マールテン・ヴァン・セーヴェレン(Maarten Van Severen, 1956年6月5日 - 2005年2月21日)は、ベルギーを代表する家具デザイナー、インテリア建築家である。「Less is More」の精神を体現する純粋で簡潔なフォルムと、素材への深い理解に基づく革新的な家具デザインにより、国際的なデザイン界においてベルギー人デザイナーとしては稀有な地位を確立した。

バイオグラフィー

1956年、ベルギー・アントワープに生まれる。父は抽象画家として知られるダン・ヴァン・セーヴェレン、弟のファビアン・ヴァン・セーヴェレンもまたデザイナーとして活躍するなど、芸術的環境に恵まれた家庭で育つ。1970年代から80年代にかけてヘント王立芸術アカデミーにて建築を学ぶが、3年間の履修を経て中退。その後、複数のインテリアデザイン事務所にてインテリアデザインと家具製作に従事する。

1986年、家具デザイナーとしてのキャリアをスタートさせ、翌1987年にはヘントに自身のアトリエを設立。ここで限定的な半工業生産による家具製作を開始する。最初の作品は、細長いスチール製テーブルであり、後にアルミニウム製へと改良を重ね、その純粋なフォルムは長年にわたり洗練され続けた。1989年には初の木製テーブルを発表し、1990年からは椅子のデザインに着手。以降、基本的な家具類型—椅子、テーブル、シェーズロング、シェルフ、キャビネット—の探求に生涯を捧げることとなる。

1990年より建築家レム・コールハースおよびOMA(Office for Metropolitan Architecture)との密接な協働を開始し、インテリアデザインプロジェクトにも活動領域を拡大。同時期より、コルトレイクの西フランダース大学カレッジ(1996年)、マーストリヒト芸術アカデミー(1996-97年)、デルフト工科大学(1998年)、ヘルシンキおよびバルセロナの大学(2000年)など、複数の教育機関にて教鞭を執る。

1996年、スイスの家具メーカーVitraとの協業を開始。これは彼のキャリアにおける重要な転換点となり、新素材を用いたデザインの可能性と、より広範な国際的影響力をもたらすこととなった。2005年2月21日、48歳の若さで癌により逝去。その芸術的遺産を研究目的で公開・保存することを願う遺志に基づき、家族と友人らによりマールテン・ヴァン・セーヴェレン財団が設立された。アーカイブはヘント市立公文書館「De Zwarte Doos」にて保管されている。

デザイン思想とアプローチ

ヴァン・セーヴェレンのデザイン哲学は、形態、ディテール、そして製作における完璧性の追求に貫かれている。抽象画家の父から受け継いだ芸術的感性は、機能に焦点を当てた簡潔な構造と色彩によって特徴づけられる、独自のミニマリストデザインへと昇華された。

しかしながら、本人は「ミニマリズム」という言葉の使用に消極的であった。彼の見解では、デザインにおけるミニマリズムはむしろデザイナーの個性を最小化すべきであり、自身の作品のシンプルな線をミニマルと評することは容易であるが、それは実際にはマキシマリストな体験を志向するものであった。また「デザイナー」という呼称にも違和感を覚え、自らは「ものを作る」、「共に暮らすためのものを作る」と表現することを好んだ。

設計と製造の統一的プロセスは、彼の仕事における根本的な側面であった。初期から長期にわたり、ヘントのアトリエにおいて自らデザインし、製作まで手がけることで、各作品の創造過程に最初から最後まで関与することを可能とした。この姿勢により、作品の多くは限定生産品となり、形態、素材、そして構造に関する包括的な探求に基づく根本的な解決策を生み出すことができた。

作品の特徴

ヴァン・セーヴェレンの家具は、建築的ともいえる洗練されたフォルムによって特徴づけられる。すべての装飾が削ぎ落とされ、力は純粋に形態から生まれる。アルミニウム、合板、スチール、ベークライト、ポリエステル、レザーなど多様な素材を駆使し、それぞれの素材特性を最大限に活かしたデザインを追求した。

特筆すべきは、見かけの簡素さとは裏腹に、各作品が建築物に匹敵する技術的複雑さを内包している点である。究極の椅子を創造するという多くのデザイナーが共有する目標に向け、最適な形態と製造プロセスを追求し続けた。彼の家具は、経験的研究から導き出された座り心地と応用技術、そして純化された形態の高度な統合として成立している。

