概要
オリヴィエ・ムルグ(1939年生まれ)は、フランスのデザイナーである。1964〜65年にエアボーンから発表したジンは、鋼管の骨組みにウレタンフォームを重ね、着脱できるジャージーのカバーで全体を覆った座具のシリーズで、1968年の映画『2001年宇宙の旅』の室内に用いられた。
バイオグラフィー
1939年、パリに生まれた。1958年にエコール・ブールを卒業し、続いてパリの国立高等装飾美術学校で学んだ。パリのほか、フィンランドとスウェーデンでも経験を積んでいる。
在学中に原寸で作った椅子をエアボーンに持ち込み、これが1959年に「ジョーカー」として製品化された。以後、同社との協働が続く。
1964〜65年、エアボーンからジンのシリーズが発表された。1960年代後半から1970年代初めにかけては、照明メーカーのディスデロ、モビリエ・ナショナル、バイエルなどの仕事も手がけている。
1976年にブルターニュへ拠点を移し、ブレストの美術学校で教えた。以後は絵画の制作も行っている。
デザインの思想と方法
ムルグの方法は、ジンのシリーズに最もまとまった形で現れている。各館の収蔵記録と、ムルグ自身の説明から確認できるのは次の点である。
全体を布で包む
V&Aは、椅子の全体を張りぐるみにした点をジンにおけるムルグの新しさとして挙げている。鋼管の骨組みにゴムのウェビングを留め、フォームを接着して一続きの形をつくり、その上からカバーをかぶせる。V&Aの椅子の記録では、外に出る金属は床に触れる箇所でカバーを守る小さな滑り材だけである。
軽く、持ち運べること
ムルグは2012年のV&Aとのやり取りで、ジンでは脇に抱えて運べる軽い椅子を求めていたと説明しており、椅子の重さを10〜12kg程度としている。ポンピドゥー・センターも、軽さ、可動性、柔軟さを軸に設計された座具の一群としてジンを紹介している。
着せ替えられるカバー
カバーはファスナーで外すことができ、ムルグは衣服のように替えて洗えることを意図していた。ベルナール・ジョリエ製のジャージーが15色用意され、MoMAの解説によれば季節ごとの掛け替えも想定されていた。ムルグは素材と部品を入れ替えて使い続ける考えにも触れており、MoMAはこれを柔軟さと使い捨ての発想を試みたものと位置づけている。
低い姿勢とくつろぎ
MoMAの解説は、ムルグが帝政様式の古家具に囲まれた家で育ち、そうした家具ではくつろげないと考えていたことを伝え、くつろぎを形で実現することが彼の仕事の特徴になったとする。V&Aも、ジンの極端に低い座は改まって腰掛けるためではなく身体を預けるためのもので、1960年代の生活のくだけた流儀を映していると解説している。
系列として構成する
ジンは、2人掛け、シェーズロング、オットマン、ラウンジチェア、ローテーブルが同じ構成で作られる。ムルグは、遊び心と、異なる型からなる家族、そして旅の発想がそこにあったと述べている。
代表作にみる方法
ジン シェーズロング(1964年、エアボーン)
シリーズの寝椅子である。全体を包む構成と着脱式のカバーを、全長170cm前後の身体を横たえる家具に当てはめた。カバーを季節で替えるという想定は、この寝椅子についてのMoMAの解説で語られている。詳しくはジン シェーズロングを参照。
ジン チェア(1964年、エアボーン)
低い安楽椅子で、脇に抱えて運べる軽さはこの椅子について語られている。V&Aの記録では1963年設計・1964年製造で、背の骨組みは1964〜1970年は鋼管、1970年代以降は積層合板で作られた。
ジン テーブル(1965年、エアボーン)
シリーズの低い卓兼オットマンで、椅子や寝椅子と同じ材料の組み合わせで作られる。詳しくはジン・テーブルを参照。
ブールーム(1968年、エアボーン)
旧友の幼いころのあだ名を名にとった椅子である。ムルグはこれをモビリエ・ナショナルとともに複数の版に展開し、1970年の大阪万博に向けて標識、映画館の座席、卓、凧へと広げた。ひとつの形を複数の型へ展開する進め方は、ジンのシリーズと共通する。
評価と影響
ムルグの家具は、1960年代のフランスで鋼管とウレタンフォームを用いた座具の例として、ジンを中心に言及される。ジンのシェーズロングは、発表から数年のうちにMoMA(1966年)とV&A(1969年)に収蔵された。
1968年の映画『2001年宇宙の旅』では、回転する宇宙ステーション内のヒルトンホテルの場面にジンの家具が置かれ、広く知られるようになった。
1976年以降はブレストでの教育と絵画に軸を移した。
収蔵
以下の収蔵を、各館の収蔵記録で確認した(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館)。
- MoMA ジン シェーズロング(1964〜65年) 収蔵番号 347.1966
- V&A ジン シェーズロング(1963年設計) 収蔵番号 CIRC.201-1969
- V&A ジン チェア(1963年設計) 収蔵番号 CIRC.202-1969
- Met ジン シェーズロング(1965年設計・1986年頃製造) 収蔵番号 1989.64
- ポンピドゥー・センター ジン シェーズロング(1964〜65年) 収蔵番号 AM 1993-1-823
- ポンピドゥー・センター ジン プフ・デュオ(1964〜65年) 収蔵番号 AM 1993-1-824
- ポンピドゥー・センター ジン アームチェア(1964〜65年) 収蔵番号 AM 1993-1-825
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1959年 | 椅子 | ジョーカー | Airborne |
| 1964年 | 長椅子 | ジン シェーズロング | Airborne |
| 1964年 | 椅子 | ジン チェア | Airborne |
| 1965年 | テーブル | ジン・テーブル | Airborne |
| 1964〜65年 | ソファ・オットマン | ジン(2人掛け、オットマン) | Airborne |
| 1967年 | 照明 | フラワーランプ(フロアランプ、ウォールランプ、スイングアーム) | Disderot |
| 1968年 | 椅子 | ブールーム | Airborne |
| 椅子 | ウィスト、モントリオール、キュービック | Airborne |
プロフィール
| 生年 | 1939年 |
|---|---|
| 出身地 | フランス・パリ |
| 国籍 | フランス |
| 活動拠点 | パリ、ブルターニュ |
| 分野 | 家具、照明、絵画、教育 |
| 主な協働ブランド | Airborne、Disderot |
Reference
- Olivier Mourgue - Designer Paris / France | Archilovers
- https://www.archilovers.com/olivier-mourgue/
- Olivier Mourgue. Djinn Chaise Longue. 1964-65 | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/3358
- Djinn Chair | Mourgue, Olivier | V&A Explore The Collections
- https://collections.vam.ac.uk/item/O121252/
- Djinn Chaise Longue | Mourgue, Olivier | V&A Explore The Collections
- https://collections.vam.ac.uk/item/O139682/
- "Djinn" Chaise Longue | The Metropolitan Museum of Art
- https://www.metmuseum.org/art/collection/search/485346
- Chaise longue Djinn | Centre Pompidou
- https://www.centrepompidou.fr/en/ressources/oeuvre/c9jX7Xn
- Fauteuil Djinn | Centre Pompidou
- https://www.centrepompidou.fr/en/ressources/oeuvre/c49E7r
- Pouf duo Djinn | Centre Pompidou
- https://www.centrepompidou.fr/es/ressources/oeuvre/c5ed7jo