エアボーン(Airborne)
エアボーンは、1951年にシャルル・ベルナールによって設立されたフランスを代表する家具メーカーです。 創業以来、同社は20世紀フランスデザイン史において最も成功し、影響力のある企業のひとつとして、その地位を確立してまいりました。 象徴的な「AAチェア」をはじめ、ピエール・ガリーシュやオリヴィエ・ムルグといった 気鋭のデザイナーたちとの協働により、200を超える名作家具を世に送り出してきました。 1950年代から70年代にかけてはハイエンド家具の指標となり、革新的なデザインと卓越した製造技術により、 フランスのモダンデザインを世界に発信し続けています。 2010年以降は新たな経営陣のもとで芸術的復興を遂げ、若き才能あるデザイナーたちとの協働を通じて、 フランス製造業の誇りを継承しながら、時代を超えた家具創造に取り組んでいます。
ブランドの特徴・コンセプト
エアボーンの哲学は、創業者シャルル・ベルナールが掲げた「既存のライセンスデザインの再現にとどまらず、 時代を代表するデザイナーたちとともにオリジナル作品を創造する」という理念に根差しています。 この姿勢は、チューブラースチールと木材を組み合わせたモダニズム家具から、 インジェクションフォームと伸縮性ジャージー素材を駆使したスペースエイジデザインまで、 常に革新的な素材と技法への挑戦として結実してきました。
同社の製品は、機能性と美しさの調和を追求し、戦後の小さなアパートメントにも適応する 実用的でありながら洗練されたデザインを特徴としています。 また、素材の多様性も大きな特徴であり、AAチェアだけでも革、リネン、コットン、 バティリーヌ(メッシュ素材)、さらにはエルヴェ・ラングレによるコットドマイユ(鎖帷子)まで、 60種類以上のカバーバリエーションを展開しています。 フランス国内での製造にこだわり、リヨンでのプリント、タルヌ=エ=ガロンヌでの縫製など、 メイド・イン・フランスの品質を守り続けています。
ブランドヒストリー
エアボーンの歴史は、創業者シャルル・ベルナールの物語とともに始まります。 1904年、フランス東部ブレス地方のルーアンに生まれたベルナールは、 1926年に兵役を終えた後、パリに戻り装飾の世界に身を投じることを決意しました。 兵役中に出会った装飾家でのちの陶芸家ポル・プショルの紹介により、 ギャラリー・ラファイエットの芸術部門に採用され、 マケット(模型)制作、デッサン、彩色の技術を習得しながら、 店舗装飾やオブジェ制作に携わりました。
1951年、ベルナールは自身の会社エアボーンを設立します。 最初の製品となったのは、1938年にアルゼンチンのデザイナー集団 グルポ・アウストラル(アントニオ・ボネット、フアン・クルチャン、ホルヘ・フェラーリ=アルドイ)が デザインした椅子でした。この椅子は、1855年に英国人技師ジョセフ・B・フェンビーが考案し、 北アフリカでのイギリス軍やイタリア軍の軍事作戦で使用された折り畳み椅子 「トリポリーナ」にインスピレーションを得たものです。 ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵され、フランク・ロイド・ライト設計の 落水荘にも置かれたこの椅子の製造権を、ベルナールは友人であり建築誌 「ラルシテクチュール・ドージュルデュイ(L'Architecture d'Aujourd'hui)」の ディレクターであったアンドレ・ブロックを通じて取得。 ブロックへの敬意を込めて、同誌のイニシャルから「AAチェア」と命名しました。
AAチェアの商業的成功により得た資金を元手に、エアボーンは フランスを代表するデザイナーたちとの協働を開始します。 1951年にはピエール・ガリーシュとのパートナーシップが始まり、 チューブラースチールと木材を組み合わせたモジュラー家具シリーズ「プレファクト」が誕生。 1959年には若きオリヴィエ・ムルグが黒革の「ジョーカーチェア」を持ち込み、 これを気に入ったベルナールは即座に製品化を決定。 10年以上にわたる実り多い協働関係の始まりとなりました。
1962年、エアボーンは国内市場向けの「エアボーン・レジダンス」と 業務用市場向けの「エアボーン・コレクティヴィテ」に分社化。 1965年にはムルグの代表作「ジンチェア」が登場し、 1968年のスタンリー・キューブリック監督映画『2001年宇宙の旅』の 宇宙ステーションのシーンに使用されたことで、デザイン史にその名を刻みました。 同年、オートフィーユ制作による広告キャンペーン「すべてはここにある(Tout est là)」は、 50の官能的な臀部を描くという大胆な表現で物議を醸しながらも、 エアボーンの座席の柔軟性と快適さを象徴するものとして話題を集めました。
