トゥルモー アーキテットゥーラ ― 建築を纏う、フォルナセッティとポンティの装飾家具
トゥルモー アーキテットゥーラ(Trumeau Architettura)は、イタリアの芸術家ピエロ・フォルナセッティと建築家ジオ・ポンティの協働により1951年に生まれた装飾家具である。18世紀の新古典主義的家具形式「トゥルモー」を現代的に再解釈し、その全表面にトロンプ・ルイユ(だまし絵)の建築モティーフをシルクスクリーンで施した本作は、家具と芸術の境界にまたがる作品として、戦後イタリアンデザインを代表する存在となった。
1951年の第9回ミラノ・トリエンナーレで発表されて以来、70年以上にわたり限定生産が続けられ、現在もミラノのフォルナセッティ・アトリエで一台ずつ手作業により制作されている。1951年制作のオリジナルはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に収蔵されており、本作が美術工芸品として位置づけられていることを示している。
概要 ― ポンティとフォルナセッティの協働から生まれた装飾家具
トゥルモー アーキテットゥーラは、20世紀イタリアデザイン史における重要なコラボレーションのひとつから生まれた作品である。建築家ジオ・ポンティが構想した形態をもとに、ピエロ・フォルナセッティが建築をモティーフとした精緻な装飾を施し、1951年に完成させた。
「トゥルモー」とは、18世紀ヨーロッパの新古典主義家具に由来する形式で、上部に観音開きの収納棚、中央に折りたたみ式のライティングデスク、下部に引き出しを備えた多機能な収納家具である。ポンティはこの伝統的形式を合理主義的な造形感覚で再構成し、フォルナセッティはその表面を想像上の建築で満たした。古典建築のファサード、アーチ、列柱、遠近法で描かれた回廊といった図像が各面に展開され、扉を開くたびに新たな光景が現れる。
ポンティの構造的な造形感覚とフォルナセッティの幻想的な装飾という相反する資質が均衡した点で、この協働はデザイン史において高く評価されている。
特徴・コンセプト ― 建築と装飾の対話
トロンプ・ルイユによる建築的幻想
トゥルモー アーキテットゥーラの特徴は、家具の全表面を覆うトロンプ・ルイユ(だまし絵)の建築装飾である。フォルナセッティは16世紀イタリアのマニエリスム芸術と20世紀のシュルレアリスムの双方から着想を得て、実在しない建築空間を描き出した。これらの図像は実際の建物の観察ではなく、印刷物や版画に関する知識に基づいて構成されたもので、現実と虚構の境界を揺さぶる遊戯性を帯びている。
リトグラフ転写の技法
制作技法にも特色がある。各セクションごとにリトグラフが作成され、転写シートに印刷されたのち、ファイバーボードのパネルに貼り付けられる。これらのパネルがキャビネット本体に組み付けられ、ニスで仕上げられることで、精緻な図像と堅牢な構造が一体となる。現行モデルでは手刷りシルクスクリーンとラッカー仕上げの工程が踏襲されており、一台の完成までにおよそ7か月を要する。
多機能性と象徴性
上部の観音開き扉の内側には7段のガラス棚と照明が設けられ、美術品や書物を陳列できる。中央の折りたたみ式デスクはライティングビューローとして機能し、その内部にも照明が備わる。下部には3つの引き出しが配される。こうした実用的な機能を備えながら、外観においては一個の芸術作品としての存在感を放つ。フォルナセッティが追求した「日常の中に芸術を」という理念を示す代表作である。
制作の歴史とエディション
トゥルモー アーキテットゥーラは、1951年の第9回ミラノ・トリエンナーレに出品された。曲線を描く天板とサーベル脚を持つ初期型のオリジナルはわずか2点のみが制作され、そのうちの1点は1983年よりヴィクトリア&アルバート博物館の収蔵品となっている。その後フォルナセッティは形態を改訂し、角形の台座と直線的なキャビネットトップを持つ現行型の原型を確立した。1950年代から60年代にかけて約40台、1970年代にはわずか数台、1980年代には約10台が限定版として制作された。
現在はフォルナセッティの息子バルナバ・フォルナセッティの芸術監督のもと、各台にシリアルナンバー、年間生産上限数、製造年が記され、限定生産品として管理されている。
評価 ― デザイン史における位置づけ
トゥルモー アーキテットゥーラは、戦後イタリアンデザインを代表する作品のひとつとして国際的に評価されている。2013年にはミラノ・トリエンナーレでフォルナセッティ生誕100年を記念する回顧展が開催され、本作も出品された。この回顧展はその後、パリの装飾美術館、ソウルの東大門デザインプラザなどに巡回している。
オークション市場でもヴィンテージ品が繰り返し取引されており、1951年制作のオリジナルの一点は1998年にクリスティーズで落札されている(落札額は約15,000ドル)。
バリエーション ― アーキテットゥーラの展開
トゥルモー アーキテットゥーラは、フォルナセッティの「テーマと変奏」の精神に基づき、基本構造を共有しながら異なる装飾表現を持つバリエーションが展開されている。
- アーキテットゥーラ(白地)
- 最も代表的なモデル。白地にモノクロームの建築モティーフが全面に施され、1950年代のオリジナルの意匠を継承している。
- アーキテットゥーラ(黒地)
- 白地モデルの反転版。黒地に白い建築装飾が浮かび上がり、より劇的な印象を与える。
- アーキテットゥーラ・チェレステ
- 歴史的な白黒モティーフを水色の色彩で再解釈した限定版。フォルナセッティのテーマ変奏の手法によって、より幻想的な印象へと展開している。
基本情報
| 作品名(日本語) | トゥルモー アーキテットゥーラ |
|---|---|
| 作品名(英語) | Trumeau Architettura |
| デザイナー | ピエロ・フォルナセッティ(Piero Fornasetti, 1913–1988 / イタリア)、ジオ・ポンティ(Gio Ponti, 1891–1979 / イタリア) |
| 発表年 | 1951年(第9回ミラノ・トリエンナーレにて発表) |
| ブランド | Fornasetti(フォルナセッティ) |
| 製造国 | イタリア(ミラノ、フォルナセッティ・アトリエ) |
| 分類 | アート・オブジェ / 装飾家具 |
| 素材 | MDF CARB 95%、鉄 2%、強化ガラス 3%(現行モデル) |
| 技法 | 手刷りシルクスクリーン、ラッカー仕上げ |
| サイズ | W 81 cm × D 39 cm × H 219 cm |
| 重量 | 約100 kg |
| 構成 | 上部:観音開き扉(内部にガラス棚7段・照明付き)、中央:折りたたみ式ライティングデスク(照明付き)、下部:引き出し3段 |
| 生産形態 | 限定生産(各台にシリアルナンバー、年間生産上限数、製造年を刻印) |
| 制作期間 | 1台あたり約7か月 |
| 参考価格 | USD 35,000前後〜(税込目安、モデル・仕様により異なる) |
| 美術館収蔵 | ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン、1983年収蔵) |