パリサードチェア ― 都市と自然を繋ぐ、鉄のスラットが描く静謐な風景
フランスが世界に誇るデザインデュオ、ロナン&エルワン・ブルレック兄弟が、デンマークの家具ブランドHAY(ヘイ)のために手がけたアウトドアファニチャーコレクション「パリサード」。その中核を成すパリサードチェアは、登場以来、ヨーロッパのカフェテラスから日本の個人邸の庭先に至るまで、屋外空間で広く用いられている一脚である。
「パリサード(Palissade)」とは、フランス語で柵や垣根を意味する言葉であり、その名が示すとおり、垂直に並ぶスチールのスラットが本作の最も顕著な意匠的特徴となっている。伝統的なフランスの金属製ガーデンファニチャーの記憶を現代的な造形言語へと置き換えたこのチェアは、堅牢さと軽やかさを一脚のうちに両立させている。
概要
パリサードチェアは、2015年9月のパリ「メゾン・エ・オブジェ」で初めて公開され、2016年より本格的に販売が開始されたHAYのアウトドアファニチャーである。コレクション全体は、チェア、アームチェア、ダイニングアームチェア、ベンチ、ソファ、テーブル、ラウンジチェア、オットマン、バースツールなど20種類以上のアイテムで構成され、左右対称のジオメトリーという共通の設計原理によって統一されている。
ブルレック兄弟は本コレクションの開発に約2年を費やした。パウダーコーティングを施した電気亜鉛メッキ鋼、あるいは溶融亜鉛メッキ(ホットガルバナイズド)仕上げのスチールを素材に採用し、屋外使用における耐候性と長期的な美観の維持を両立させている。
特徴とコンセプト
パリサードチェアの造形は、フランスの公園や庭園で古くから親しまれてきた金属製ガーデンチェアの伝統に深く根ざしている。しかし、ブルレック兄弟はその伝統を単に踏襲するのではなく、幾何学的な厳密さと有機的な曲線の融合によって、現代の屋外空間にふさわしい新たな造形表現を生み出した。
対称の幾何学
コレクション全体を貫く設計原理は「対称のジオメトリー」である。スラット状の座面と背もたれ、チューブ状のフレームが織りなすグラフィカルな構成は、どの角度から眺めても整然とした美しさを湛えている。この幾何学的な秩序は、単なる装飾的効果にとどまらず、構造的な強度を確保するための合理的な解でもある。
スラット構造の機能美
座面と背もたれを構成する垂直のスラットは、パリサードチェアの意匠上の核心であると同時に、きわめて実用的な機能を担っている。スラット間の隙間は、雨水の速やかな排出と空気の自然な循環を可能にし、屋外での使用において椅子の表面に水が溜まることを防ぐ。雨天後も拭き取りの手間なく、すぐに着座できる点は、ガーデンファニチャーとしての実用性を大きく高めている。
「力強く、しかし重厚ではなく。優美で、しかし脆くはなく。」
ブルレック兄弟自身がパリサードコレクションを端的に表現した言葉として広く知られるこのフレーズは、本作の設計思想を凝縮している。パウダーコーティングを施したスチールの堅牢さと、スラットが生み出す軽やかな透過性。直線的なフレームの厳格さと、座面の緩やかな曲面がもたらす柔らかさ。これらの対比が、一脚の椅子の中に自然に共存している。
色彩と環境への調和
カラーバリエーションは、アンスラサイト、スカイグレー、オリーブ、アイアンレッド、クリームホワイトの5色に加え、溶融亜鉛メッキによるシルバーの光沢仕上げが用意されている。いずれも自然光のもとで映える、落ち着きのある色調が選ばれており、庭の緑や都市のコンクリート、カフェのテラスの石畳といった多様な背景に違和感なく馴染む。ブルレック兄弟は色とフォルムの両面から、環境との調和を意図した。
エピソード
メゾン・エ・オブジェでのデビュー
パリサードコレクションが初めて公の場に姿を現したのは、2015年9月にパリで開催されたインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」であった。当時13アイテムで構成されたコレクションは、その統一感あるグラフィカルな表情と、屋外家具としての完成度の高さで、会場に集まったデザイン関係者の注目を集めた。
「柵」という名に込められた意図
垂直のスラットが整然と並ぶ造形は、柵(パリサード)のリズムをそのまま想起させる。庭と外界を隔てる柵が、同時に庭の風景の一部となるように、パリサードチェアもまた、空間の境界を定めながらその風景に溶け込む存在として構想された。
特定の場所を持たないデザイン
ブルレック兄弟は、パリサードの設計にあたり「特定のコンテクストを想定しなかった」と語っている。公共空間、カフェ、レストラン、庭園、テラス、バルコニーなど、あらゆる場所で等しく機能することを目指したこの姿勢は、結果として、パリサードに驚くほどの汎用性をもたらした。商業施設と住宅、都市と郊外、北欧と地中海沿岸という、異なる環境条件のもとで等しく評価されていることが、その証左である。
手仕事の痕跡
パリサードコレクションの全製品は手作業による工程を含んで製造されている。HAYは公式に「小さな傷のようなものが見られる場合があるが、それらは欠陥ではなく、製品の品質や機能を損なうものではない」と説明している。工業製品でありながら、一脚ごとに微細な個体差が宿るこの特性は、量産品にはない手仕事の温もりをかすかに感じさせるものである。
評価
パリサードチェアおよびパリサードコレクションは、発表以来、デザイン業界および一般消費者の双方から高い評価を受けている。
世界各地のカフェ、レストラン、ホテル、公共施設での採用実績は、その耐久性とデザイン性が商業空間の要求水準を満たしていることを示している。
デザイン批評の文脈では、ブルレック兄弟がフランスの伝統的なガーデンファニチャーの類型を現代的に再解釈した点、また単一の椅子ではなくコレクション全体として統一されたデザイン言語を構築した点が、特に高く評価されている。パリサードはHAYの製品ラインナップにおいても象徴的なコレクションとしての地位を確立しており、発表から10年近くが経過した現在も、カラーバリエーションやアイテムの追加を重ねながら継続的に生産されている。
基本情報
| 正式名称 | パリサードチェア / Palissade Chair |
|---|---|
| デザイナー | Ronan & Erwan Bouroullec(ロナン&エルワン・ブルレック) |
| 国籍 | フランス |
| デザイン年 | 2015年(発売:2016年) |
| ブランド | HAY(ヘイ)/ デンマーク |
| カテゴリ | ガーデンファニチャー / アウトドアチェア |
| 素材 | 電気亜鉛メッキ加工スチール(粉体塗装)/溶融亜鉛メッキ加工スチール(ホットガルバナイズド仕上げ) |
| サイズ | W470 × D560 × H800 mm(座面高:450 mm) |
| 重量 | 約7.9〜10.4 kg(仕上げにより異なる) |
| カラーバリエーション | アンスラサイト(RAL 9011)、スカイグレー(RAL 7038)、オリーブ、アイアンレッド、クリームホワイト、ホットガルバナイズド |
| スタッキング | 最大8脚まで積み重ね可能 |
| 脚部 | プラスチックグライダー付き |
| 別売オプション | パリサードシートクッション(防水仕様、滑り止め付き) |
| 参考価格(税込) | 粉体塗装仕上げ:¥55,000 / ホットガルバナイズド仕上げ:¥110,000 |
| 製品保証 | 1年間(HAY正規販売店購入品) |
| 生産国 | 中国 |