概要

ヤ・ヤ・ホーは、インゴ・マウラーとそのチームが1984年に発表した低電圧の照明システムである。部屋に平行に張った2本の金属ワイヤーに12ボルトの交流を流し、その線上に光源を掛けて使う。ワイヤーが電気の通り道と吊り元を兼ねるため、灯りの位置と数は設置後も使い手が自由に組み替えられる。

発表から40年余りを経た現在もインゴ・マウラー社が生産を続けており、光源のLED化にも対応し、2026年には新しい照明要素が加えられた。

特徴・コンセプト

2本のワイヤーが給電と支持を兼ねる

システムの骨格は、壁から壁へ、あるいは天井から下ろしたロッドの間に張り渡す2本のワイヤーである。プラスとマイナスを1本ずつのワイヤーに分けて室内に通し、照明要素はその両方にまたがって掛かることで電気を受け取る。器具ごとに天井へ配線を引く必要がなく、灯りを吊る位置は線上のどこでもよい。

電源は変圧器で家庭用の電圧から12ボルトに下げて送る。電流の通ったワイヤーを室内にそのまま張り渡すこの構成は、低い電圧を前提に成り立っている。ワイヤーは直角や斜めに張ることも、部屋の角を回すこともでき、部屋の形に合わせて光の通り道を引ける。

低電圧が課す制約

同じ電力を低い電圧で送ると、そのぶん大きな電流が流れ、線が長くなるほど損失も増える。取扱説明書は変圧器から光源までの距離をできるだけ短くするよう求め、ワイヤーが6mを超える場合は変圧器を系統の中央に置くよう勧めている。線が1m延びるごとに損失が増え、灯りが暗くなるためである。

変圧器の出力は最大200Wで、1つの系統に掛ける灯りの合計はこの範囲に収める。システム全体の明るさは、誘導負荷に対応した調光器で調整する。

線の上を移動する照明要素

照明要素はすべてワイヤーに沿って水平に動かせる。一部の要素は2本の吊り線とカウンターウェイトを備え、配線をやり直さずに高さを変えられる。さらに光源の向きを全方向に振れるものもあり、真下を照らす、壁や天井へ光を向けるといった使い分けを、器具を交換せずに行える。

発表時の光源は、小型で強い光を得られる12ボルトのハロゲンランプである。高温になる光源を包むため、要素には磁器のシェードや耐熱性のプラスチックの拡散板が使われた。両極のワイヤーにまたがる要素の金属の腕には、絶縁スリーブが被せられている。

使い手に委ねられた構成

現行の構成は9種類の照明要素と付属部品からなり、どれも単品で揃えられる。ワイヤーの長さ、要素の種類と数、その配置は部屋ごとに異なり、完成形をあらかじめ定めていない。使い手が自ら部品を並べ、照らしたい場所に合わせて組み替えることが前提とされており、2019年にクーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン・ミュージアムが公開した追悼文も、使い手を設置に参加させる設計としてこの点を挙げている。

エピソード

ハイチの広場で見た電球

ヴィトラ・デザイン・ミュージアムのインタビューでマウラーが語ったところでは、着想は友人のもとに滞在していたハイチでの元日の朝に得られた。小さな屋外の広場に、プラグも器具もなく電線に直接溶接された大きな電球が吊られていた。マウラーはその光景に魅了され、同じような灯りを作りたいと考えた。ハイチから戻ると、チームとともに実際にケーブルを張り、どのように見えるかを試すところから開発が始まった。

発表と展覧会での展開

システムは1984年に発表され、製品のクレジットは現在もマウラー個人ではなく「インゴ・マウラーとチーム」とされている。翌1985年6月には、パリのポンピドゥー・センターで開かれた展覧会「Lumières, je pense à vous」のために、ヤ・ヤ・ホーを用いたインスタレーションを手がけている。

ハロゲンからLEDへ

光源の主流がLEDに移ると、ヤ・ヤ・ホーも12ボルト交流に対応したLEDの代替電球で使えるようになった。ただしメーカーは、同じ系統にハロゲンとLEDを混在させると、とくに調光時にちらつきが起きうるとして、種類と製造元を揃えるよう求めている。

