ジェラルド・サマーズ(Gerald Summers、1899-1967)は、20世紀前半の英国で成形合板の可能性を追求し、家具デザインに新たな地平を切り拓いたデザイナーである。一枚の合板から継ぎ目なく成形された1934年のアームチェアは、工業的素材と職人技術を融合させた造形美の到達点として、今日もデザイン史研究者やコレクターを魅了し続けている。
バイオグラフィー
1899年、英国人の両親のもとエジプトのアレクサンドリアに、6人兄弟の末子として生まれる。ロンドンのエルサム・カレッジで学び、在学中に木工で賞を得た。その後、ラストン社で技術者としての見習いを経験し、第一次世界大戦への従軍をはさんで、エンジニアとしての素地を培った。この工学的な背景が、後の合理的で構造に忠実なデザインの土台となっている。
戦後、デザインへの情熱を共有するマージョリー・ブッチャー(Marjorie Butcher、1909-1996)とパートナーシップを結び、1929年から共同で活動を始める。サマーズが彼女に贈った一台のテーブルが、デザイナーとしての出発点となった。1931年、二人はロンドンに「メイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャー(Makers of Simple Furniture)」を設立。その名のとおり、簡素でありながら機能的な家具の製作を理念に掲げ、1940年までの約10年間に、英国のモダンインテリアを形づくる数多くの合板家具を生み出した。
1930年代を通じて、サマーズは成形合板を用いた革新的な家具を次々と発表した。とりわけ1934年のラウンジチェアは、一枚の合板から切り出して立体的に成形するという、当時として極めて先進的な技法によるものだった。接合部を持たないこの構造は、高温多湿の環境でも接着剤が劣化しにくく、熱帯気候の植民地への輸出も視野に入れたものだったといわれる。第二次世界大戦の勃発により、メイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャーは1940年に活動を停止し、二人は技術部品を供給するジェラルド・サマーズ社へと事業を転換した。戦後、サマーズは家具デザインの第一線から退き、1967年に68歳で生涯を閉じた。
デザイン哲学
サマーズのデザインは、「素材の本質に寄り添う」という姿勢に貫かれている。合板という工業的素材の可塑性と強度を深く理解し、それを最大限に引き出すことで、従来の木工技術では実現できなかった造形を可能にした。その思想の核心にあるのは「シンプリシティ(簡素さ)」の追求である。装飾を排し、構造そのものが美を生み出すという信念は、同時代のバウハウスやモダニズム運動と共鳴するものだった。
ただし、サマーズの作品は冷徹な機能主義にとどまらず、曲線を多用した有機的なフォルムによって人間的な温もりをたたえている。エンジニア出身の彼は製造工程の合理化にも関心が深く、部品点数の削減、組立の簡略化、材料の無駄を抑える設計など、大量生産の時代を見据えた先見性を備えていた。同時に、その家具には一点ごとに職人の手仕事による繊細な仕上げが施され、工業と手工業の理想的な調和を体現していた。
作品の特徴
サマーズの作品を最も特徴づけるのは、成形合板の革新的な使い方である。当時、合板は主に建築用の平板材として使われていたが、サマーズはこれを三次元的に曲げ、複雑な曲面をもつ家具を生み出した。代表作のラウンジチェアに象徴されるように、彼は部品点数を可能な限り減らし、一枚の素材から家具をつくることを志向した。この手法は、接合部の弱さを排して構造的な堅牢性を高めると同時に、連続する曲面による視覚的な一体感を生んでいる。
直線的なモダニズムとは一線を画し、その造形は流れるような曲線を特徴とする。人体の自然なカーブに沿うシルエットは、見た目の美しさだけでなく優れた座り心地をも実現した。装飾的な要素を一切排しながら構造そのものが造形美を生むという設計思想は、20世紀デザインの理念を先取りするものであり、合板の木目が描く自然の紋様が唯一の「装飾」として作品を彩っている。
代表作品
ラウンジチェア(ベント・プライウッド・アームチェア、1934年)
ジェラルド・サマーズの名を不朽のものとした傑作で、一枚のバーチ合板から、座面・背もたれ・肘掛け・脚部のすべてを成形した、継ぎ目のない一体構造のアームチェアである。V&Aの資料によれば、13層の交差した単板からなる一枚の合板に、まず4本の直線の切り込みを入れて腕と後脚の位置を定め、接着剤がまだ乾かないうちに木型で約8時間プレスして曲面を成形し、最後に前脚を切り出してつくられた。一枚の板から椅子全体を成形するという発想は、当時として極めて革新的であり、チャールズ&レイ・イームズによる成形合板家具に先立つこと約10年、同時代のアルヴァ・アアルトの仕事に比肩するものだった。製作数は限られ、現存するのは世界で120〜150脚程度と推定される。ニューヨーク近代美術館(MoMA、「ラウンジチェア」として収蔵)、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)、メトロポリタン美術館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムなど、世界有数のコレクションに収められている。
その他の作品
