概要

Kチェアは、カリモク家具が1962年に発表した木肘の椅子である。長く続けてきた下請けの木工加工から離れ、自社ブランドの家具として最初に売り出した製品にあたる。発表当時の呼び名は製品番号の1000番で、Kチェアの名がついたのは後年である。米国へ輸出していた木製アームチェアを、日本人の体格と日本の住宅に合わせて設計し直したものだった。発売から一度も廃番にならず、2002年には1960年代の自社製品を選び直した「カリモク60」の商品として整理され、現在も1シーターと2シーターを中心に生産されている。

特徴・コンセプト

奥行き70センチという寸法

Kチェアの奥行きは70cmで、椅子としてもソファとしても浅い部類に入る。輸出用の原型を国内向けに詰めた結果である。座り心地は奥行きで大きく変わる。深すぎれば小柄な人は背もたれに背中が届かず浅く腰掛けることになるが、70cmであれば背中を預けられる。カリモク家具は一般的なソファの奥行きを85〜100cmとしたうえで、Kチェアの寸法は小柄な人や高齢者でも座りやすいと説明している。

幅も同じ考えで抑えられ、2シーターでも1330mmに収まる。座面高は370mmで、脚まわりに余計な部材がないため床との間が開いており、下を掃除できる。

組み立て式という前提

Kチェアはノックダウン、つまり部材の状態で梱包し、置く場所で組み立てる構造をとる。輸出用の家具を手本にしたためで、船で運ぶ家具は箱の容積がそのまま輸送費に跳ね返る。国内向けに転じたあとも、この構造は搬入経路の狭い住宅や集合住宅で有利に働いた。

ただし、この構造が長く効いているのは輸送よりも修理の面である。座面、背、木肘がそれぞれ独立した部材であるため、へたった座面だけ、焦がした木肘だけを取り寄せて差し替えられる。傷んだ部分を替えながら使い続けることが、設計の段階から想定されている。

木肘の選別と仕上げ

座ったときに手が乗る木肘は、木部のなかで最も人の手が触れる部分である。天然木は同じ樹種でも1本ずつ色味と木目が異なるため、カリモク家具は木目を見ながら材を選別し、選んだ部位を木肘に回している。表面はサンドペーパーで繰り返し研磨され、手のひらが当たっても引っかからない状態に仕上げられる。木部の主材はラバートリー材、アームトップにはブナ材が使われる。

外形を変えずに中身を替える

1962年からほぼ同じ姿で作られているが、座面の中身は更新され続けている。木枠には山形に反らせた鋼製のSバネを張り、左右をワイヤーでつないで1本だけが沈まないようにしてある。腰が落ち込みすぎるのを防ぐためで、バネがこすれる音を抑えるシリコン塗布のような、外からは見えない処理も加えられている。その上に高密度のウレタンフォームとキルトウレタンを重ねることで、ボタン締めの凹凸が崩れずに出る。ボタンは、留めている糸がねじれて切れないよう、ボタン自体が回る構造になっている。2008年にはバネが強化され、これに合わせて木枠も補強され、ウレタンの密度も上げられた。

張り地

定番の張り地は、合成皮革のスタンダードブラックと、モケット織のモケットグリーンの2つである。合成皮革はその時々の素材技術に合わせて改められ、現在は厚みを増し、アルコールに耐えるものになっている。モケット織は起毛の織物で引っかき傷に強く、店舗やペットのいる家庭で選ばれてきた。2018年からは張り地と木部の塗装色を組み合わせるパターンオーダーが加わっている。

エピソード

カリモク家具は1940年に愛知県刈谷市の木工所として始まり、輸送用の木箱、ミシンテーブル、ピアノ部品といった下請けの仕事を重ねてきた。下請けでは受注量が景気に左右され、経営が安定しない。1959年に米国向け家具の木製アームを手がけたことで家具という分野が視野に入り、自社製品を持つ方針が固まる。折しも日本では畳の和室に代わってダイニングキッチンやリビングのある間取りが増えつつあり、洋家具の需要が伸びると見込まれていた。