作品の本質は、不必要な要素の徹底的な排除に見出される。一見してシンプルでありながら、使用することで初めてその卓越した快適性が明らかになる—これがヴァン・セーヴェレンのデザインに通底する美学であり、時代を超越した普遍性と耐久性を獲得する所以である。

主な代表作とエピソード

.03チェア(1998年、Vitra)—ヴァン・セーヴェレンにとって初の工業生産による椅子であり、Vitraとの協業の成果を象徴する作品である。控えめな外観からは想像しがたい卓越した座り心地を実現。弾力性のあるインテグラルスキン・ポリウレタンフォームで形成されたシート・シェルは、使用者の体に適合し、背もたれに組み込まれた板バネにより後方に傾くと柔軟に追従する。最大10脚まで積み重ね可能なスタッキング機能を備え、講堂やセミナールームなど長時間の着座を要する空間に理想的な椅子として評価される。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されている。

LCPシェーズロング(2002年、Kartell)—「Low Chair Plastic」の略称を持つこの作品は、単一の透明PMMAモールドから形成され、自らに折り返すことで革新的な形態を創出した傑作である。Kartell独自の技術によって初めて可能となった柔軟性を持ちながら、形態の純粋性を維持。透明でありながら弾力性と耐久性を兼ね備え、洗練されたデザイン愛好家のための逸品として、MoMAの永久コレクションにも収蔵されている。

MVSシェーズ(2000年、Vitra)—一見して彫刻的オブジェクトのように見えるが、使用することでその快適性が明らかになるシェーズロング。弾力性のある素材が体の形状に適合し、柔らかく心地よい感触を提供する。ステンレススチール製のフレーム構造により、座位からリクライニング位置への移行が容易に行える革新的な設計となっている。

T88Aテーブル(1988年、Lensvelt)—ヴァン・セーヴェレン最初期の代表作であり、高品質アルミニウムで製作された細長いテーブル。40時間にわたり一人の職人によって手作業で研磨され、ストロークに一切の不規則性がないよう仕上げられる。パリ・ポンピドゥー・センターの永久コレクションに収蔵されるなど、その芸術的価値は広く認められている。

CN° IIチェア(1992年)—単一のアルミニウム板を曲げて形成されたローチェア。1992年のコルトレイク・インテリア・ビエンナーレにおいて「Design for Europe賞」を受賞し、国際的な評価を確立する契機となった作品。MoMAの永久コレクションに収蔵されている。

U-Lineランプ(1997年、Target Lighting / Light)—照明デザインにおけるヴァン・セーヴェレンの代表作。iF デザイン賞を受賞した純粋で時代を超越したデザインのランプシリーズ。アノダイズド・アルミニウムで製作され、デスクランプ、フロアランプ、ペンダントランプなど複数のバリエーションが展開された。

Blue Bench BB97(1997年、Edra)—ポリウレタンフォームとコーティングにより製作された革新的なベンチ。その独特な青い色彩と彫刻的形態により、家具とアートの境界を曖昧にする作品として高い評価を受けている。

インテリアデザインプロジェクト

家具デザインと並行して、ヴァン・セーヴェレンはインテリア建築においても国際的な称賛を獲得した。特にレム・コールハース率いるOMAとの協働は注目に値する。

ヴィラ・ダラヴァ(1990-91年、パリ近郊サン=クルー)—コールハースとの最初の協働プロジェクト。金属製階段のデザインを担当した。

メゾン・ア・ボルドー(ルモワーヌ邸、1996-98年、フランス・フロワラック)—タイム誌が「20世紀最も重要な個人住宅」と評した建築のインテリアおよび可動プラットフォームのデザインを担当。車椅子を使用する施主のために設計された革新的なエレベーター/部屋は、建築史に残る傑作として知られる。

シアトル中央図書館(2004年、アメリカ)—コールハース/OMAと共に、この画期的な公共建築の家具および新しいシェルビングシステムをデザイン。

カーサ・ダ・ムジカ(2005年、ポルトガル・ポルト)—コンサートホールの客席デザインを担当。

ファン・アッベミュージアム(2001-03年、オランダ・アイントホーフェン)—図書館、レセプションデスク、ミュージアムショップ、カフェテリア、オーディトリアムなどの公共スペースをデザイン。明確なプロポーションとバランスが特徴的な空間を創出した。

ボクシー・ブラザーズのキッチン・パビリオン(2005年、ベルギー・ドゥールル)—双子のシェフ、ステファンとクリストフ・ボクシーのために設計した、彼が手がけた唯一の総合的建築プロジェクト。これが最後の大型プロジェクトとなった。

