バイオグラフィー
1951年11月8日、イタリア北部エミリア=ロマーニャ州フェラーラに生まれる。フィレンツェ大学建築学部にて学び、1975年に建築学の学位を取得。学生時代より急進的なデザイン運動「ラディカル・デザイン」に傾倒し、アヴァンギャルドな表現を追求する。1973年にはデザイン集団「カヴァート」を結成し、概念的なデザイン実験を展開した。
1976年、エットレ・ソットサスを中心とする「スタジオ・アルキミア」に参加し、アレッサンドロ・メンディーニらとともに反機能主義的なデザイン運動を牽引。1981年にはソットサスが主導する「メンフィス・グループ」の創設メンバーとして、20世紀後半のデザイン史を決定づける革命的な活動に身を投じた。
1979年より1992年まで、オリベッティ社のデザインコンサルタントとして、タイプライターやコンピュータなどの事務機器デザインを手掛け、テクノロジーと人間の関係性を追求。その後もアルテミデ、カルテル、ヴィトラ、エルメスなど世界的ブランドとの協働を重ねながら、建築とプロダクトデザインの双方で多大な足跡を残している。現在はミラノを拠点に「amdl CIRCLE」を主宰し、建築、デザイン、アートの境界を横断する活動を展開している。
デザイン思想とアプローチ
デ・ルッキのデザイン哲学は、工業生産と手仕事の融合という一貫したテーマに貫かれている。大量生産される製品においても、人間の手による温もりと詩情を宿らせることを重視し、「テクノロジーは人間性を高めるためにある」という信念のもと創作を続けてきた。
メンフィス時代には、モダニズムの厳格な機能主義に対する明確なアンチテーゼとして、鮮烈な色彩と遊戯的な形態を駆使した作品を発表。しかしその本質は単なる装飾性の追求ではなく、デザインがもつ文化的・社会的な意味の再考にあった。彼にとってオブジェクトとは、単なる機能の器ではなく、人間の感情や記憶と結びつく存在なのである。
近年は「地球との対話」を標榜し、自然素材への回帰と持続可能性を重視した建築・デザインに取り組んでいる。イタリア・アルプスの山間に建設した一連の木造建築「Casa」シリーズでは、大地に根ざした原初的な建築のあり方を探究。手斧で削られた木材を用いるなど、工業化以前の技法を現代に蘇らせる試みを続けている。
作品の特徴
デ・ルッキの作品は、幾何学的な明快さと有機的な温かみが共存する点に特徴がある。直線と曲線、工業素材と自然素材の対比を巧みに用い、視覚的な驚きと触覚的な親しみやすさを両立させている。
照明デザインにおいては、光の質と方向性に対する繊細な配慮が際立つ。代表作「トロメオ」に見られるように、機能性を損なうことなく美しいフォルムを実現し、空間における光の詩学を追求している。その可動式アームは、使用者との対話を可能にする動的な彫刻とも言える存在である。
建築作品においては、場所の記憶と地域の素材を尊重しながらも、現代的な空間体験を創出することに腐心している。ドイツ銀行フランクフルト本店の改修やイタリア郵政公社の店舗デザインなど、公共性の高いプロジェクトにおいても、人間的なスケールと温もりを失わない空間を実現している。
主な代表作品とエピソード
トロメオ(Tolomeo)/ 1987年
アルテミデ社のためにジャンカルロ・ファッシーナと共同でデザインした可動式デスクランプ。古代エジプトの天文学者プトレマイオス(イタリア語でトロメオ)にちなんで命名された本作は、スプリングを内蔵した繊細なアルミニウム製アームにより、360度自在に光の方向を調整できる革新的な構造を実現。1989年にコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、発表以来数百万台以上が販売される世界的ベストセラーとなった。現在もアルテミデ社の主力製品として、デスクランプからフロアランプ、壁付け型まで多彩なバリエーションを展開している。
ファースト・チェア(First Chair)/ 1983年
メンフィス・グループの活動の中で発表された椅子。球体の脚部とカラフルなラミネート素材が特徴的な本作は、従来の椅子のタイポロジーを根底から覆す挑発的なデザインとして注目を集めた。機能性よりも象徴性を重視し、「座る」という行為に新たな文化的意味を付与する試みであった。
シネルピカ(Sinerpica)/ 1978年
スタジオ・アルキミア時代に発表したフロアランプ。蛍光管を幾何学的に配置した彫刻的なフォルムは、工業製品を芸術作品へと昇華させるデ・ルッキの姿勢を端的に示している。ポストモダン照明デザインの先駆的作品として、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界の主要美術館に収蔵されている。
オセアニック(Oceanic)/ 1981年
メンフィス・グループの記念すべき第一回コレクションにて発表されたテーブルランプ。円錐形のシェードと波打つような台座が特徴で、工業製品でありながら手仕事のような親密さを感じさせる。メンフィスの美学を凝縮した一作として、デザイン史に刻まれている。
ドイツ銀行フランクフルト本店改修 / 2011年
マリオ・ベリーニとの協働により、フランクフルトにそびえるドイツ銀行ツインタワーの全面改修を手掛けた。環境負荷の大幅な低減と、働く人々のウェルビーイングを両立させた設計は、サステナブル建築の模範として高い評価を受けた。
功績・業績
デ・ルッキは、イタリアデザイン界最高の栄誉であるコンパッソ・ドーロ賞を複数回受賞している。1989年のトロメオランプによる受賞に加え、2001年にはキャリア全体の功績を讃える特別賞を授与された。また、ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(Royal Designer for Industry, RDI)の称号も有している。
世界各地の美術館が彼の作品を永久コレクションに収蔵している。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、パリのポンピドゥー・センター、ミュンヘンのノイエ・サムルンクなど、名だたる機関がその業績を認めている。
