9090 エスプレッソコーヒーメーカー ── 機能から生まれた造形
「9090」は、Alessi(アレッシィ)が手がけた直火式エスプレッソメーカーである。Alessi にとって初のキッチンプロダクトであり、同社初のコンパッソ・ドーロ受賞作、さらにニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵された最初の Alessi 製品でもある。発表から半世紀近くを経た現在も生産が続けられ、コーヒー愛好家とデザイン愛好家の双方に長く支持されてきた、直火式エスプレッソメーカーの定番のひとつである。
設計者が「小さな蒸気機関」と呼んだこの製品は、従来のマキネッタ(直火式エスプレッソメーカー)が抱えていたねじ式開閉の煩わしさを、レバーロック機構という解法で克服した。拡張された底部による高い熱効率、液だれを防ぐ注ぎ口、そして120以上の工程を経て仕上げられる18/10ステンレスの鏡面が、この製品の性格を形づくっている。
デザインの特徴とコンセプト
9090には、マキネッタの概念を見直す数々の工夫が盛り込まれている。以下に、その主な特徴を挙げる。
レバーロック機構
従来のマキネッタは、ボイラー(下部)とサーバー(上部)をねじ込み式で結合する構造が一般的であった。9090はこれをハンドル一体型のレバーロック機構に置き換え、片手の操作で確実な密閉を実現している。この機構により、ねじ込み不足による蒸気漏れやコーヒーの溢れ出しといった問題が解消された。
円錐台形のボイラー
上方に向かって窄まる円錐台形のシルエットは、9090の造形上の特徴であると同時に、機能に根ざした形でもある。底部を広くとることで熱源との接触面積を大きくし、沸騰までの時間を短縮する。この形状はコンロ上での安定性にも寄与しており、底径の小さい従来のマキネッタで生じがちだった五徳上での不安定さを軽減している。
液だれ防止注ぎ口
注ぎ口は、注いだ後にコーヒーが外壁を伝って流れ落ちにくいよう設計されている。この工夫が、テーブルに直接持ち出して使う際の扱いやすさにつながり、9090をキッチンとダイニングテーブルの両方で使える製品にしている。
素材と仕上げ
本体には18/10ステンレススチール(クロム18%、ニッケル10%)が用いられている。この合金は耐食性と耐久性に優れ、長年の使用でも光沢を保ちやすい。ハンドルには火にかけた際にも熱くなりにくい素材が用いられている。イタリア・オメーニャの Alessi の工房において、120以上の工程を経て製造される。
誕生の背景
9090は、Alessi が本格的にキッチン分野へ参入する第一弾として、リチャード・サッパーの設計により生まれた。設計にあたっては、当時のAlessi社主の祖父であるアルフォンソ・ビアレッティ——イタリア式直火エスプレッソメーカーの草分けとして知られる——への敬意が込められたとも伝えられている。
完成した9090は、発表翌年の1979年にコンパッソ・ドーロを受賞した。これはAlessiにとって初の同賞受賞であり、同年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久デザインコレクションにも収蔵された(収蔵番号262.1979)。
評価
9090は、発表以来、直火式エスプレッソメーカーの定番として国際的に評価されてきた。機能に根ざした造形が、実用品でありながらデザイン作品としても認められる背景にある。MoMAの永久コレクションに収蔵されていることに加え、発表から40年以上を経た現在も基本設計を変えずに生産が続けられていること自体が、その完成度を示している。1カップ用から10カップ用までのサイズ展開があり、用途に応じて選べる点も長く使われ続ける理由のひとつである。
基本情報
| 名称(日本語) | 9090 エスプレッソコーヒーメーカー |
|---|---|
| 名称(英語) | 9090 Espresso Coffee Maker |
| デザイナー | Richard Sapper(リチャード・サッパー)/ ドイツ / 1932–2015 |
| デザイン年 | 1979年(設計は1978年) |
| ブランド | Alessi(アレッシィ)/ イタリア |
| 製造国 | イタリア(オメーニャ) |
| 素材 | 本体:18/10ステンレススチール(鏡面仕上げ)、ハンドル:鋳鉄、底面:マグネティックスチール(IH対応) |
| サイズ展開 | 1カップ用(9090/1)、3カップ用(9090/3)、6カップ用(9090/6)、10カップ用(9090/M) |
| 寸法(3カップ用) | 約 直径11cm × 高さ17.5cm |
| 寸法(6カップ用) | 約 直径12.5cm × 高さ20.5cm |
| 重量(3カップ用) | 約650g |
| 重量(6カップ用) | 約920g |
| 容量 | 1カップ:約70ml / 3カップ:約150ml / 6カップ:約300ml / 10カップ:約500ml |
| 対応熱源 | ガス、電気(ラジエントヒーター)、セラミック、IH(電磁調理器) |
| 主な受賞 | コンパッソ・ドーロ(1979年)、MoMA 永久コレクション収蔵(収蔵番号262.1979) |