光源が発する熱の変化は、要素の素材にも及んだ。ハロゲンの熱に耐えるためファイバーグラスで作られていた傘形のシェードは、LEDへの置き換えで耐熱の必要がなくなり、2026年の改訂では厚手の透明な紙に置き換えられた。

2026年の改訂

2026年のミラノ・デザインウィークで、インゴ・マウラー社は長さ24mの会場いっぱいにワイヤーを張り、新旧およそ30の要素を同じ線上に並べて展示した。クリエイティブ・ディレクターのアクセル・シュミットが率いる5人のチームがほぼ1年をかけて手がけたもので、1984年の設計以来初めての本格的な改訂とされる。

新しい要素には、LEDの光の帯をガラス管に通したもの、紙の袋の内側でLEDの帯を型紙に沿わせ表面に光の線を描くもの、ワイヤーから吊るさず線の上に立てて天井を照らすものなどがある。既存のスポットライトの2,700Kに対し、新しいLEDの帯は2,200Kと色温度が異なり、同じ系統の中であえて2種類の白を混ぜている。

評価と影響

MoMAが1998年に開いた展覧会「Projects 66: Campana/Ingo Maurer」の解説では、ヤ・ヤ・ホーは張った線と多数の照明要素から構成される低電圧システムとして最初のものと紹介された。張り渡した線に光源を掛ける照明はその後広く見られるようになり、ヤ・ヤ・ホーは一般にこの形式の先駆けとして扱われている。

収蔵

ニューヨーク近代美術館(MoMA)
Ya Ya Ho Adjustable Lighting System(1983〜1984年)。収蔵番号 148.1988。1988年にメーカーから寄贈された。
クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン・ミュージアム
Ya Ya Ho Lighting System Component(1984年)。収蔵番号 2008-16-2。インゴ・マウラーからの寄贈。

基本情報

デザイナー インゴ・マウラーとチーム(Ingo Maurer und Team)
ブランド インゴ・マウラー(Ingo Maurer GmbH)
発表年 1984年
デザインの成立国 ドイツ
種類 低電圧ワイヤー照明システム
主要素材 金属、ガラス、磁器、プラスチック
電圧 12V(交流)
変圧器 トロイダル変圧器、最大出力200W
ワイヤーの長さ 6m/8m/10m
ワイヤーの間隔 75cm
推奨設置高さ 230〜250cm
照明要素 9種類

Reference

Ingo Maurer: YaYaHo
https://www.ingo-maurer.com/en/products/yayaho/
YaYaHo Part A / Part B Instructions(Ingo Maurer GmbH)
https://www.ingo-maurer.com/download/8903389_yayaho_part_a_part_b_www_maerz2025.pdf
YaYaHo Element 5(Ingo Maurer GmbH)
https://www.ingo-maurer.com/en/products/yayaho-element-5/
Biography Ingo Maurer(Ingo Maurer GmbH)
https://www.ingo-maurer.com/media/1603_biographie_en.pdf
Ingo Maurer – Interviews(Vitra Design Museum)
https://www.design-museum.de/en/ueber-design/interviews/detailseiten/ingo-maurer.html
Ya Ya Ho Adjustable Lighting System(The Museum of Modern Art)
https://www.moma.org/collection/works/2561
Projects 66: Campana/Ingo Maurer – YaYaHo(The Museum of Modern Art, 1998)
https://www.moma.org/interactives/exhibitions/1998/projects66/i12.html
Ya Ya Ho Lighting System Component(Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum)
https://www-4.collection.cooperhewitt.org/objects/18714657
Remembering Ingo Maurer, Lighting Poet(Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum)
https://www.cooperhewitt.org/2019/10/23/remembering-ingo-maurer-lighting-poet
An Open System Ingo Maurer Never Meant to Finish(Sixtysix)
https://sixtysixmag.com/yayaho/