サマーズは合板加工の技術を活かし、椅子以外にも多彩な家具を手がけた。代表作の一つがトゥー・ティア・テーブル(Two-Tier Table、1934年頃)で、曲線を描く脚部と天板の組み合わせが優美な印象を与える入れ子式・二段式のサイドテーブルである。このほか、背の高いハイバックチェア、合板に切り抜きを施したカット・プライ・チェア、曲線的なフォルムのトロリー(ワゴン)、書棚、子供用の小型チェアなど、いずれも成形合板の特性を活かした実験的かつ機能的な作品を残している。これらはメイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャーを通じて、主に受注生産で製作された。
功績と業績
ジェラルド・サマーズの功績は、成形合板技術の家具への応用において、世界に先駆けて画期的な成果を挙げた点にある。1930年代という時代に彼が達成した技術的・造形的な革新は、同時代のアルヴァ・アアルトやマルセル・ブロイヤーの仕事と並び称されるべきものである。とりわけ、一枚の合板から椅子全体を成形するという発想は、後にチャールズ&レイ・イームズが発展させ、20世紀後半のデザイン界に大きな影響を与えることになる手法を先取りするものだった。
また、メイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャーの活動を通じて、サマーズは英国のモダンデザイン運動の一翼を担った。簡素さと機能性を重んじるその姿勢は、装飾過多だった当時の英国家具に新風を吹き込み、後のミッドセンチュリー・モダンへと続く道筋を示した。なお、サマーズとメイカーズ・オブ・シンプル・ファニチャーに関する研究は長らく限られていたが、マーサ・ディースによる1992年の論考(『デザイン史ジャーナル』)以降、再評価が進んでいる。
後世への影響
サマーズの作品は、20世紀後半から21世紀にかけて再評価が進み、デザイン史における重要性が広く認識されるようになった。彼のラウンジチェアはモダンファニチャーの記念碑的作品として、世界中の美術館やコレクターに珍重されている。技術面では、彼が開拓した成形合板の三次元成形の手法が、イームズ、ヤコブセン、柳宗理ら後続のデザイナーに受け継がれ、発展していった。素材の特性を活かしながら一体成形を追求する姿勢は、今日のプラスチック成形家具などにも通じる設計思想である。
美学的にも、サマーズの有機的なフォルムは、自然な曲線と構造美の融合として、北欧モダンやオーガニックモダニズムの潮流に通じるものがある。長らく英国デザイン史の「異端」と見なされがちだったが、その技術的革新と造形美は、時代を超えて再評価され続けている。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド/製造元 |
|---|---|---|---|
| 1933年 | 椅子 | Armchair(アームチェア) | Makers of Simple Furniture |
| 1934年 | 椅子 | Lounge Chair(ラウンジチェア) | Makers of Simple Furniture |
| 1934年頃 | 椅子 | Cut-Out Chair(カットアウトチェア) | Makers of Simple Furniture |
| 1934年頃 | テーブル | Nesting Tables(ネストテーブル) | Makers of Simple Furniture |
| 1934年頃 | テーブル | Coffee Table(コーヒーテーブル) | Makers of Simple Furniture |
| 1934年頃 | テーブル | Side Table(サイドテーブル) | Makers of Simple Furniture |
| 1935年頃 | 椅子 | Children's Chair(チルドレンズチェア) | Makers of Simple Furniture |
| 1930年代 | 椅子 | Dining Chair(ダイニングチェア) | Makers of Simple Furniture |
| 1930年代 | 椅子 | Stacking Chair(スタッキングチェア) | Makers of Simple Furniture |
| 1930年代 | 棚 | Bookshelf(ブックシェルフ) | Makers of Simple Furniture |
| 1930年代 | デスク | Writing Desk(ライティングデスク) | Makers of Simple Furniture |
| 1930年代 | 収納 | Cabinet(キャビネット) | Makers of Simple Furniture |
Reference
- Victoria and Albert Museum - Gerald Summers
- https://www.vam.ac.uk/collections
- MoMA - The Collection - Gerald Summers
- https://www.moma.org/collection/
- Design Museum - 20th Century Design
- https://designmuseum.org/
- 1stDibs - Gerald Summers Furniture
- https://www.1stdibs.com/creators/gerald-summers/
- Pamono - Gerald Summers
- https://www.pamono.com/designers/gerald-summers
- Sotheby's - Design Sales
- https://www.sothebys.com/en/departments/design
- Christie's - 20th Century Design
- https://www.christies.com/departments/design