Kienzle(キンツレ)

Kienzleは、1822年にドイツ南西部シュヴェニンゲンで始まった時計の製造事業を起源とするブランドである。時計師Johannes Schlenkerが黒い森の伝統に沿う木製時計の製作から出発し、1883年に婿入りしたJakob Kienzleのもとで工業的な量産へ移行した。20世紀前半にはドイツ最大級の時計メーカーとなったが、1996年の経営破綻以降は商標が複数の主体を移り、現在はドイツとイタリアで別々の企業が同じ名称の製品を扱う状態にある。

事業と製造の実体

Kienzleの製品を規定してきたのは、部品の規格化による量産の方式である。1894年に導入されたこの方式では、標準化した部品と打ち抜いた地板を用いることで、時計の重量と製造の費用を下げられる。手作業による組み立てを前提とした従来の方式に対し、部品を作ってから組む順序へ変えたことが特徴にあたる。

この方式は製品の形にも影響した。文字盤の数字を小ぶりにし、装飾を排して幾何学的な構成を採る形式は、1930年代以降の同社の時計に共通する。部品の共通化を前提とする設計では、意匠の要素を減らすほど生産の効率が上がるという関係がある。

製造の範囲は壁掛け時計、置き時計、目覚まし時計、腕時計に及び、自動車や航空機の計器用の時計も手がけた。1930年代には航空機向けの8日巻きの時計を製造している。1973年には水晶式の機構を自社で製造した。

現在、ドイツの事業体はハンブルクに拠点を置き、製品の企画と販売を行う。生産は外部への委託による。

沿革

創業と工業化

1822年、時計師Johannes Schlenkerがシュヴェニンゲンで時計の製造を始めた。当初は黒い森の伝統に沿う手作りの木製時計を、行商によって販売している。事業は息子の代に約20名の職人を擁する規模となり、年間約2万個の壁掛け時計と振り子時計を手作業で製造した。1855年には夜警の巡回を記録する時計が各国へ出荷されている。

1883年、商人のJakob Kienzleがシュレンカー家に婿入りし、経営に加わった。社名はSchlenker & Kienzleへ改められている。1893年には年間16万2千個を製造する規模となり、1894年に部品の規格化による量産の方式が導入された。1897年にJakob Kienzleが単独の経営者となり、社名が改められている。1903年には年間の生産が100万個を超え、ミラノ、パリ、ロンドンに支社が設けられた。

拡大と転換

1922年に株式会社へ改組された。1928年にThomas Ernst Haller、1931年にDeutsche Uhrenfabrik(DUFA)を統合し、ドイツ最大の時計メーカーとなっている。1931年発売の腕時計は堅牢な構造により長く生産された。1939年時点で従業員は3,500名を超え、年間500万個を生産している。

1932年にはドイツ時計技術協会の設計競技で複数の賞を受け、1940年にはミラノ・トリエンナーレで金メダルを受けた。

戦後は民生用の時計の生産を再開し、1956年に自動巻きの腕時計を、1973年に水晶式の機構を製造した。1960年代にはメルセデス・ベンツ、ロールス・ロイス、ベントレーの計器用の時計も手がけている。

経営の破綻と商標の移動

水晶式時計の普及と価格競争により、1980年代以降の経営は悪化した。1989年にDUFAへ吸収され、1992年に社名がDUFAへ改められる。1996年に経営が破綻し、翌1997年に商標が香港のHighway Holdingsへ売却され、生産は中国へ移った。

2002年、ハンブルクにKienzle AGが設立され、拠点がドイツへ戻った。2005年から2006年にかけて世界的な商標の権利を取得している。2010年に再び経営が行き詰まり、再編を経たものの2014年に再度破綻した。2011年以降、世界的な商標の権利はスイスの企業が保有する時期があり、2024年にはオーストリアの企業が商標を取得している。

一方、イタリアではKienzle Italiaが別の系統として活動しており、現在はミラノの企業が運営している。ドイツの事業体とは実質的に別の主体にあたる。

デザイナーとの協働

Kienzleの製品開発は、20世紀前半には社内の意匠部門が担った。1930年代に品質を軸とするブランドの位置づけを目指した際、造形への投資が強化されている。

この時期に設計を統括したのはHeinrich Johannes Möllerで、黄道十二宮を配した時計や世界時計を手がけた。装飾を排し、小ぶりの数字と幾何学的な構成を用いる形式が、同社の時計の特徴として定着している。

主な製品群

キンツレ ウォールクロックは壁掛け時計の系統である。装飾を持たない円形の文字盤に、小ぶりの数字と細い針を配する構成を採る。

20世紀の製品には、Heinrich Johannes Möllerが手がけた黄道十二宮の時計や世界時計、目覚まし時計、腕時計、計器用の時計が含まれる。現在は企画と販売を行う事業体が製品を扱っている。

基本情報

ブランド名 Kienzle(キンツレ)
起点 1822年(Johannes Schlenkerによる時計製造の開始)
社名の由来 1883年に婿入りしたJakob Kienzle
創業地 ドイツ・シュヴェニンゲン(現フィリンゲン=シュヴェニンゲン)
現在の拠点 ドイツ・ハンブルク(2002年〜)。イタリアでは別の主体がKienzle Italiaを運営
事業内容 時計の企画および販売
公式サイト https://www.kienzle1822.de/

Reference