アルコーヴ キャビンは、ロナン&エルワン・ブルレック兄弟がヴィトラのために設計した、室内に置く小さな個室である。四方を囲まれ、開口部は一箇所のみ。内部には向かい合わせの座面が備わり、2〜4人が視覚的・音響的に区切られた場所を得る。
2012年に発表され、2021年に改訂された。ヴィトラが長く取り組んできた「部屋のなかの部屋」という考え方を、最も閉じた形で実現した製品にあたる。
特徴・コンセプト
構造の骨格はクロームメッキまたはパウダーコートを施したスチールパイプで、MDFのベースボードを持つ金属フレームがこれを支える。側面と背面のパネルは有機繊維板を芯材とし、ポリエステル繊維を詰めたキルティングのカバーで覆われる。パネル同士はファスナーで接続される。
このキルティングパネルが、外観の柔らかさと吸音性能の両方を担っている。硬質な間仕切りで囲うのではなく、布の面で音を吸わせるという選択によって、閉じた空間でありながら圧迫感が抑えられている。
座面高は480mm。オプションでテーブルを組み込むことができ、その場合の天板高は725mmになる。天板は高密度三層パーティクルボードにメラミン加工したもの、パウダーコートのMDF、あるいはヨーロッパ産オークの突板から選べる。テーブルを付ける場合は接続パネルに補強が加わる。
電源接続とモニター設置の下地も選択でき、そのまま執務の場として使える。テーブルを組み込まない構成では、脚にロック付きキャスターを付けて移動可能にすることもできる。
背景
アルコーヴ ファミリーが生まれたのは2006年である。可動する微小建築という発想から出発し、以後モデルを増やし続けてきた。高さ約1.5mの側面・背面パネルを持つアルコーヴ ハイバック ソファは、その最初期の到達点にあたる。
個人作業が場所を選ばずに行えるようになるにつれ、オフィスは人が集まる場としての性格を強めた。この状況で、囲われた場所を必要に応じて作れる家具が求められるようになった。
アルコーヴのモデル群はアルコーヴとアルコーヴ プラスの2系統に分かれる。前者はフレームが見え、床との間に空きがあるため軽さを保つ。後者はパネルが床まで届いてフレームを隠し、高い側面パネルにファスナーで可動スクリーンを追加できる。アルコーヴ キャビンは、この系譜のなかで囲いを一巡させ、天井以外の四面を閉じた構成に到達した製品である。
評価
アルコーヴ キャビンは、工事を伴わずに個室を確保できる点が実務上の利点となる。オープンプランのオフィスで集中作業や少人数の打ち合わせの場が必要になったとき、間仕切り工事の代わりに置いて使える。用途が変われば配置を変えられる。
一方、四方が閉じているため床面積の占有は大きく、天井高や動線に余裕のない空間には向かない。同じブルレック兄弟によるソフトシェル ソファは、硬い外殻と柔らかい中身を分ける構成で、囲いをより低く抑えている。
設計思想や経歴について詳しくはロナン・ブルレック、エルワン・ブルレックの各プロフィールページをご覧ください。
ヴィトラの歴史や他の製品について詳しくはヴィトラブランドページをご覧ください。
基本情報
| デザイナー | ロナン&エルワン・ブルレック / Ronan & Erwan Bouroullec |
|---|---|
| 発表年 | 2012年(2021年に改訂) |
| ブランド | ヴィトラ / Vitra |
| カテゴリー | マイクロアーキテクチャー(室内個室) |
| 収容人数 | 2〜4人 |
| フレーム | スチールパイプ(クロームメッキ / パウダーコート)+MDFベースボードを持つ金属フレーム |
| パネル | 有機繊維板を芯材とし、ポリエステル繊維入りキルティングカバーで被覆 |
| 座面高 | 480mm |
| テーブル高(オプション) | 725mm |
| オプション | テーブル、電源接続、モニター設置下地、キャスター(テーブルなし構成のみ) |
| ファミリー | アルコーヴ(2006年〜) |