概要

バルブは、インゴ・マウラーが1966年に設計した卓上灯で、マウラーが手がけた最初の照明にあたる。白熱電球の形を大きく写したガラスの覆いの中に、実物の電球を一つ収める。同じ1966年に創業したデザインM(現インゴ・マウラー社)の最初期の製品で、現在も同社が製造を続けている。

特徴・コンセプト

電球の形を器具の形にする

照明器具の多くは、笠やグローブで電球を覆い、光源を見せないようにつくられる。バルブはこの関係を逆にして、覆いそのものを電球の形にした。ガラスは透明で光源を隠さず、内側の電球と外側の覆いが、大小二つの同じ輪郭として重なって見える。設計の主題は、光が何を照らすかよりも、光源である電球そのものに置かれている。

台座は高光沢のクロムめっきを施した金属で、電球でいえば口金にあたる位置を占める。ガラスの膨らみ、すぼまった首、金属の基部という電球の構成が、器具全体の大きさでそのまま繰り返される。

ムラーノ島の吹きガラス

覆いはムラーノ島のガラス職人による手吹きのクリスタルガラスである。電球の球形と首のくびれを、継ぎ目のない一つの中空体として得るには、息を吹き込んで膨らませる製法が適している。一個ずつ吹いてつくるため、製造の過程でガラスに小さな気泡が入ることがあり、メーカーはこれをムラーノ製の個体差として扱っている。

頭頂部を鏡面にした電球

中に収める電球は、頭頂部を鏡面処理したものに限られる。透明な覆い越しに見える位置で、鏡面が光源の最も明るい部分への直視を遮り、光を台座の側へ返す。当初は100Wの白熱電球が指定されていたが、現行の230V仕様では、同じく頭頂部を鏡面処理したLEDのフィラメント電球が付属する。光源の方式が変わっても、頭頂部を鏡面にした電球という条件は保たれている。

載せるだけのガラス

ガラスは台座に固定されていない。電球をソケットにねじ込んだあと、ガラスを両手で持ち、上から台座とソケットカバーのすき間に差し込んで据える。電球を替えるときは、ガラスを持ち上げるだけでよく、工具を必要としない。

エピソード

着想の経緯は、マウラー自身の回想として伝えられている。仕事でヴェネツィアに滞在していたマウラーは、夕食を終えて簡素な宿に戻り、部屋を照らしていた裸電球に強く惹かれた。その夜のうちにランプをスケッチし、翌日、吹きガラスの工房が集まるムラーノ島で引き受け手を探して、覆いの最初の試作を1日半ほどで仕上げてもらったという。

完成したバルブは、当初は美術インスタレーションの一部として発表された。ニューヨーク近代美術館の音声ガイドで学芸員のジュリエット・キンチンは、このランプへの反響が大きく、その需要に応えることがマウラーに会社設立を促したと解説している。

バルブの系譜は、その後も同じ会社の中で続いた。乳白色のガラスを用いたバルブ・オパールと、大型のジャイアント・バルブがつくられたが、いずれも現在は生産を終えている。2016年には発表50年を記念し、マウラーとデザインチームが真鍮の台座とガラスへの文字入れを施した限定版を制作した。ハエの模型を添えた版が12台、文字のみの版が88台である。2020年には充電式で持ち運べる小型のb.bulbが、2021年には台座を真鍮に替えたバルブ・ブラスが、いずれもインゴ・マウラー・チームによって加えられた。

評価と影響

バルブは、マウラーがアメリカ滞在中に触れたポップ・アートとの関係で論じられることが多い。身近な日用品を拡大し、そのまま鑑賞の対象に据える手法が、同時代のポップ・アートの関心と重ねて見られるためである。

裸の電球はその後もマウラーの仕事に繰り返し現れる。1980年には樹脂製で大型のバルブ・バルブを発表し、1992年には電球に羽根を付けたルチェリーノを、1997年にはエジソンの名を題に含む「Wo bist Du, Edison,..?」を発表した。いずれも電球の形を器具の主題に据えており、バルブはその最初の例にあたる。

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、クーパー・ヒューイット=クーパー・ヒューイット・スミソニアン・デザイン・ミュージアム、MFA=ボストン美術館)。MoMAとクーパー・ヒューイットの収蔵品はデザイナー本人からの寄贈による。MFAは透明ガラスの仕様を「バルブ・クリア」の名で登録している。

  • MoMA バルブ(1966年) 収蔵番号 298.1999
  • クーパー・ヒューイット バルブ・ランプ(1966年) 収蔵番号 2008-16-1-a,b
  • MFA バルブ・クリア・ランプ(1966年設計) 収蔵番号 1974.623

基本情報

名称 バルブ / Bulb
デザイナー インゴ・マウラー(Ingo Maurer)
ブランド インゴ・マウラー(Ingo Maurer GmbH)
発表年 1966年
デザインの成立国 ドイツ
分類 テーブルランプ
主要素材 クロムめっきを施した金属(台座)、手吹きのクリスタルガラス(ムラーノ島製)
サイズ 高さ29.8cm、直径20cm(MoMA収蔵品の記録)
光源 頭頂部を鏡面処理した電球(当初は白熱電球100W、現行230V仕様はLEDフィラメント電球6.5W・2700Kが付属)
電源・ソケット 230V仕様:E27、電球付属/125V仕様(米国・日本向けプラグ):E26、電球別売
調光 230V仕様のLED電球は調光対応(調光器は別売)
コード 長さ200cm、中間スイッチ(ロッカースイッチ)付き
関連する仕様 バルブ・リミテッド(2016年、限定)、b.bulb(2020年、充電式)、バルブ・ブラス(2021年、真鍮台座)
生産終了の仕様 バルブ・オパール、ジャイアント・バルブ(オパール)
収蔵 MoMA(298.1999)、クーパー・ヒューイット(2008-16-1-a,b)、MFA(1974.623)

Reference