ファネットチェア ― 北欧スピンドルバックの代表作

1949年、フィンランドのデザイナー、イルマリ・タピオヴァーラがデザインしたファネットチェアは、北欧モダンを代表するスピンドルバック(棒背もたれ)のダイニングチェアである。スウェーデンのエドスビーヴェルケン社で生産が始まり、スウェーデン国内だけで500万脚以上が生産されたとされる。誕生から70年以上を経た現在も、ヴィンテージ市場で高い人気を保っている。

概要

ファネットチェアは、チーク合板をプレス成型した座面、ブラックラッカー仕上げの木製フレーム、そして6本のスポークが並ぶ背もたれを特徴とする。スウェーデンのエドスビーヴェルケン社が、木製スキー製造で生じた余剰材を活用する目的で1949年に生産を開始したことに端を発する。1955年からはフィンランドのアスコ社がライセンス生産を行い、1966年まで製造が続けられた。人気の高さから多くの模倣品が生まれたが、オリジナルは座面の緩やかな窪みと前縁のカーブ、そして6本のスポークによって見分けられる。

特徴・コンセプト

構造と素材

座面にはチーク材の合板をプレス成型した薄い一枚板が用いられ、身体を受け止める緩やかな窪みが施されている。四本の脚は外側に向かって傾斜し、安定性と軽快な視覚的印象を両立させている。背もたれを構成する6本のスポークは、扇のように広がりながらカーブを描く。フレームには木材(多くはバーチ材)が用いられ、ブラックラッカー仕上げが施されることが多い。これによりチーク座面の温かみある木目とのコントラストが生まれている。

スピンドルバックの再解釈

イギリスのウィンザーチェアに起源を持つスピンドルバックは、フィンランドの農家で長く使われてきた椅子形式である。タピオヴァーラはこの伝統的な形式をモダンデザインとして再解釈し、量産に適した工業製品としてまとめた。スキー製造で培われた木材の曲げ加工技術が、軽量で丈夫な構造を支えている。「すべての人のためのデザイン」という考えのもと、優れたデザインを手の届く価格で提供することが目指された。

誕生の背景と普及

ファネットチェア誕生の契機は、スキー製造という産業的背景にあった。エドスビーヴェルケン社は木製スキーの製造で生じる良質な余剰材の活用を模索しており、タピオヴァーラはこの素材と曲げ加工技術を椅子づくりに応用した。1950年代から1960年代にかけて、ファネットチェアは北欧の家庭に広く普及し、スウェーデン国内だけで500万脚以上が生産されたとされる。当初はキッチンやダイニング用として使われ、やがて住まいのさまざまな空間へと広がっていった。その人気は、他の家具メーカーが独自のスピンドルバックチェアを開発するほどの影響力を持った。

評価とヴィンテージ市場

ファネットチェアは、20世紀の北欧家具デザインを代表する椅子の一つとして知られている。伝統的なスピンドルバックをモダンデザインへと置き換えた設計は、デザイン史のなかで高く評価されてきた。

ヴィンテージ市場でも人気が高く、エドスビーヴェルケン社製・アスコ社製のオリジナルは、国際的なオークションやヴィンテージ家具専門店で継続的に取引されている。アルテックはタピオヴァーラの代表作であるドムスチェアやピルッカシリーズを復刻生産しているが、ファネットチェアは現行の復刻ラインナップには含まれず、Artek 2nd Cycle を通じてヴィンテージ品が取り扱われている。

基本情報

名称(日本語) ファネットチェア
名称(英語) Fanett Chair
デザイナー イルマリ・タピオヴァーラ(Ilmari Tapiovaara / 1914–1999 / フィンランド)
デザイン年 1949年
製造ブランド エドスビーヴェルケン(Edsby Verken / スウェーデン・1949年〜)、アスコ(Asko / フィンランド・1955〜1966年)
現在の取り扱い アルテック(Artek)2nd Cycle(ヴィンテージのみ)
主要素材 座面:チーク合板(プレス成型)/フレーム:木製(ブラックラッカー仕上げが一般的)
サイズ W45 × D42 × H78 cm(座面高 42 cm)
代表モデル Fanett 55T(6本スポーク)ほか
カラーバリエーション ブラックフレーム×チーク座面(最も一般的)、ナチュラル、ブラック塗装 ほか
スタッキング 不可
参考価格帯(ヴィンテージ) 国内:約60,000〜120,000円(税込目安・状態により変動)、海外:約300〜800ユーロ