle-uhren.de/