ベント・プライウッド・アームチェアは、イギリスのモダニズム家具デザイナー、ジェラルド・サマーズが1934年にデザインしたラウンジチェアである。一枚の成形合板から切り出され、金具やジョイントを用いずに一体成形された構造で知られ、20世紀の合板家具を代表する作品のひとつとして広く認識されている。

サマーズが主宰した「メイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャー」社で製造された本作品は、素材・製法・機能・形態を一体として捉えたデザインの好例とされる。布張りや接合部を排した構造には、高温多湿の環境でも腐食や虫害を受けにくいという実用的な意図も込められていた。

特徴とコンセプト

一枚の合板から生まれる一体成形

本作品の最大の特徴は、一枚の合板シートから作られる一体成形構造にある。13層のクロスグレイン(繊維方向を交互に重ねた)合板に縦4本・横2本の切り込みを入れ、接着剤が乾かないうちに木製の型で約8時間圧着する。この工程によって、座面・背もたれ・肘掛け・後脚が一続きにつながった有機的なフォルムが生まれる。型から外した後に前脚を切り出せば完成となり、無駄が少なく材料効率にも優れた製法であった。

当時、アルヴァ・アアルトやマルセル・ブロイヤーらの合板家具は接着剤の強度が不十分で、補強材や金属ブラケットを要することが少なくなかった。サマーズはこの課題を、部材を足さずに一体で成形するという方法で解いてみせた。

機能に徹したデザイン

サマーズは「純粋なデザインにおいて、各部分と部材は目的に適合するよう、その役割を完全に果たすべきである」という信念を持っていた。装飾を排し、構造そのものが形を生み出すこの椅子は、その思想を体現した作品といえる。金属部品を使わず表面も滑らかなため衛生的で劣化しにくく、クッションなしでも快適に座れる曲面は、身体への配慮と造形の簡潔さを両立させている。

背景と評価

ジェラルド・サマーズ(1899〜1967)はエジプトのアレクサンドリア生まれで、技術者としての素養を持つデザイナーであった。1931年、パートナーのマージョリー・ブッチャーとともにロンドンで「メイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャー」を設立し、受注生産で数多くの独創的な合板家具を手がけた。本作品はその代表作にあたるが、複雑な工程と高い製造コストゆえ、生産数は約120台にとどまったと伝えられる。やがてアアルトら北欧勢の安価な合板家具との競争に押され、さらに第二次世界大戦下の合板の入手難も重なって、工房は1940年に閉鎖された。

サマーズがアアルトの合板家具から影響を受けたという見方は古くからある。一方で、彼が自社の合板家具の意匠登録を進めた時期は、1933年末にロンドンのフォートナム・アンド・メイソンで開かれたアアルト展とほぼ重なる。このことから、両者を同時代に並行して革新を進めた存在として捉える見方もある。

本作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)、メトロポリタン美術館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムなど、世界の主要なデザイン関連施設に収蔵されている。V&Aでは2012年に再開した20世紀家具ギャラリーで常設展示されている。サマーズの業績は長く正当な評価を受けてこなかったが、1970年代以降の英国デザイン史の見直しのなかでその先駆性が認められ、現在ではチャールズ&レイ・イームズらの成形合板椅子に先立つ先駆例のひとつとして、デザイン史に位置づけられている。

基本情報

名称 通称 Bent Plywood Armchair(ベント・プライウッド・アームチェア)。美術館では単に「Armchair」と表記されることも多い
デザイナー ジェラルド・サマーズ(Gerald Summers, 1899〜1967)
デザイン年 1934年(意匠登録)
製造 メイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャー(Makers of Simple Furniture)
製造国・期間 イギリス、1934年〜1940年
製造数 約120台
素材 バーチ(樺)成形合板、13層クロスグレイン構造
仕上げ 白色塗装(ホワイトティント)仕上げ ほか
寸法 幅約60cm × 奥行約85cm × 高さ約74cm(座面高約33.5cm)/V&A所蔵品の実測値。手作業のため個体差がある
意匠登録番号 REGD.No 791116(英国、1934年)
主要収蔵機関 ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)、メトロポリタン美術館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム ほか