ルチェリーノ(Lucellino)は、ドイツの照明デザイナー、インゴ・マウラーが1992年に発表した照明である。電球にガチョウの羽根でつくった翼を取り付けた、それだけの器具で、名はイタリア語の「luce(光)」と「uccellino(小鳥)」を掛け合わせた造語。光そのものが飛び立とうとしているように見える。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)はウォールタイプを収蔵している(Object no. 300.1999、デザイナーからの寄贈)。
特徴・コンセプト
工業製品である電球と、有機的な素材である羽根。ルチェリーノはこの二つを、シェードもスタンドも介さずに直接結び付けている。マウラーが照明において重視した詩情とユーモアと技術の三つが、最小の部品数で同時に成立している。
素材と構造
ガラスの電球、真鍮のワイヤー、プラスチック部品、そして職人が一枚ずつ手作業で仕上げるガチョウの羽根で構成される。翼はE27の口金に直接載る。真鍮のワイヤーは自由に曲げられるため、光の向きや電球の高さは使い手が決めることになる。電球には赤いコードが直接はんだ付けされている。
羽根は繊細なため、高湿度の環境での使用は推奨されていない。手入れは絵筆などで軽く埃を払う程度でよい。
電球へのオマージュ
マウラーは白熱電球を工業と詩の結合として敬愛し、その美しさを主題にした作品を生涯にわたって発表した。欧州連合が白熱電球の規制に踏み切った際には反対を表明し、電球を文化遺産として扱うべきだとまで述べている。ルチェリーノは、日常の道具である電球に翼を与えるという操作ひとつで、それを見慣れないものに変えてみせた作品である。
専用の電球
オリジナル仕様のルチェリーノは、24Vの艶消し電球を使用する。この規格の電球は1990年代まで鉄道車両で使われていたもので、現在はインゴ・マウラー社のために専用に製造されており、ルチェリーノのシリーズ以外では使用できない。2015年には光源を刷新した仕様に更新され、LEDバージョンでは同社が独自に開発した「Ambient」光源が用いられている。ハロゲンとほとんど見分けのつかない光質を保ちながら、消費電力を抑えることが目的だった。
エピソード
ルチェリーノは、同じ1992年に発表された大型シャンデリア「Birds Birds Birds」の系譜にある。羽根の付いた電球が群れをなして舞うあの作品を、テーブルの上に一羽だけ置いたもの——と言い換えてもよい。翼を持つ電球という着想が、スケールを変えて日常の距離まで降りてきた形である。
発表から30年以上を経て、ルチェリーノはインゴ・マウラー社の製品のなかで最もよく知られた一つになった。
製品バリエーション
- Lucellino Table:テーブルランプ。ベッドサイドやコンソールなど、小さな面に置く。高さ約45cm。
- Lucellino Wall:壁付けタイプ。MoMAが収蔵しているのはこのモデルである。
- Lucellino Doppio:羽根付き電球を二つ配したタイプ。
- Lucellino NT:光源を更新した現行仕様。ハロゲンとLEDから選択できる。
調光は、LED仕様ではベースに組み込まれたセンサーディマーで、ハロゲン仕様では外部トランスのディマーで行う。
評価
ルチェリーノは発表直後から国際的に受け入れられ、MoMAのコレクションに加えられた。照明器具でありながら、光源を隠すのではなく主題として扱うマウラーの一貫した姿勢が、最も簡潔なかたちで表れた作品として位置づけられている。
基本情報
| 名称 | ルチェリーノ(Lucellino) |
|---|---|
| デザイナー | インゴ・マウラー(Ingo Maurer) |
| 発表年 | 1992年 |
| メーカー | インゴ・マウラー社(Ingo Maurer GmbH) |
| 生産国 | ドイツ(ミュンヘン) |
| 素材 | ガラス、真鍮、プラスチック、ガチョウの羽根(手作業) |
| 光源 | 24V 専用電球(オリジナル)/ハロゲン、LED「Ambient」(現行) |
| ソケット | E27 |
| 調光 | LED:センサーディマー/ハロゲン:外部トランスのディマー |
| 寸法(Table) | 高さ約45cm × 直径約16cm |
| 使用上の注意 | 高湿度環境での使用は不可 |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA/Lucellino Wall Lamp, Object no. 300.1999) |