360° チェア:着座姿勢を固定しない回転チェア

360° チェアは、ドイツを代表するインダストリアルデザイナー、コンスタンティン・グルチッチが手がけ、イタリアの家具ブランド Magis(マジス)が2009年に発表した回転式チェアである。従来のオフィスチェアが固定された着座姿勢を前提として設計されるのに対し、本作は360度あらゆる方向からの着座を可能にするという、異なるアプローチで構想された。細長い座面には定められた「前」も「後ろ」もなく、使用者は姿勢を変えながら座るという着座経験へと導かれる。

グルチッチによれば、360° チェアは椅子でもスツールでもない「その中間に位置するもの」であり、長時間の静的な作業ではなく、短時間で即興的かつ流動的な着座——すなわち「ダイナミック・シッティング」を促す道具として設計された。

特徴とコンセプト

ダイナミック・シッティングという発想

360° チェアの設計の核心は「ダイナミック・シッティング」にある。同じ姿勢で長時間座り続けることが身体に及ぼす影響が知られるなか、グルチッチは固定した着座姿勢を前提としない椅子を設計することで応答した。座面は細長い楕円形に成形され、横向きにも、またがるようにも、斜めにも腰を下ろすことができる。5本脚のキャスターベースは滑らかな回転を実現し、ガスピストン式の無段階高さ調整機構により、デスクワークからスタンディングに近い姿勢まで対応する。

素材と構造

構造は簡潔である。フレームはエポキシ樹脂塗装を施したスチールチューブ、フットレストはダイキャスト成形のアルミニウムで構成される。座面は一体成形のセルフベアリング・ポリウレタンで、別途クッション材を挟まずとも素材そのものが弾力と耐久性を備える。装飾的な要素は抑えられ、各パーツが機能に直結している。

360° コレクションとしての展開

360° チェアは単体の製品にとどまらず、同名のオフィスファニチャーコレクションの一部として構想された。コレクションにはチェアのほか、ハイスツール、高さ調整式テーブル、キャスター付き収納コンテナが含まれ、流動的で柔軟な働き方を空間全体で実現するためのシステムを形成している。

デザインの背景

360° チェアは、2009年のミラノ・サローネ・インテルナツィオナーレ・デル・モービレで発表された。グルチッチと Magis の協働は2004年発売の Chair_ONE に始まり、その延長線上で、本作のような既存の類型に収まらない製品が生まれた。着座姿勢を固定しないという発想は、オフィス空間における椅子のあり方そのものを問い直すものであった。

評価と収蔵

360° チェアは、2010年にニューヨーク近代美術館(MoMA)建築・デザイン部門の永久収蔵品に、Magis からの寄贈として加わった(収蔵番号 125.2010)。同チェアおよびスツールは、2011年から2012年にかけて開催された企画展「Standard Deviations: Types and Families in Contemporary Design」でも展示された。

本作は、可動性を前提とする「アクティブ・シッティング」を代表する製品として位置づけられている。Architect Magazine など専門メディアでも取り上げられ、固定した姿勢を求めない働き方に適した設計として紹介されている。

基本情報

商品名(日本語) 360° チェア
商品名(英語) 360° Chair
デザイナー Konstantin Grcic(コンスタンティン・グルチッチ / 1965年– / ドイツ)
デザイン年 2009年
ブランド Magis(マジス / イタリア)
製造国 イタリア
分類 オフィス回転チェア
素材 フレーム:エポキシ樹脂塗装スチール / フットレスト:ダイキャストアルミニウム / 座面:一体成形セルフベアリング・ポリウレタン
サイズ W630 × D630 × H690〜780 mm(ガスピストンによる無段階高さ調整)
座面高 470〜560 mm(無段階調整)
カラー ブラック(現行)/ 過去にはオリーブグリーン、オレンジ、グレーも展開
機能 360度回転 / ガスピストン式高さ調整 / 5本脚キャスター
美術館収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久収蔵品(2010年収蔵、No.125.2010)