功績と業績

ヴァン・セーヴェレンは、ベルギー出身のデザイナーとしては稀有な国際的成功を収めた人物として評価されている。その功績は数々の受賞により認められている。

  • 1992年:Design for Europe賞(コルトレイク・インテリア92ビエンナーレ)
  • 1998年:ヘンリー・ヴァン・デ・ヴェルデ賞
  • 1998年:フランダース文化大使に任命
  • 1998年:フランダース政府デザイン賞
  • ハノーファーメッセ・デザイン賞
  • iF デザイン賞(U-Lineランプ)

その作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、パリ・ポンピドゥー・センター、ロンドン・ヴィクトリア&アルバート博物館、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、リスボン・デザインミュージアム、ヘント・デザインミュージアムなど、世界有数の美術館・博物館の永久コレクションに収蔵されている。

評価と後世への影響

ヴァン・セーヴェレンの作品は、その死後も変わらず現代的であり続け、流行に左右されない普遍性を獲得している。どのような時代においても、どのようなインテリアにおいても調和する—これは彼の作品の真髄であり、コールハースのモダニズム建築からアクセル・フェルフォールトのクラシカルな空間まで、あらゆる環境において際立つ存在感を放つ。

2008年に設立されたマールテン・ヴァン・セーヴェレン財団は、その遺産の保存と普及に努めている。アーカイブはヘント市立公文書館、フランダース建築アーカイブセンター、ヘント・デザインミュージアム、ヘント大学建築・都市計画学部との連携のもと管理されている。

また、彼の息子であるハンネス・ヴァン・セーヴェレンは、写真家フィエン・ミュラーとともに「Muller Van Severen」としてデザインユニットを結成。父の遺志を継承しながらも独自の色彩感覚と形態言語を発展させ、2021年にはヘンリー・ヴァン・デ・ヴェルデ・ラベルを受賞するなど、新世代のベルギーデザインを牽引している。

ヴァン・セーヴェレンの遺したものは、単なる家具の形態を超えている。デザインを「脳の体操」と捉え、完璧を追求し続けた姿勢、素材への誠実なアプローチ、そして「共に暮らすためのもの」を作るという哲学は、現代のデザイナーたちに深い影響を与え続けている。

年月 区分 作品名 ブランド
1988年 テーブル T88A Table(アルミニウム) Top-Mouton / Lensvelt
1988年 テーブル T88W Table(オーク材) Top-Mouton / Lensvelt
1988年 椅子 F88 Chair Top-Mouton / Lensvelt
1990年 キャビネット K7V90 Cupboard MVS Studio / Lensvelt
1991年 インテリア Villa dall'Ava Interior OMA / Rem Koolhaas
1992年 椅子 CN° II Chair MVS Studio
1992年 ローテーブル LT92 Low Table MVS Studio / Lensvelt
1993年 椅子 LC93 Low Chair TM (Top-Mouton) / Lensvelt
1994年 本棚 CK94 Bookcase MVS Studio
1995年 シェーズロング LC95 / CHL95 Chaise Longue MVS Studio / Lensvelt
1997年 ベンチ BB97 Blue Bench Edra
1997年 照明 U-Line Lamp(デスク・フロア・ペンダント) Target Lighting / Light
1997年 インテリア ヘント美術館エントランスホール
1997年 オフィス家具 Schraag BULO
1997年 キッチン Kitchen System Obumex
1998年 椅子 .03 Chair Vitra
1998年 インテリア ヘント市庁舎エントランスホール
1998年 椅子 S88 Armchair Lensvelt
1999年 インテリア メゾン・ア・ボルドー(ルモワーヌ邸) OMA / Rem Koolhaas
1999年 屋外家具 Pont du Gard Outdoor Furniture
1999年 インテリア SMAK(現代美術館)ヘント
2000年 シェーズロング MVS Chaise Vitra
2002年 シェーズロング LCP (Low Chair Plastic) Kartell
2003年 インテリア ファン・アッベミュージアム公共スペース
2004年 ラウンジチェア LL04 Lounge Chair Pastoe
2004年 インテリア シアトル中央図書館 家具・シェルビング OMA / Rem Koolhaas
2005年 椅子 .05 Chair Vitra
2005年 椅子 .06 Lounge Chair Vitra
2005年 インテリア カーサ・ダ・ムジカ コンサートホール客席 OMA / Rem Koolhaas
2005年 建築 ボクシー・ブラザーズ キッチンパビリオン

Reference