概要

ジン シェーズロングは、オリヴィエ・ムルグがフランスのエアボーンのために設計した寝椅子である。鋼管の骨組みにウレタンフォームを重ね、全体をファスナーで着脱できるジャージーのカバーで覆う。1964〜65年に発表された「ジン」シリーズの一点で、ラウンジチェアやオットマン、ローテーブルと同じ構成をとる。1968年の映画『2001年宇宙の旅』の室内に用いられて広く知られるようになった。エアボーンによる製造は長く続いたが、現在の同社の製品群には含まれていない。

特徴・コンセプト

骨組みを見せず、全体を布で包む

V&Aは、このシリーズにおけるムルグの新しさを、椅子の全体を張りぐるみにした点に見ている。鋼管の骨組みはフォームとカバーの内側に収まり、外形は布とフォームの起伏で決まる。同シリーズの椅子についてのV&Aの記録では、外に出る金属は床に触れる箇所でカバーを守る小さな滑り材だけである。背から座、脚先へと起伏しながら途切れずにつながる輪郭は、構造材を外に出さないこの構成によって成り立っている。

軽さを優先した構成

ムルグは2012年のV&Aとのやり取りのなかで、ジンでは脇に抱えて運べるほど軽い椅子を求めていたと説明している。細い鋼管にフォームを載せる構成はこの軽さと結びついており、ムルグ自身はシリーズの椅子の重さを10〜12kg程度としている。全長が170cm前後あるシェーズロングはそれより重く、メトロポリタン美術館の記録では約19kgである。

季節で替えるカバー

カバーはファスナーで外すことができ、ムルグは衣服のように替えて洗えることを意図していた。MoMAの解説によれば、季節ごとに掛け替えることも想定されていた。ムルグの記述では、カバーにはベルナール・ジョリエ製のジャージーが用いられ、明るい色が15色用意された。張り地を本体に固定せず、取り替えのきく外装として扱った点について、MoMAは柔軟さと使い捨ての発想を試みたものと位置づけている。

カバーの素材は資料によって記載が異なる。MoMAはナイロンジャージー、ポンピドゥー・センターは混紡のジャージーとし、ムルグ自身とV&Aの椅子の記録はウールのジャージーとしている。

床に近い姿勢

座面は床に近く、身体を低く横たえる姿勢を前提とする。V&Aは、ジンの極端に低い座を、改まって腰掛けるためではなく身体を預けるためのものとし、1960年代の生活のくだけた流儀を映していると解説している。MoMAの解説は、ムルグが帝政様式の古家具に囲まれたパリの住まいで育ち、そうした家具を嫌っていたことを伝えている。1965年には、その種の家具は生活と関わりがなく、置かれた部屋ではくつろげないと語っており、くつろぎを形によって実現することが彼の仕事の特徴になったと同館は解説する。同館はまた、ムルグの低い座具が住宅とオフィスの双方に向けて作られたことにも触れている。

エピソード

シリーズの成立と年代

ムルグ自身の記述によれば、ジンは1964〜65年にエアボーンのトゥルニュ工場から送り出された家具の一群で、2人掛け、シェーズロング、オットマン、ラウンジチェア、ローテーブルからなる。シリーズの卓はジン・テーブルとして現存する。

シェーズロングの年代は収蔵館によって記録が異なり、V&Aは1963年設計・1964年製造、MoMAとポンピドゥー・センターは1964〜65年、メトロポリタン美術館は1965年設計としている。V&Aの記録に従えば、シェーズロングは1964年には製造されていた。

「ジン」という名

ムルグによれば、この名を持ち込んだのはエアボーンの広報担当フィリップ・オートフイユで、中東の伝承に現れる精霊にちなむ。MoMAの解説も、コーランに登場する超自然の存在ジンを名の由来に挙げている。

ニューヨークへの紹介

ムルグによれば、ジンの家具はジョージ・タニエによってニューヨークに紹介された。MoMAが1966年に収蔵したシェーズロングは、George Tanier, Inc.からの寄贈である。

『2001年宇宙の旅』

1968年公開のスタンリー・キューブリック監督作品で、回転する宇宙ステーション内のヒルトンホテルの場面にジンの家具が置かれた。MoMAの解説は、このシェーズロングが同作を通じて特に知られるようになったと記している。

製造の継続

生産の終了を1970年代半ばとする資料もあるが、メトロポリタン美術館には1986年頃にエアボーンが製造し、1989年に同社が寄贈した個体が収蔵されている。ポンピドゥー・センターの記録は、エアボーンによる製造期間を1964〜1997年としている。2026年時点のエアボーンの公式サイトに掲載された製品群には、ジンのシリーズは含まれていない。

評価と影響

ジン シェーズロングは、一般に1960年代のスペースエイジを代表する家具の一つとして扱われ、『2001年宇宙の旅』の未来像と結びつけて参照されることが多い。

発表から数年のうちにMoMA(1966年)とV&A(1969年)が収蔵しており、同時代の時点ですでに美術館の収集対象となっていた。

収蔵

以下の収蔵を、各館の収蔵記録で確認した(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館)。

  • MoMA 1964〜65年 収蔵番号 347.1966(George Tanier, Inc.寄贈)
  • V&A 1963年設計・1964年製造 収蔵番号 CIRC.201-1969
  • Met 1965年設計・1986年頃製造 収蔵番号 1989.64(Airborne寄贈)
  • ポンピドゥー・センター 1964〜65年 収蔵番号 AM 1993-1-823

基本情報

デザイナー オリヴィエ・ムルグ
ブランド エアボーン(Airborne)
発表年 1964年(ジン・シリーズは1964〜65年)
製造 エアボーン(ポンピドゥー・センターの記録では1964〜1997年)。現行品なし
デザインの成立国 フランス
主要素材 鋼管、ウレタンフォーム、ジャージー(着脱式カバー)
サイズ 長さ約170cm、幅約61cm、高さ約65cm(収蔵館の記録による。個体により数cmの差がある)
重量 約19kg(メトロポリタン美術館の記録による)
シリーズ ジン(ラウンジチェア、2人掛け、オットマン、ローテーブル)

Reference

Olivier Mourgue. Djinn Chaise Longue. 1964-65 | MoMA
https://www.moma.org/collection/works/3358
Djinn Chaise Longue | Mourgue, Olivier | V&A Explore The Collections
https://collections.vam.ac.uk/item/O139682/
Djinn Chair | Mourgue, Olivier | V&A Explore The Collections
https://collections.vam.ac.uk/item/O121252/
"Djinn" Chaise Longue | The Metropolitan Museum of Art
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/485346
Chaise longue Djinn | Centre Pompidou
https://www.centrepompidou.fr/en/ressources/oeuvre/c9jX7Xn
Olivier Mourgue - Designer Paris / France | Archilovers
https://www.archilovers.com/olivier-mourgue/
Airborne | Vitra Design Museum Collection
https://collection.design-museum.de/en/artists/artist/6345/
Airborne AA | Site Officiel
https://www.airborne.fr/