概要

ヒモイスは、渡辺力が1952年に発表した低座椅子である。ナラの直材だけで枠を組み、座と背には紐を縦横に張って面をつくる。座面の高さは300mmで、座と背には専用のクッションを設けず、家にある座布団を載せて使う。

戦後まもない日本で、限られた材料と設備でつくれる椅子として考えられたものにあたる。発表当時の製造は横山工業が担い、のちに生産は途絶えた。2010年代に復刻され、現在はモノ・モノが「ひも椅子」の名で生産している。

特徴・コンセプト

直材だけで組む

枠を構成するのは直線の材だけで、曲面も成形部品も含まれない。現行品を扱うメトロクスも、この椅子を直材と紐だけで構成されたものと説明している。

曲木や成形合板で椅子をつくるには、型と圧締の設備、加熱や接着の工程が要る。材料も加工の機械も十分でなかった当時の日本では、それを前提にできる作り手が限られていた。製材した角材を切り、穴をあけ、組むだけで椅子になる構成は、設備の側の制約から選ばれている。

座面と背をつくるのは紐

座にも背にも板がなく、張り地もない。枠にあけた穴へ紐を通し、縦横に渡して面にしている。

椅子に布を張り込めば、生地と詰め物の材料費に加え、張る工程と手間がかかる。紐を張る構成はその一式を省く。荷重は紐が引っ張りで受けるため、面を支える板材も必要ない。枠は紐が引く力を受け止めればよく、部材は細い断面のままで足りる。

紐には当初、木綿のものが使われた。現行品ではビニロンの繊維に替わっている。

座面高300mmという寸法

食事用の椅子の座面がおおむね400mm台であるのに対し、この椅子は300mmに置かれている。

渡辺は自身の作品集『素描・渡辺力』(建築家会館)に本作の図面とともに、座と背のクッションには座布団を使うこと、低い座位は畳の上での使い方も考えたと書き残している。椅子に掛ける習慣がまだ広くなかった住まいへ、床に座る暮らしと並べて置ける高さとして選ばれた寸法にあたる。

クッションは座布団で代える

座と背に当てるクッションを製品として用意せず、どの家にもあった座布団を載せる前提に立っている。専用の詰め物と張り地を設計に含めないことで、材料費と工程がさらに落ちる。

紐で張った面には弾力があり、座布団を載せるとその沈み込みを受け止める。メトロクスは、夏に座布団を外して紐の面に直接腰を下ろす使い方を紹介している。

シェーカーを知ったのは後年だった

枠に紐を渡して面をつくる手法には、18世紀末のシェーカー教徒がベッドの受けに用いた例が知られている。ただし渡辺は、それを知ったのは1970年代に入ってからだと同じ書物に記している。紐の面は先行する家具を参照して選ばれたものではなく、手に入る材料と工程の条件から出ている。

エピソード

百貨店の展示で発表された

1952年、日本橋三越で開かれた新日本工業デザイン展に出品された。毎日新聞社が主催した展示で、東京国立近代美術館はこれをヒモイスの発表の場として年譜に記している。

製造と販売は横山工業が担った。渡辺は後年、この椅子を自身の公認された最初の作品と位置づけている。

松屋のグッド・デザイン・セクションに選ばれる

1955年、銀座松屋にグッド・デザイン・セクションが設けられ、ヒモイスが選定されている。設計の質で選んだ製品を売り場に並べて示す試みで、通商産業省がGマーク制度を始めるのはその2年後の1957年である。

復刻で変わったところ

原型の生産がいつ終わったかは公表されていない。2013年、「ロープチェア」の名で101台限定の復刻品が供給され、メトロクスが取り扱いを始めている。

同店が自店で所蔵する当時の一脚と復刻品を並べて比較した記録によれば、横に渡す紐は5本から8本へ、縦の紐は13本から15本へ増え、紐を通す穴の数も変わっている。フレームの外へ出ていた結び目は内側へ納められ、紐は木綿から合成繊維の混紡ロープに替わった。強度を上げるための変更とされている。

現行のひも椅子を生産するのはモノ・モノで、フレームの形状は当初のまま再現し、紐の素材と結び目の位置は使い勝手と耐久性の面から見直したとしている。完成した状態で届くものと組み立て式のものの2種があり、後者には紐を張るための専用クランプと仕上げ用のオイルが付属する。

評価と影響

一般的に、戦後日本のモダンデザインの初期を代表する椅子のひとつとして扱われている。東京国立近代美術館は、床に座ることを旨とする日本の住生活へ、西洋の生活様式の要素である椅子を組み合わせた作として本作を挙げている。近代日本の生活のかたちを明快に示したものとして、国内外で高く評価されてきたという位置づけである。

発表から70年以上を経て、復刻による生産が続いている。

基本情報

デザイナー 渡辺 力
ブランド モノ・モノ(現行品)/横山工業(発表当時)
発表年 1952年
デザインの成立国 日本
主要素材 ナラ材(オイル仕上げ)、ビニロン繊維の紐 ※現行品。当初は木綿の紐
サイズ 幅535 × 奥行770 × 高さ735mm(現行品)
座面の高さ 300mm
重量 約6.6kg(現行品)

Reference

ひも椅子|METROCS 公式オンラインストア
https://metrocs.jp/item/5887/
プロダクト 家具、その他|渡辺力(METROCS)
https://metrocs.jp/special/rikiwatanabe/products_others.html
渡辺力:リビング・デザインの革新(東京国立近代美術館)
https://www.momat.go.jp/exhibitions/428
渡辺力さん「ロープチェア」が復刻|METROCS Tokyo
https://tokyo.metrocs.jp/archives/11719
ローコスト椅子「ヒモイス」1952年|All About
https://allabout.co.jp/gm/gc/40345/