教育分野においても多大な貢献を果たしており、ミラノ工科大学やドムス・アカデミーなどで後進の指導にあたってきた。その教えを受けた多くのデザイナーが、現在世界各地で活躍している。
評価・後世への影響
ミケーレ・デ・ルッキは、ポストモダンデザインの象徴的存在として、20世紀後半から21世紀にかけてのデザイン史において不可欠の位置を占めている。メンフィス・グループの活動を通じて、デザインにおける美の概念を拡張し、装飾と機能の二項対立を乗り越える道を示した。
トロメオランプに代表される彼のプロダクトデザインは、工業製品における詩情の可能性を証明し続けている。大量生産される日用品においても、人間の手と心の痕跡を宿らせるという彼の姿勢は、現代のデザイナーたちに重要な示唆を与えている。
また、近年の木造建築への傾倒は、グローバル化と工業化が極限に達した現代において、人間と自然の関係を再構築するデザインのあり方を問いかけるものである。70年を超えるキャリアを通じて常に変化を恐れず、時代の先端を走り続けるその姿勢は、デザインという営みの本質を体現しているといえよう。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1978年 | 照明 | Sinerpica | Studio Alchimia |
| 1979年 | 照明 | Lucciola | Studio Alchimia |
| 1981年 | 照明 | Oceanic | Memphis |
| 1981年 | 照明 | Kristall | Memphis |
| 1981年 | 家具 | Lido Sofa | Memphis |
| 1982年 | 照明 | Flamingo | Memphis |
| 1983年 | 椅子 | First Chair | Memphis |
| 1984年 | 事務機器 | Icarus 40 | Olivetti |
| 1985年 | 照明 | Giovi | Artemide |
| 1987年 | 照明 | Tolomeo | Artemide |
| 1988年 | 照明 | Tolomeo Faretto | Artemide |
| 1989年 | 事務機器 | ETP 55 | Olivetti |
| 1990年 | 照明 | Pipe | Artemide |
| 1992年 | 椅子 | Mimosa | Kartell |
| 1994年 | 照明 | Logico | Artemide |
| 1996年 | 建築 | Poste Italiane店舗デザイン | Poste Italiane |
| 1998年 | 照明 | Castore | Artemide |
| 2000年 | 照明 | Nur | Artemide |
| 2001年 | 建築 | Enel Pavilion | Enel |
| 2003年 | 照明 | Cosmic Leaf | Artemide |
| 2004年 | 文具 | Alis pen | Pelikan |
| 2006年 | 家具 | Chab-Table | Molteni&C |
| 2007年 | 照明 | Tolomeo Mega | Artemide |
| 2009年 | アクセサリー | Collezione Maison | Hermès |
| 2011年 | 建築 | Deutsche Bank Towers改修 | Deutsche Bank |
| 2012年 | 照明 | Dioscuri | Artemide |
| 2013年 | 照明 | Tolomeo Paralume | Artemide |
| 2015年 | 建築 | Casa Elementi | - |
| 2016年 | 建築 | Ponte dell'Accademia (提案) | Comune di Venezia |
| 2017年 | 照明 | Gio Light | Artemide |
| 2018年 | 建築 | Palazzo Litta改修 | - |
| 2019年 | 建築 | Casa del Custode delle Acque | - |
| 2020年 | 建築 | Casa Rotonda | - |
| 2021年 | 建築 | Earth Station | amdl CIRCLE |
| 2022年 | 照明 | Tolomeo Micro | Artemide |
Reference
- Michele De Lucchi - Official Website
- https://www.amdlcircle.com/
- Artemide - Michele De Lucchi
- https://www.artemide.com/en/designers/michele-de-lucchi
- MoMA - The Collection - Michele De Lucchi
- https://www.moma.org/artists/1595
- Victoria and Albert Museum - Memphis
- https://www.vam.ac.uk/collections/memphis
- Vitra Design Museum - Memphis Collection
- https://www.design-museum.de/en/collection/100-masterpieces.html
- ADI Design Index - Compasso d'Oro
- https://www.adi-design.org/compasso-d-oro.html
- Dezeen - Michele De Lucchi
- https://www.dezeen.com/tag/michele-de-lucchi/
- Domus - Michele De Lucchi
- https://www.domusweb.it/en/designers/michele-de-lucchi.html