概要
トリイスツールは、渡辺力が1956年に設計し、山川ラタン(現・ワイ・エム・ケー長岡)が製造する籐のスツールである。型番はQS-10。正面から見た姿が神社の鳥居に似ていることから呼び習わされた通称で、設計者が付けた名ではないとされる。
雑誌『モダンリビング』が企画した住宅と家具のケーススタディから生まれ、翌1957年の第11回ミラノ・トリエンナーレで金賞を受けた。発売以来、受注生産のかたちで供給が続いている。
渡辺力の設計思想や経歴について詳しくは渡辺力 プロフィールページをご覧ください。
特徴・コンセプト
横材が形を決めている
正面から見ると、左右の脚が立ち上がり、その間を一本の横材が渡る。鳥居に見えるのはこの構成による。
横材は意匠上の要素ではなく貫にあたる。脚を座に取り付けただけの構造は、腰を下ろしたときに脚が外へ開き、座枠がゆがむ。脚と座を結ぶ位置に材を入れることで、開こうとする力を受け止め、同時に脚と座の接合を固定している。籐は木材よりよく曲がるぶん、この拘束を欠くと形が保たれない。脚と座をつなぐ仕口の取り方は、この製品の構造上の要点として説明されてきた。
座は平らではない
座面は水平な板ではなく、両端が持ち上がった曲面をとる。三次元に湾曲させたフレームに皮籐を編み込んで面をつくるため、張り込みではなく編み上げる工程そのもので曲面が決まる。
編んだ籐の面には弾力があり、荷重がかかると面がわずかに沈む。硬い板を張った座にはない当たりの柔らかさは、素材と工法の組み合わせから来ている。
なぜ籐なのか
籐は加熱すれば曲がり、細く裂けば編める。型を起こさずに三次元の曲線と面を得られる材料で、設備の面での制約が小さい。同じ1956年に発表された柳宗理のバタフライスツールが、三次元の成形合板を扱える工場を探すところから始まっているのと対照的である。
いっぽう籐の家具は一点ずつ人の手で編まれる。左右対称の構えと部材の細さは、その手仕事の精度に依存している。型で量をつくる方向ではなく、職人の作業を前提に成り立つ設計といえる。
夏の家具からの移動
日本で籐の家具は、涼しさを求める夏の季節家具として扱われてきた。寝椅子や縁側の椅子といった用途に結びつき、通年の居間に置く家具の材料とは見なされにくい位置にあった。
トリイスツールは、その籐を室内で通年使う椅子の素材として組み直している。東京国立近代美術館は、伝統的な素材である籐をデザインの過程で捉えなおした製品として、これを渡辺の代表作に挙げている。
エピソード
雑誌の企画から
製造元のワイ・エム・ケー長岡によれば、この製品は雑誌『モダンリビング』が企画した「ケーススタディハウス」の家具版の試みから生まれている。特定の施主からの注文ではなく、住宅と家具を組で提案する誌上の企画が出発点にあたる。
設計されたのは1956年で、同じ籐による円形のテーブルもあわせて手がけられている。
先行する木のスツール
渡辺は1954年、清家清が設計した住宅「数学者の家」(東京都目黒区)の家具を担当し、玄関に置くスツールを設計している。二枚の無垢板の座を細い鋼棒の脚で支えるもので、座の下で脚と座をつなぐ構成はトリイスツールに通じる。2005年にこれを製品化したメトロクスは、この一脚をトリイスツールのもとになったスツールとして位置づけている。
木と鋼で組んだ構成を籐に置き換えたとき、直線だった稜は曲線になり、板張りの座は編み面になった。同じ骨組みの考え方が、材料の性質に合わせて別の姿をとっている。
現行品は初期のものと異なる
いま生産されているものは、発売当時の構造そのままではない。武蔵野美術大学美術館・図書館は、渡辺が自作を設計し直して現行の構造と形に至ったとしている。メトロクスが2017年に初期モデルと現行モデルを並べて展示した際も、裏返すと違いがわかると説明されていた。
変更が加えられた年代は公表されていない。
評価と影響
一般的に、戦後の日本のモダンデザインを代表する家具のひとつとして扱われている。ジャパニーズモダンを論じる際に参照されることが多く、籐を用いた家具が季節ものの枠を出た例として挙げられる。
発表から70年近くを経て、受注生産のかたちで供給が続く。本体色は木地とダークブラウンの2種が用意されている。
受賞
1957年の第11回ミラノ・トリエンナーレで金賞を受けた。日本が初めて参加した回にあたる。同じ時期に設計された籐の円形テーブルも、受賞作としてあわせて挙げられることが多い。
基本情報
| デザイナー | 渡辺 力 |
|---|---|
| ブランド | ワイ・エム・ケー長岡(旧・山川ラタン) |
| 発表年 | 1956年 |
| デザインの成立国 | 日本 |
| 主要素材 | 籐(座面は皮籐編み) |
| サイズ | 幅480 × 奥行350 × 高さ460mm |
| 座面の高さ | 430mm |
| 型番 | QS-10 |
Reference
- スツール QS-10 | 籐家具・ラタン家具の製造・販売|ワイ・エム・ケー長岡
- https://ymk-pro.co.jp/products/stool/283/
- 渡辺力:リビング・デザインの革新(東京国立近代美術館)
- https://www.momat.go.jp/exhibitions/428
- 8-13 トリイスツール|みんなの椅子(武蔵野美術大学 美術館・図書館)
- https://chairs-for-all.musabi.ac.jp/archives/chair/8-13
- トリイスツール|METROCS
- https://metrocs.jp/products/detail/236
- ソリッドスツール|METROCS
- https://metrocs.jp/products/detail/237
- 渡辺力デザイン『トリイスツール』新旧比較!|METROCS Tokyo
- https://tokyo.metrocs.jp/archives/20658