しかし、1974年のオイルショックはエアボーンにも打撃を与え、 その後数回の経営権の移転を経験します。 2010年、新たな経営陣のもとでエアボーンは芸術的復興を遂げ、 若く才能あるデザイナーたちとの協働により、 再びフランスのメーカーとして、時代を超えた家具の創造に取り組んでいます。 1951年から1975年の間に生み出された200以上のアイコニックなモデルの遺産を継承しながら、 現在もフランス南西部エール=シュル=ラドゥールの工房で、 メイド・イン・フランスの品質を守り続けています。
主なインテリアとその特徴
AAチェア(Fauteuil AA)
1951年の創業以来、エアボーンの象徴であり続けるAAチェアは、 コンテンポラリーデザインのアイコンとして世界中で愛されています。 4本の曲線を描くスチールパイプに吊り下げられたシートという シンプルかつ革新的な構造は、自由の象徴であり、インフォーマルなエレガンスの表現です。 当初は革製カバーのみでしたが、その後リネン、コットンへと素材が拡大。 1970年代には三分割して折り畳み可能な構造が導入されました。 現在では60種類以上のカバーバリエーションを展開し、 屋内外問わず使用できる汎用性と、メイド・イン・フランスの品質を兼ね備えています。 近年ではジャン=シャルル・ド・カステルバジャックとのコラボレーションにより、 詩的で遊び心に満ちた天使のモチーフがプリントされた限定モデルも発表されています。
ジンチェア/シリーズ(Djinn Chair)
1964年から65年にかけてオリヴィエ・ムルグがデザインしたジンシリーズは、 スペースエイジデザインを代表する傑作です。アラビアの精霊「ジン」から名付けられたこの椅子は、 まるで一枚の素材から折り曲げられたかのような有機的なフォルムが特徴です。 チューブラースチールのフレームにラバーウェビングを張り、 インジェクションフォームで覆い、伸縮性のあるジャージー素材で仕上げるという 革新的な製法により、全体が一体となった彫刻的な美しさを実現しています。 当時としては非常に低い座面高は、1960年代のくつろいだライフスタイルを反映したものでした。 シリーズにはチェア、スツール、2人掛けソファ、シェーズロングが含まれ、 1968年のスタンリー・キューブリック監督映画『2001年宇宙の旅』において 宇宙ステーション5のロビーシーンで使用されたことで、デザイン史に不朽の名を刻みました。 生産は1976年まで続けられ、現在ではコレクターズアイテムとして高い評価を得ています。 ニューヨーク近代美術館やパリのポンピドゥーセンターなど、世界の主要美術館に収蔵されています。
プレファクト(Prefacto)
1951年から53年にかけてピエール・ガリーシュがデザインしたプレファクトは、 当時唯一の工業製モジュラー家具システムでした。 折り曲げ、湾曲させたスチールチューブと木材を組み合わせ、 住居のあらゆる部屋に対応するテーブル、チェア、モジュラー収納ユニットで構成されています。 戦後の小さなアパートメントに適した機能的かつ経済的なデザインは、 厳格な機能主義に挑戦する自由な形態と曲線的なラインが特徴です。 各要素は部屋の大きさやニーズに合わせて、ビュッフェ、書棚、収納家具へと 変形可能な柔軟性を備えていました。
ミス・トレフル(Miss Trèfle)
アット・ワンス(At-Once)がデザインしたミス・トレフルは、 有機的な曲線を持つコーヒーテーブルシリーズです。 現在ではフランス国内で完全製造される304Lステンレススチール製の 屋外対応モデルも展開され、洗練されたデザインと耐候性を両立。 テラスや庭園はもちろん、室内空間にも調和する汎用性を備えています。
アマカ(Hamaka)
コラリー・フリックとアルノー・ル・キャがデザインしたアマカは、 無垢のオーク材アームレストを備えたスイングアームチェアです。 軽やかで動きのある新しいライフスタイルに対応した、 機能的でミニマルなデザインが特徴。 フランス製造へのこだわりとともに、日常のオブジェを タイムレスで自明なものへと昇華させるという彼らの哲学を体現しています。
主なデザイナー
黄金期のデザイナー
- ピエール・ガリーシュ(Pierre Guariche, 1926-1995)
- フランスを代表するデザイナー、インテリアデコレーター、建築家。 国立高等装飾美術学校を卒業後、1951年にエアボーンと協働を開始。 プレファクトシリーズをはじめ、G1、G2、G10アームチェアなど、 革新的な家具を次々と発表しました。 スタイナー社との協働による「トノー」チェア、 ピエール・ディスデロとの照明器具など、多岐にわたる活動を展開。 1954年にはジョゼフ=アンドレ・モットとミシェル・モルティエとともに ARP(造形研究アトリエ)を設立し、フランスのモダンデザインを牽引しました。
