概要
フィヨルド アームチェアは、パトリシア・ウルキオラが2002年にモローゾのために設計した回転式のラウンジチェアである。座面から背もたれ、アームレストまでが一続きの曲面で座る人を囲い、その背側に下から上へ抜ける長い切れ込みが入る。同じ造形の原理を用いた小型のアームチェア、椅子、スツールとあわせて、フィヨルドという一つのコレクションを構成する。発表から20年以上を経た現在もモローゾのカタログに残っている。
特徴・コンセプト
殻を割る長い切れ込み
この椅子の形を決めているのは、背面に入った一本の切れ込みである。モローゾは、これを北の海岸に刻まれた入り江に置き換えたものだと説明している。製品名もそこから来ている。
切れ込みが入ることで、閉じた殻の対称性が崩れる。左右で高さの違う縁が生まれ、正面から見た輪郭が一方へ寄る。囲われている感覚を残しながら背後を塞ぎきらない形が、この切れ込みによって得られている。
硬い外殻をもたない構成
内部には細いスチールのフレームが通り、その周囲に難燃処理したポリウレタンフォームを金型内で注入発泡させる。樹脂やFRPの成形殻に詰め物を載せる椅子とは異なり、外側に硬い層をもたない。
この構成が効くのは切れ込みの断面である。硬い殻をもつ椅子では、切り口に殻の厚みと縁が現れる。フォームを直接張地で覆う構成であれば、切り口も丸みのある面として本体から連続させられる。フレームを内側に隠せるため、クッション材の厚みを確保しながら縁の見え方は薄く保てる。
隠さない縫い目
三次元に曲がった面を布やレザーで覆うには、型紙を分割して縫い合わせる必要がある。フィヨルドはこの縫い目を隠さず、面を区切る線として表に出している。縫い目の位置は外形の分割とそのまま重なり、どこで面が向きを変えているかが目で追える。張地と対照的な色の糸を用いた個体も作られている。
回転する角型ベース
ベースは粉体塗装を施したスチールの角板に支柱を立てたもので、座面は水平方向に回る。椅子ごと動かさずに向きを変えられる。モローゾはこのコレクションを、住宅と公共空間の双方に向けた座席として説明している。
エピソード
波に削られた貝殻の破片
ウルキオラとモローゾは、この一連の椅子の出発点を、割れて波に磨かれた貝殻の破片だと説明している。破れた縁と、水に削られて角の取れた面。その二つの性質を椅子の大きさに移し替えたものが、フィヨルドの外形である。
フィヨルドという名が示すとおり、北欧のデザインへの参照も明示されている。モローゾは製品の説明として、アルネ・ヤコブセンの椅子への参照と、北の海岸の入り江を長い切れ込みに置き換えたことを挙げている。
殻が姿を変えていく連作
時間と水の作用によって殻が形を変えていく循環になぞらえ、同じ殻を椅子からアームチェア、さらにスツールへと変形させる形でコレクションが組み立てられた。背の高いラウンジチェア、背を落とした小型のアームチェア、脚を付けた椅子、スツールが、いずれも切れ込みと見せる縫い目という同じ手続きを共有する。のちにフィヨルドの名を冠したテーブルも加わっている。
素材を変えた展開
同じ輪郭は、張地を用いない構成にも置き換えられている。椅子のフィヨルドHは、テクノポリマーの複合樹脂で成形した殻とステンレスのベースからなり、切れ込みの入った外形だけを引き継ぐ。クッション材の厚みに頼らずに成立する形であったため、成形樹脂の殻としても同じ姿を保てている。
ニューヨーク近代美術館の所蔵
ニューヨーク近代美術館の建築・デザイン部門が、2006年2月9日にアームチェアとフットスツールを一組として取得し、収蔵番号186.2006.1-2を与えている。製造元からの寄贈による。フットスツール単体には186.2006.2の番号が付されている。
収蔵番号186.2006.1-2の記録に記された寸法は、アームチェアが高さ1020×幅950×奥行800mm、フットスツールが高さ350×幅800×奥行600mm。素材はアームチェアがスチール、ポリウレタンフォーム、フェルト、フットスツールがポリウレタンフォーム、レザー、フェルトと記載されている。
パトリシア・ウルキオラの設計思想や経歴について詳しくはパトリシア・ウルキオラプロフィールページをご覧ください。
モローゾの歴史や他の製品について詳しくはモローゾブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | フィヨルド アームチェア / Fjord Armchair |
|---|---|
| デザイナー | パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola) |
| ブランド | モローゾ(Moroso) |
| 発表年 | 2002年 |
| デザインの成立国 | イタリア |
| 分類 | チェア/ラウンジチェア/アームチェア |
| 構造 | 内部スチールフレーム、難燃ポリウレタンフォームの注入発泡 |
| ベース | 粉体塗装スチールの角型ベース、回転式 |
| 張地 | ファブリックまたはレザー |
| サイズ | モデルにより異なる(ニューヨーク近代美術館収蔵品 186.2006.1-2 のアームチェアは高さ1020×幅950×奥行800mm) |
| コレクション構成 | アームチェア、小型アームチェア、椅子、スツール、テーブル |
Reference
- Fjord | Moroso
- https://moroso.it/en/prodotti/fjord-2/
- Fjord H | Moroso
- https://moroso.it/prodotti/fjord_h-sedie/
- Fjord, sgabelli | Moroso
- https://moroso.it/prodotti/fjord-sgabelli/
- Fjord Chair | Patricia Urquiola
- https://patriciaurquiola.com/product/fjord-table-2
- Patricia Urquiola. Fjord Armchair and Foot Stool. 2002 | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/101419
- Patricia Urquiola. Fjord Foot Stool. 2002 | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/112527