概要

ブリック・スクリーンは、アイリーン・グレイが1922年から1925年頃にかけてパリの自身の工房で制作した、漆塗りの衝立である。長方形の小さな板を横に並べて段をつくり、それを幾段も重ねて細い金属の軸で縦につなぐ。板の列は軸を中心に回るため、開き方によって仕切りの密度が変わる。住宅の壁面を覆ったパネルを、部屋のなかで動かせる仕切りへと移した家具であり、2011年からはクラシコンが権利者の許諾を得て限定生産している。

特徴とコンセプト

壁を部屋のなかへ持ち出す

この衝立は、住宅の壁面を覆った漆のパネルから生まれた。壁の構成をそのまま自立させ、置き場所と開き方を選べる仕切りに組み直している。固定された壁と違って部屋を閉じきらずに区切ることができ、不要になれば畳んで脇へ寄せられる。

列ごとに回転する板

構造は、漆を塗った木の板と、それを貫く金属の軸だけで成り立つ。蝶番で数枚のパネルをつなぐ通常の屏風では折れ曲がる位置がパネルの継ぎ目に限られるが、この衝立では板の列がそれぞれ軸を中心に回転するため、折れる位置が列の数だけある。列の向きを揃えれば視線をほぼ遮る面となり、角度を振れば板と板のあいだに隙間が生まれて向こう側が透ける。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)は所蔵品の記録で、板の角度を調整して半ば透ける間仕切りをつくれる点を挙げ、伝統的な折りたたみ式の衝立を大きく組み替えた設計としている。

V&Aの所蔵品では、軸の頂部を真鍮の六角ナットで留め、足元には円盤状の鋼板を据えて床に立たせている。脚や枠を別に設けず、軸そのものを支柱として使う構成である。

煉瓦積みに似た配列

V&Aの所蔵品は28枚の板を横7段・縦4列に組む。各段は横長の板3枚と、短い縦長の板1枚からなり、短い板は段ごとに左右の端へ交互に置かれる。このため縦の継ぎ目が段ごとにずれ、表面は格子ではなく、煉瓦を互い違いに積んだ壁のように見える。

同じ所蔵品では、横長の板の中央に、わずかに浮き出した正方形が両面に設けられている。V&Aはこの細部が、幾何学的な構成の硬さを和らげていると説明する。グレイは板の寸法や表面の仕上げを変えながら試作を重ねており、現存する衝立の段数や寸法は一定ではない。

図像を捨てた漆

板の仕上げには漆が用いられた。グレイは1900年代後半からパリで日本の漆芸家・菅原精造に学び、漆を家具や衝立に用いてきた。それ以前の漆の衝立には人物や寓意を表す図像が描かれていたが、この衝立では図像が消え、板の形と並び方だけで面を構成している。

制作の経緯

ロタ通りの住宅

発端は、帽子店「スザンヌ・タルボ」を率いたジュリエット・レヴィ(マダム・マチュー=レヴィ)からの依頼である。グレイは1919年から1922年にかけて、パリのロタ通りにあるレヴィの住居の内装を手がけ、壁を漆塗りの長方形のパネルで覆った。V&Aの記録によれば、パネルの数は約450枚にのぼり、壁面を覆うだけでなく部屋の中ほどまで張り出していた。ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、所蔵する衝立がこの住居のために1922年に設計された、より大きな版をもとにしていると記している。

独立した衝立として

1923年のサロン・デ・アルティスト・デコラトゥール(装飾美術家協会展)で、グレイは室内「モンテカルロのための寝室兼ブドワール」を出品し、そこに白い漆の衝立を置いた。壁から独立したかたちで衝立が公の場に出た早い例である。その後もグレイは自身の工房で、寸法や仕上げを変えた衝立を制作している。V&Aは所蔵品を、グレイが設計し、おそらく自ら制作した黒い衝立3点のうちの1点としている。

許諾を受けた製品版

2011年のミラノサローネで、クラシコンはグレイ作品の世界的な権利者であるアラム・デザインズ(ロンドン)の許諾を受けた、最初の製品版を発表した。75台の限定で、注文を受けてからドイツで手づくりされる。固定と可動を合わせた28枚の木製パネルは、塗装と乾燥、手作業での研磨を繰り返し、数週間をかけて仕上げられる。骨組みにはステンレス鋼を、座金や端部のキャップには真鍮を用い、一台ごとにグレイの署名と通し番号が入る。

評価と影響

この衝立は一般的に、グレイの仕事が装飾的な漆芸から建築的な関心へ移っていく過程を示す作品として扱われている。MoMAは、家具と建築と彫刻のあいだをつなぐものと位置づけたうえで、回転する部材や可動の要素によって物と空間の双方を変えるという関心が、のちに手がけた住宅E-1027の多機能な部屋と家具へ続いたと説明している。同じ住宅のためにつくられたE1027 アジャスタブルテーブルも、可動部によって使い方を変える家具の一つである。

グレイは、芸術は抽象的な関係を表すだけでなく、生活のもっとも身近な必要をも引き受けるべきだと書き残している。MoMAはこの考えに沿う作品として、この衝立を空間を区切る可動の壁であり、量と空隙で組み立てた抽象的な彫刻でもあると紹介している。

収蔵

  • ニューヨーク近代美術館(MoMA):Screen(1922年)、収蔵番号 476.1978
  • ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A):Screen(1923年)、収蔵番号 W.21-1972

基本情報

名称 ブリック・スクリーン(Brick Screen)
デザイナー アイリーン・グレイ(Eileen Gray)
ブランド クラシコン(ClassiCon)。アラム・デザインズの許諾による限定生産
発表年 1922年〜1925年頃
デザインの成立国 フランス
分類 衝立(スクリーン)
主要素材 オリジナル:漆塗りの木、金属の軸/クラシコン版:高光沢塗装の木製パネル、ステンレス鋼、真鍮
構成 クラシコン版:固定・可動を合わせた28枚のパネル
サイズ クラシコン版:幅約115cm、奥行24cm、高さ187cm(オリジナルは個体により異なる)
生産 クラシコン版:2011年発表、75台限定の受注生産

Reference

Eileen Gray. Screen. 1922 | MoMA
https://www.moma.org/collection/works/3985
Screen | Gray, Eileen | V&A Explore The Collections(W.21-1972)
https://collections.vam.ac.uk/item/O70947/
Screen | Gray, Eileen | V&A Explore The Collections(W.40:1 to 8-1977)
https://collections.vam.ac.uk/item/O79967/
Eileen Gray. Screen. ca. 1922–25 | The Metropolitan Museum of Art(2023.614)
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/904602
Eileen Gray Chronology(MoMA press release, 1979)
https://www.moma.org/docs/press_archives/5792/releases/MOMA_1979_0092_79.pdf
Brick Screen - ClassiCon
https://www.classicon.com/en/product/brick-screen.html
Brick Screen by Eileen Gray - Aram
https://www.aram.co.uk/blogs/journal/brick-screen-by-eileen-gray