プリアチェア ― 透明な座面で空間に溶け込む折りたたみ椅子
1967年、ミラノ・サローネ(国際家具見本市)で発表されたプリアチェアは、折りたたみ椅子の見え方を大きく変えた一脚である。ジャンカルロ・ピレッティが設計し、アノニマ・カステッリが製造するこの椅子は、透明なプラスチックの座面とクロームメッキのスチールフレームによって、実用一辺倒になりがちな折りたたみ椅子に軽やかな佇まいを与えた。発表以来半世紀以上を経た現在も生産が続けられ、累計販売数は700万脚を超える。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の収蔵品にも加えられ、20世紀イタリアンデザインを代表する製品のひとつに数えられている。
デザインの特徴とコンセプト
プリアチェアの特徴は、ピレッティが開発した「三枚ディスクヒンジ(perno a tre dischi)」と呼ばれる回転機構にある。背もたれ、脚部、座面を3枚の金属ディスクで接合することで、椅子全体を厚さ約5センチメートルにまで折りたためる。折りたたんだ状態では専用のウォールフックに掛けて壁面に収納でき、展開した状態ではスタッキングにも対応する。
素材の構成も特徴的である。楕円断面のクロームメッキ・スチールチューブによるフレームと、ダイキャスト製アルミニウム合金のヒンジ、そして透明樹脂(初期モデルはセリドール、現行モデルはポリカーボネート)による座面と背もたれを組み合わせ、視覚的な軽さと構造的な強度を両立させている。透明な座面は空間に圧迫感を与えず、椅子の存在感を抑えることで、狭い空間にも取り入れやすい。
ピレッティの設計思想の根底には「デモクラティック・デザイン(民主的デザイン)」の理念があった。簡潔な構造と効率的な製造工程によって低コストでの量産を可能とし、優れたデザインをより多くの人々に届けるという考え方である。プリアチェアはその理念に沿って生み出された製品として、デザイン史において確かな位置を占めている。
誕生の経緯
プリアチェアが初めて公の場に姿を現したのは、1967年のミラノ・サローネである。「プラスチックに焦点を当てた新時代の象徴」として紹介されたこの椅子は、来場者から高い注目を集めた。1969年の本格的な量産開始以降、プリアチェアは世界中に普及し、カステッリを代表する製品となった。
なお、プリアという名称はイタリア語で「折りたたむ」を意味する動詞「piegare」に由来し、この椅子の機能を端的に表している。
評価と受賞歴
プリアチェアは発表以来、国際的なデザイン賞を受けている。1971年にはリュブリャナ・ビエンナーレにおいてBIO 5賞を、1973年にはドイツ連邦共和国のグーテ・フォルム賞(Gute Form)を受賞した。いずれもプリアの機能性と構造を評価したものである。
美術館・博物館における収蔵も、プリアチェアの評価を裏付けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションに加えられたほか、オーストリア、チェコ、スロベニア、アメリカ合衆国の各国の博物館にも収蔵されている。
基本情報
| 正式名称 | プリアチェア / Plia Chair |
|---|---|
| デザイナー | ジャンカルロ・ピレッティ / Giancarlo Piretti(イタリア、1940年 ボローニャ生まれ) |
| デザイン年 | 1967年(量産開始:1969年) |
| 製造 | アノニマ・カステッリ / Anonima Castelli(イタリア・ボローニャ) |
| 素材 | クロームメッキ・スチールチューブ(楕円断面)、ダイキャスト製アルミニウム合金ヒンジ、ポリカーボネート(座面・背もたれ) |
| サイズ | W47〜51 × D48〜50.5 × H75〜76 cm(座面高:約43〜45.5 cm) |
| 折りたたみ時 | 厚さ約5 cm |
| 重量 | 約3 kg |
| 機能 | 折りたたみ可能(三枚ディスクヒンジ機構)、スタッキング可能、壁掛け収納対応 |
| カラーバリエーション | トランスパレント(透明)、スモーク、ピンク、イエロー、レッド、ブラック、ウィーン藁(籐)仕様 ほか |
| 主な受賞歴 | BIO 5賞(リュブリャナ・ビエンナーレ、1971年)、グーテ・フォルム賞(ドイツ、1973年) |
| 美術館収蔵 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)ほか |
| 累計販売数 | 700万脚以上(1969年〜) |