そうして1962年に発売された第一号が、製品番号1000番の椅子である。米国へ輸出していた木製アームチェアを日本人の体に合わせて作り直した、角ばった形の布張り木肘椅子だった。1000番はその後さらに直線的な輪郭へ改められ、WS1150番と呼ばれるようになる。これが現在のKチェアにあたる。製造を担う東浦カリモクには、途中の段階にあたる1100番の図面が残されている。

設計を担当したのは奥山五男である。米国輸出向けの椅子も手がけており、カリモク家具が家具メーカーとして歩き出したときのメインデザイナーだった。奥山は品質の基準づくりにも関わり、デンマークの家具品質管理委員会の基準を社内に持ち込んで、それを上回ることを求めたという。1967年に入社してKチェア2シーターなどの図面を引いた林隆嗣は、Kチェアはカリモクの品質基準を作った椅子だったと振り返っている。

製造では椅子張りが壁になった。木を削り組む工程は得意でも、クッションを縫って張る工程は社内に経験がない。片山辰美ら3人が1年かけて社外で技術を習得することになり、最初に入った椅子張り屋では3か月経っても座面裏に麻テープを張る作業から先へ進めず、別の工作所へ移っている。当時は反物をハサミで裁ち、木枠への張り込みは口に含んだ釘を1本ずつ打っていた。釘を口に含むのは、唾液で錆びさせて抜けにくくするためである。帰社後は工作所の親方夫妻の指導を受けてラインを立ち上げ、それでも足りない部分を補うため、宮内庁御用達の仕事をしていた京都の一級家具製作技能士を招いている。

売り出したあとも不具合は続いた。箱を開けたら右の木肘が2本入っていた、組み立てに必要な穴が開いていなかった、といったものである。部材ごとに梱包する方式だったため、該当するパーツだけ送り直せば済んだ。

2002年、カリモク家具は1960年代に生まれた自社製品のうち普遍性のあるものを選び、「カリモク60」として復刻・再編集した。Kチェアはその中心に置かれている。立ち上げ時のタープグリーンにキルティングを入れなかったのは、原型である1000番の姿を表したいという理由によるものだった。

評価と影響

発売当初のKチェアを支えたのは、個人よりも法人の需要だった。手頃な価格と扱いやすさ、装飾のない形から、旅館のロビーや中小企業の応接間に置かれた。2002年以降はカフェをはじめとする店舗でも使われるようになり、家庭向けと業務向けの両方に流通している。

一方で、設計に関わった当事者からは現在の受け止められ方を意外とする声もある。林は、機能を突き詰めた近年の椅子と比べればクッションのつくりは単純なのに、若い世代がわざわざ選んでいることを不思議だと語っている。

基本情報

名称 Kチェア / K Chair
デザイナー 奥山五男
ブランド カリモク家具(現在はカリモク60として販売)
発表年 1962年
デザインの成立国 日本
分類 アームチェア
当初の製品番号 1000番(のちにWS1150番)
主要素材 ラバートリー材(アームトップはブナ材)、合成皮革またはファブリック、ウレタンフォーム、鋼製Sバネ
サイズ 1シーター 幅645mm/1シーターワイド 幅735mm/2シーター 幅1330mm(いずれも奥行700mm・高さ700mm・座面高370mm)
構造 ノックダウン(組み立て式、部材ごとの交換が可能)

Reference

Kチェア|カリモク家具の「定番」|カリモク家具株式会社
https://www.karimoku.com/brand/masterpiece/kchair.html
沿革|カリモク家具の歴史|カリモク家具株式会社
https://www.karimoku.com/story/history/topics.html
カリモク60の生い立ち|COLUMN|カリモク60
https://www.karimoku60.com/column/column15/
カリモクのおもいで Kチェア人気の不思議|COLUMN|カリモク60
https://www.karimoku60.com/column/column3/
Kチェアのこと|FEATURE|カリモク60
https://www.karimoku60.com/feature/kchair/
ブランドコンセプト|カリモク60
https://www.karimoku60.com/concept/
Kチェア1シーター|PRODUCT|カリモク60
https://www.karimoku60.com/product/kchair-1sheeter/standard-black