概要
キャブは、マリオ・ベリーニが1977年にカッシーナのために設計した椅子である。革のカバーが自立して外形を保ち、スチールパイプのフレームはその内側に隠れる。この構成を共有しながら、アームレストの有無で412と413に分かれる。
いずれもカッシーナの「イ・コンテンポラネイ」コレクションに属し、現在も生産が続いている。発表から年月を経てのち、寸法の展開が加えられた。
マリオ・ベリーニの設計思想や経歴について詳しくはマリオ・ベリーニ プロフィールページをご覧ください。
共通する設計原理
革が構造を担う
椅子の張り地は、木や金属の下地に留め付けるのが通例である。キャブでは、裁断した革を縫い合わせて立体のカバーをつくり、それ自体が外形を保つ。フレームは荷重を受け持つが、外からは見えない。設計の出発点は、骨格の上に皮膚がかぶさる関係にあるとカッシーナは説明している。
カバーは脚の内側を通したジッパーで留められる。ジッパーはそれまで詰め物のある家具の張り地に使われてきた部品で、フレームに革を締結する手段として用いた点が新しかった。カバーは取り外せる。
共通する部材
フレームは黒く塗装したスチールパイプ。座面には黒い樹脂のシェルが入り、冷間成形の柔らかいポリウレタンフォームが詰められる。脚先には黒い樹脂の部品が付き、フェルトの有無を選べる。カバーはサドルレザー(本革)で、色はカッシーナのコレクションから選択する。
革の裁断と縫製
裁断した革は、そのまま縫い合わせるのではなく、重なる部分の厚みを漉いて薄くしてから接合される。外縁を整えたうえで縫うため、フレームにかぶせたときに緩みが出ない。仕立て服の型紙と同じ考え方で、面を組み合わせて立体をつくる。
使用する革の枚数と工程数について、カッシーナの資料は一致していない。同社の製品ページは16枚の革と14の手作業工程と記す一方、412の製品データシートには21枚・22工程という記述が残る。413のデータシートは工程数を14とするのみで、枚数を記していない。
成立と展開の経緯
ベリーニは1960年代からカッシーナと仕事を重ねており、キャブはその流れのなかで生まれた。カッシーナは412と413のいずれも設計年を1977年としている。一方、ニューヨーク近代美術館はサイドチェアを1976年、アームチェアを1978年と記録しており、両モデルの成立に時間差があった可能性がある。
その後、寸法の展開が加えられた。412には奥行を5cm広げたXLと小ぶりなBabyが、413には奥行を5cm、幅を4cm広げたXLが用意された。あわせて、純アニリンのプラス・サドルレザーと、手作業でぼかしをかけた仕上げが色の選択肢に加わっている。革のカバーが外形を決める構成であるため、寸法を変えても型紙を引き直せば同じ作り方が通用する。
キャブにはこのほか、ラウンジチェアの414など、座面と背の高さを変えた型番も存在する。
メンバー間の差異
412と413の違いはアームレストの有無にあり、それが幅と奥行に表れる。高さ82cm、座面高45cmは両者で共通するため、同じテーブルに混ぜて並べても座面の高さがそろう。
| 比較項目 | キャブ 412 | キャブ 413 |
|---|---|---|
| アームレスト | なし | あり(背もたれから連続する革の面) |
| 幅 | 52cm | 62cm |
| 奥行 | 49cm | 52cm |
| アームレスト高 | ― | 64cm |
| 寸法展開 | 標準/XL(奥行+5cm)/Baby | 標準/XL(奥行+5cm・幅+4cm) |
| 向く用途 | テーブル下に収める、脚数を並べる | 長く座る、席の端に置く |
ダイニングでは、両端に413を、長辺に412を並べる構成がとられることが多い。アームレストの有無は幅に10cmの差を生むため、同じ長さのテーブルでも並べられる脚数が変わる。
メンバー一覧
| 発表年 | 区分 | 製品名 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 1977年 | チェア | キャブ 412 | アームレストを持たない基本型。3つの寸法が選べる。 |
| 1977年 | アームチェア | キャブ 413 | 背もたれから連続する革のアームレストを備える型。革が構造を担う構成が最も直接に表れる。 |
評価と影響
革のカバーで構造を包むという構成は、以後の椅子に繰り返し参照された。ベリーニ自身も、この形式が多く模倣されたと述べている。
模倣が容易でないのは、外形を保つのが革そのものだからである。型紙の精度と漉きの加減が形に直結し、フレームの側で寸法を追い込む方法が使えない。生産の大半が手作業の工程として残っているのはこのためである。
カッシーナの歴史や他の製品について詳しくはカッシーナ ブランドページをご覧ください。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、Met=メトロポリタン美術館)。
- MoMA キャブ サイドチェア(412にあたる、1976年) 収蔵番号 475.1978
- MoMA キャブ アームチェア(413にあたる、1978年) 収蔵番号 4.1980
- Met キャブ アームチェア(1978年設計、1987年製の個体) 収蔵番号 1987.370.1
2つの型番がともに収蔵されているのはMoMAで、サイドチェアは製造元からの寄贈による。V&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)とAIC(シカゴ美術館)では該当する収蔵は確認できなかった。
基本情報
| デザイナー | マリオ・ベリーニ |
|---|---|
| ブランド | カッシーナ |
| 共通構造 | 自立する革のカバーと、内側に隠れるスチールパイプのフレーム |
| 共通素材 | 黒塗装スチールパイプ、サドルレザー、冷間成形ポリウレタンフォーム |
| 共通する締結 | 脚の内側を通したジッパー |
| コレクション | イ・コンテンポラネイ |
Reference
- Cassina | Cab 412
- https://www.cassina.com/ww/en/products/cab-412.html
- Cassina | Cab 413
- https://www.cassina.com/ww/en/products/cab-413.html
- MoMA | Mario Bellini. Cab Side Chair. 1976
- https://www.moma.org/collection/works/3982
- MoMA | Mario Bellini. Cab Armchair. 1978
- https://www.moma.org/collection/works/1335
- The Metropolitan Museum of Art | Mario Bellini, "Cab" Armchair
- https://www.metmuseum.org/art/collection/search/484804