概要

変型の家具は、倉俣史朗が1970年に設計した引出し収納である。引出しを縦に積んだ箱でありながら、箱の輪郭が段ごとに位置を変え、正面あるいは側面から見たときにゆるやかな波を描く。湾曲する向きの異なる Side 1 と Side 2 の2型がある。日本では青島商店が製作を担い、1987年からはイタリアのカッペリーニが「Progetti Compiuti」の名で生産している。引出しを等間隔に積むという収納家具の手順を、外形の側から組み替えた設計にあたる。

特徴・コンセプト

曲がった箱と、まっすぐ引ける引出し

収納家具は通常、同じ寸法の引出しを等間隔に積む。前板が揃っていれば製作の手間が減り、外形は直方体に収まる。変型の家具はこの順序を入れ替え、箱の輪郭を先に決めている。輪郭が段ごとにずれるため、正面に並ぶ前板は規則を持たず、どの段も隣と同じ位置には来ない。

ただし、引出しそのものは水平に引ける。湾曲しているのは箱の外形であって、引出しが走る向きではないためで、収納としての動作は保たれている。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館の作例(収蔵番号 W.12:1 to 19-1989)は、波打つ箱に18杯の引出しを収めている。

曲面を成り立たせる材料

側板が曲面である以上、一枚の板では曲率に耐えられない。初期の作例では、薄い単板を積層して型で成型した成形合板が側板に用いられ、ラッカー塗装の吹付けで仕上げられた。曲率を保ったまま面としての強度を得る手法は当時すでに椅子の座や背で使われており、それを箱物の側板に持ち込んだ形になる。

現行のカッペリーニ版は構成が異なる。高密度の木質パネルと無垢材のアッシュで基体を組み、見える面は黒く染めたアッシュ、引出しの前板はつや消しの白いラッカー、つまみはブラッシュ仕上げのスチールとする。底にはグレーのゴム車輪が付き、重い箱を押して動かせる。箱を黒、前板を白とする配色により、外形が湾曲していても各段の位置が離れた場所から判別できる。

引出しという部位への関心

倉俣は1967年に〈引出しの家具〉のシリーズを発表しており、変型の家具はその延長にある。1970年には本作のほか、〈引出しの家具 Vol. 2〉の2点を制作している。しまう、探す、開けるという動作を伴うぶん、引出しは使い手が手を触れる機会の多い部位にあたる。変型の家具はその動作を残したまま、外形を決める規則だけを外している。

エピソード

独立後の倉俣にとって、家具は受注品ではなかった。1965年にクラマタデザイン事務所を設立して以降、店舗や飲食店の内装で仕事を得ながら、商品化を前提としない家具を自主的に制作して発表している。京都国立近代美術館は2024年の回顧展の解説で、この点を初期の家具に共通する前提として記している。

製作を支えたのは、木製家具の仕事を請け負っていた青島商店である。倉俣は1964年に同社の青島賢治と出会い、以後の木の家具をこの相手と作った。ニューヨーク近代美術館が1998年に収めた1970年の作例も製造は青島商店で、寄贈者に同社が名を連ねている。

〈引出しの家具〉のシリーズは1967年にデンマークの雑誌『モビリア』に掲載され、倉俣の仕事が国外で紹介される最初の機会となった。変型の家具はその3年後の設計にあたる。

1981年、ロンドンのアラムデザインで開かれた個展に《変型の家具 Side 1》が出品された。倉俣は同じ年にエットレ・ソットサスの誘いでメンフィスに加わっており、この二つがヨーロッパでの認知につながっている。1987年にはカッペリーニが「Progetti Compiuti」として製品化した。同シリーズには Side 1 と Side 2 のほか、1970年設計で49杯の非対称な引出しを持つ PC_12、1977年設計の Solaris が含まれる。設計から17年を経ての量産化であり、以後の流通はこの版に移っている。

評価と影響

設計から半世紀を過ぎてカッペリーニでの生産が続き、美術館での展示機会も重なっている。2013年に埼玉県立近代美術館で開かれた「浮遊するデザイン―倉俣史朗とともに」、2023年から2024年にかけて世田谷美術館・富山県美術館・京都国立近代美術館を巡回した「倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙」には、いずれも《変型の家具 Side 1》が出品された。

カッペリーニは本シリーズ以降も、回転キャビネットやコ・コなど倉俣の設計を製品化している。

美術館コレクション

ニューヨーク近代美術館
Side 2(1970年設計)。ラッカー塗装の木材とアルミニウム、171.1×62.3×52.4センチ。製造は青島商店。収蔵番号 521.1998。
ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館
Drawers in irregular form(1970年設計、1989年製造)。染色してラッカーを施したアッシュの突板、引出し18杯。製造はカッペリーニ。収蔵番号 W.12:1 to 19-1989。

基本情報

デザイナー 倉俣 史朗
ブランド カッペリーニ
発表年 1970年
デザインの成立国 日本
Side 1 / Side 2
主要素材 アッシュ(黒染め)、ラッカー塗装の前板、スチール
脚部 キャスター(ゴム車輪)
シリーズ名 Progetti Compiuti(カッペリーニ)

Reference

Cappellini|Progetti Compiuti
https://www.cappellini.com/ww/en/products/progetti-compiuti.html
Cappellini|Shiro Kuramata
https://www.cappellini.com/ww/en/designers/shiro-kuramata.html
The Museum of Modern Art|Shiro Kuramata. Side 2. 1970
https://www.moma.org/collection/works/4300
Victoria and Albert Museum|Drawers in irregular form
https://collections.vam.ac.uk/item/O145035/drawers-in-irregular-form-chest-of-drawers-kuramata-shiro/
京都国立近代美術館|倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙 出品リスト
https://www.momak.go.jp/wp-content/uploads/2024/06/handout_JA-1.pdf
京都国立近代美術館|倉俣史朗 年譜
https://www.momak.go.jp/wp-content/uploads/2024/06/web_handout_A_F.pdf
All About|【倉俣史朗のデザイン】変型の家具 1970(『倉俣史朗の仕事』鹿島出版会 掲載仕様の引用)
https://allabout.co.jp/gm/gc/442298/
インターネットミュージアム|浮遊するデザイン-倉俣史朗とともに(埼玉県立近代美術館)
https://www.museum.or.jp/report/332