- オリヴィエ・ムルグ(Olivier Mourgue, 1939-)
- パリ生まれのフランス人インダストリアルデザイナー。 1959年、ジョーカーチェアをエアボーンに持ち込んだことから協働が始まり、 10年以上にわたりエアボーンの名声向上に貢献しました。 代表作のジンシリーズは、1968年のニューヨーク内装デザイナー協会から インターナショナル・デザイン・アワードを受賞。 1967年モントリオール万博、1970年大阪万博のフランス館の インテリアデザインも手がけました。
- ルネ=ジャン・カイエット(René-Jean Caillette)
- エアボーンの黄金期を支えたフランス人デザイナーの一人として、 同社の家具デザインに貢献しました。
- ジャクリーヌ・ルコック(Jacqueline Lecoq)
- ミッドセンチュリー期にエアボーンと協働したデザイナーとして、 革新的な家具デザインを展開しました。
- ジョゼフ=アンドレ・モット(Joseph-André Motte)
- ピエール・ガリーシュとともにARPを設立したデザイナー。 エアボーンではG2チェアなどの製品化に携わりました。
- アントワーヌ・フィリポン(Antoine Philippon)
- エアボーンの黄金期に協働したデザイナーの一人として、 同社の家具ラインナップの充実に貢献しました。
- ダニエル・カラント(Danièle Quarante)
- 1951年から1975年にかけての200以上のモデル創出期に エアボーンと協働したデザイナーの一人です。
- イヴ・クリスタン(Yves Christin)
- エアボーンの国際的な名声向上に貢献したデザイナーとして、 同社のデザイン史に名を連ねています。
現代のデザイナー
- アット・ワンス(At-Once)
- ネルソン・アルヴェス(1983年生)とマクサンス・ボワソー(1982年生)による デザインスタジオ。2008年に設立され、ミス・トレフルなど エアボーンの新コレクションを手がけています。
- エルヴェ・ラングレ(Hervé Langlais, 1964-)
- カーン生まれのフランス人デザイナー。ノルマンディー建築学校で学び、 ポール・アンドリューのもとで15年以上協働。北京の国家大劇院、 上海のオリエンタルアートセンターなどの設計に参画。 2006年にル・ラボ・デザインのアーティスティック・ディレクターに就任し、 AAチェアのコットドマイユ(鎖帷子)カバーを発表。 洗練さと荒々しさを兼ね備えた独創的なデザインとして高い評価を得ています。
- マキシム・リス(Maxime Lis)
- ボルドー出身の若手デザイナー。製造工程の研究を通じて 合理的かつ制約的な生産を追求し、AOテーブルやアシーズコレクションなど、 エアボーンの新たな製品開発に携わっています。
- コラリー・フリック&アルノー・ル・キャ(Coralie Frick & Arnaud Le Cat)
- リヒテンシュタイン生まれのコラリー・フリック(1983年生)と パリ生まれのアルノー・ル・キャ(1985年生)によるデザインユニット。 「Vous Pouvez Dormir Dans La Grange」レーベルのもと、 軽やかで動きのある新しいライフスタイルに対応した 機能的でミニマルなデザインを展開。アマカシリーズを手がけています。
- ジャン=シャルル・ド・カステルバジャック(Jean-Charles de Castelbajac)
- 50年以上にわたりフランス文化を牽引してきた伝説的デザイナー。 ファッション、アート、インテリアと多岐にわたる活動で知られ、 エアボーンとのコラボレーションでは、詩的で遊び心に満ちた 天使のモチーフがプリントされたAAチェア用カバーを発表。 リヨンでプリント、タルヌ=エ=ガロンヌで縫製された 100%リサイクルコットン製の限定モデルは、彼の特徴的なカラーパレットと 無限の想像力を体現しています。
基本情報
| ブランド名 | エアボーン(Airborne) |
|---|---|
| 設立 | 1951年 |
| 創業者 | シャルル・ベルナール(Charles Bernard, 1904-1994) |
| 所在地 | フランス・エール=シュル=ラドゥール(222 ZAC de Peyran, 40800 Aire sur l'Adour, France) |
| 代表製品 | AAチェア、ジンチェア、プレファクト、ミス・トレフル、アマカ |
| 公式サイト | https://www.airborne.fr/ |