.03チェアは、ベルギーのデザイナー、マールテン・ヴァン・セーヴェレンが1998年にVitraのためにデザインしたスタッキングチェアである。直線的で簡潔な造形は「Less is more」という考え方に沿ったものだが、控えめな外観からは想像しにくい快適性を備えており、その座り心地は実際に腰かけて初めて分かる。

Vitraがヴァン・セーヴェレンと本格的に協働を始めたのは1996年のことで、.03チェアはその協働から生まれた最初の量産チェアである。それまで自身の工房で少量生産を続けてきたデザイナーにとって、Vitraとの提携は新素材への挑戦とより広い普及を意味した。1986年に最初の椅子を手がけて以来、彼が探求し続けた「椅子」という家具類型に対するひとつの回答が、この.03チェアに結実している。

特徴・コンセプト

.03チェアの最大の特徴は、わずか二種類の主要素材——チューブラースチールとポリウレタン——だけで構成される簡潔な造形にある。デザイナーは形態・素材・構造の三つの観点から椅子を検証し、必要最小限の要素で成立する解決策を追求した。

座面と背もたれは、一体成型のポリウレタン・インテグラルスキンフォームで形成されている。この素材は使用者の身体に柔らかく適応し、背もたれに組み込まれたリーフスプリング機構と相まって、身体を後方に傾けた際に上部がわずかにたわむことで快適性を高めている。フレームは後脚にチューブラースチール、前脚にアルミニウムプロファイルを用い、仕上げは黒または銀のパウダーコーティング、あるいはクロームめっきから選べる。

エピソード

10年以上をかけた到達点

.03チェアがVitraから量産されるまでには、長い蓄積があった。ヴァン・セーヴェレンが最初の椅子をデザインしたのは1986年で、以来彼は椅子という類型を繰り返し検証し、自身の工房で数々のプロトタイプを制作してきた。1998年にVitraが.03チェアを発表するまでの探求の過程が、この椅子の完成度を支えている。

コーネル大学ミルスタイン・ホール

2011年に竣工したコーネル大学ミルスタイン・ホールには、数百脚の.03チェアが導入された。建築・芸術・都市計画を統合する教育施設において、控えめでありながら実用性に優れた.03チェアが、学びの場の座具として選ばれている。

MoMAパーマネントコレクション

ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、.03チェアをパーマネントコレクションに収蔵している。製造元Vitraからの寄贈によるもので(収蔵番号387.2009.1-2)、建築・デザイン部門の所蔵品として登録されている。20世紀末から21世紀初頭の家具デザインを代表する一脚として位置づけられている。

評価

.03チェアは発表以来、ミニマルな造形と座り心地の両立という点で評価されてきた。視覚的な主張を抑えながら、腰かけると見た目以上の快適さが得られることが、この椅子の要である。

スタッキング仕様のバージョンは床置きで最大10脚、専用の台車を使えば20脚まで積み重ねられる。この実用性から、オフィス、会議室、講堂、カフェテリア、図書館など、公共・私的を問わず幅広い空間で採用されている。控えめな存在感ゆえに、どのような空間にも無理なく調和する点も、長く使われ続ける理由のひとつである。

基本情報

デザイナー マールテン・ヴァン・セーヴェレン(Maarten Van Severen)
ブランド Vitra(ヴィトラ)
デザイン年 1998年(発表:1999年)
分類 チェア(ダイニングチェア/スタッキングチェア)
素材 座面・背:ポリウレタン・インテグラルスキンフォーム/フレーム:チューブラースチール(後脚)、アルミニウムプロファイル(前脚)
仕上げ パウダーコーティング(黒・銀)、クロームめっき
寸法 W 380mm × D 525mm × H 790mm(座面高:420mm)
スタッキング 可(床置き最大10脚、専用台車使用時20脚)
コレクション収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション(387.2009.1-2)