概要

シネルピカは、ミケーレ・デ・ルッキが1979年に設計し、ミラノのスタジオ・アルキミアが製作したテーブルランプである。ピンクの円筒形の台からまっすぐな青い棒が立ち、その脇から出た緑の管が棒に巻きつきながら上がって、先端に載る黄色い小さな筒が電球をむき出しのまま受ける。部材ごとに色を塗り分けた4色の構成をとり、灯具の向きを変える機構は持たない。ラディカルデザインからポストモダンへ移る時期のイタリアで作られた照明で、その後の継続的な生産は確認できない。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館とポンピドゥー・センターが1点ずつ収めている。

特徴・コンセプト

鉢植えの蔓に置き換えた4つの部材

部材は、円筒形の台、まっすぐな棒、曲がった管、灯具を受ける小さな筒の4つしかない。ポンピドゥー・センターは収蔵記録で、この照明を鉢植えのつる植物を幾何学的に表したものと説明している。台が鉢、まっすぐな棒が支柱、巻きついて伸びる管が蔓にあたる。巻きつくという形を成り立たせるには、登るものと登られるものが別の部材として要る。1本の管を台から曲げて立ち上げるだけでは、螺旋の巻きつく相手がなくなる。青い棒が何も支えずに立っているのは、この役割分担による。

灯具を運ぶのは緑の管のほう

灯具を頂部まで運ぶのは緑の管で、青い棒は電球にも配線にも関わらない。緑の管は台のふち近くから立ち上がり、青い棒の周りを巻き上がってから前へ折れ、黄色い筒を差し出す。電球の位置は台の中心軸から外れ、重さは片側へ寄る。ポンピドゥー・センターの収蔵記録は台を錘入りと記しており、同館の所蔵品は径17cmの台を含めて4.2kgある。細い管で片持ちの荷重を受けるため、見た目の軽さに対して台は重い。電源コードは台の側面から出ていて、台から灯具までの配線は外に現れない。

曲がっているが動かない

緑の管の曲線は可動のアームを思わせるが、どの部材も動かない。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は収蔵記録で、この照明が向きを変えられない点をその性格として挙げている。光の当たる範囲は設計の段階で決まり、使う側が選べるのは置き場所だけになる。黄色い筒は口金を覆う深さしかなく、球はその上に現れたままである。シェードも反射板も付かないため、グレアを抑える部材はない。光は一方向に絞られず、周囲へ広がる。

型を要さない管と塗装

素材は塗装した金属で、部材ごとに不透明な一色を置く。金属の管を曲げて塗るだけの工程には型も専用の設備も要らず、少量でも作れる。アルキミアは工業的な生産設備を持たず、手作業で一点ものや少数の製作を引き受ける工房として動いていたため、量産の見込みが立たない造形でも実物にできた。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、当時の照明にあまり使われなかったパステル調の配色が用いられている点を記録に残している。

エピソード

製作を引き受けたのは照明メーカーではない

スタジオ・アルキミアは、1976年にミラノでアレッサンドロ・グエリエロと妹のアドリアーナが始めた集団である。工業製品の受注をこなす組織ではなく、デザイナーに設計を依頼し、自前で作って展示する場として動いた。シネルピカはその枠組みから生まれ、製作者としてアルキミアの名が収蔵記録に残る。設計の年は資料によって割れており、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は1979年、ポンピドゥー・センターは1978年としている。

同じ手つきで作られた家電の模型

ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の収蔵記録は、デ・ルッキがこの時期に同じやり方でトースター、ケトル、アイロンなどの家庭用品の試作を作り、それらは製品化されなかったと記している。ロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館は、そのうちのトースターを1979年の作、ジルミとの共同として収めている(収蔵番号 V 951 b 1-4(KN&V))。素材は木と塗料で、電熱も機構も持たない、見るための模型である。シネルピカは同じ色づかいと部材の組み方をとりながら、実際に点灯する点で家電の模型と分かれる。働きを減らしてはいるが、なくしてはいない。

スイスの会社が引き受けた生産

ベルックスは自社の沿革で、1982年にソットサスとデ・ルッキを中心とするデザイナー集団の家具と製品についてライセンス生産を引き受けたと記している。シネルピカにも、ベルックス製として競売に出された個体がある。手作業の工房から、照明を本業とする会社の生産へ移された時期があったことになる。

評価と影響

ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は収蔵記録で、この照明を、当時の製品デザインに広く見られた高い技術感と硬い輪郭に対抗する一連の仕事の1つとして説明している。実用の面での働きを削り、色と形の側に判断を寄せた作りが、その位置づけの根拠にあたる。

部材ごとに一色を割り当て、電球を覆わずに置く組み立ては、デ・ルッキが2年後にメンフィスの最初のコレクションへ出したオセアニック ランプにも現れる。ただしオセアニックでは灯具が箱形になり、光は下へ向けられている。アルキミアの時期に試した構成の一部が次の集団の製品にも持ち越され、光の扱いだけが変わったことになる。

収蔵

ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(ロンドン)が、収蔵番号 W.7-2010 として1点を収めている。塗装した金属と木で、高さ73cm、径21cm。ミラノで設計・製作されたものとして登録されている。

ポンピドゥー・センター(パリ)の国立近代美術館・産業創造センターが、収蔵番号 AM 1998-1-10 として1点を収めている。多色に塗装した金属製で、寸法は76×19×17cm、重量4.2kg。1999年に同館友の会からの寄贈で収められた。

基本情報

名称 シネルピカ / Sinerpica
デザイナー ミケーレ・デ・ルッキ(Michele De Lucchi)
製作 スタジオ・アルキミア(Studio Alchimia、ミラノ)
発表年 1979年(ポンピドゥー・センターの収蔵記録は1978年)
デザインの成立国 イタリア
分類 テーブルランプ
主要素材 塗装した金属(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の記録では金属と木)
サイズ 高さ73cm・径21cm(V&A所蔵品)/76×19×17cm(ポンピドゥー所蔵品)
重量 4.2kg(ポンピドゥー所蔵品)
灯具 電球をむき出しで受ける筒(シェード・反射板なし、向きの調節不可)
ライセンス生産 ベルックス(Belux、スイス。1982年以降)

Reference