概要

リチャード・サッパー(1932-2015)は、ドイツ出身でイタリアで活動したデザイナーである。1958年から1977年までマルコ・ザヌーソと共同で設計を行い、ブリオンヴェガのテレビやシーメンスの電話機を手がけた。1972年のティツィオは、腕そのものに電流を流して配線をなくした卓上灯である。1980年からはIBMの設計顧問を務めた。

バイオグラフィー

1932年5月30日、ドイツのミュンヘンに生まれた。ミュンヘン大学で哲学、解剖学、工学、経済学を学んでいる。

1956年からメルセデス・ベンツの設計部門に勤めた。1958年にイタリアへ移り、ジオ・ポンティの事務所を経てマルコ・ザヌーソと共同で設計を始めている。

1958年から1977年まで続いた協働で、ブリオンヴェガのテレビとラジオ、シーメンスの電話機、カルテルの子供用椅子などを設計した。

1972年にアルテミデのためティツィオを設計。1980年から2010年代までIBMの設計顧問を務め、ThinkPadの外形にも関わった。2015年12月31日に没している。

デザインの思想と方法

サッパーは工学と経済学を学んだ経歴を持つ。設計にあたっては、機構がどう成立するかを先に決め、そのうえで形を整えるという順序をとる。装飾を加える段階は存在しない。

構造そのものに電流を流す

ティツィオでは、腕の金属部材を導体として使い、電線を持たない。低電圧のため感電の危険がなく、配線が外に出ないので腕の断面を細くできる。関節部で電気的にも機械的にも接続するという構成にあたる。

釣り合いで位置を保つ

腕は錘との釣り合いで任意の位置に止まる。ばねを持たないため、指で軽く押すだけで動く。長い腕を細い断面で成立させるには、この方式が要る。

機器の姿を用途で切り替える

電子部品が小型化すると、筐体の寸法は回路の大きさから解放される。マルコ・ザヌーソとの協働では、この余地を持ち運びや収納といった使う側の条件に割り当てた。機器としての性能ではなく、置かれる場所が形を決めることになる。

操作の手順から形を決める

アレッシィの9090は、湯を沸かして注ぐという一連の動作から寸法と把手の位置を決めた直火式のコーヒー沸かしである。1979年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。

代表作にみる方法

ブリオンヴェガの電子機器(1962-1969年)

マルコ・ザヌーソとの共同設計による一連の製品である。いずれも電子部品の小型化によって外形の自由度が上がった時期にあたり、筐体の寸法は回路ではなく持ち運びや収納の条件から決められている。ドニー14では把手を、TS502では折り畳みの機構を、ブラック201では画面を消したときの面の連続を、それぞれ主要な条件とした。

グリッロ 電話機(1966年)

ザヌーソとの共同設計による折りたたみ式の電話機である。受話部を折り畳むと小さな塊になる。1967年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。ニューヨーク近代美術館が5点を収蔵している。

ティツィオ(1972年、アルテミデ)

腕の金属部材を導体として使い、電線を持たない卓上灯である。低電圧のため感電の危険がなく、腕の断面を細くできる。腕は錘との釣り合いで任意の位置に止まり、ばねを持たない。ニューヨーク近代美術館、V&A、メトロポリタン美術館が収蔵している。→ティツィオ

9090 エスプレッソメーカー(1978年、アレッシィ)

湯を沸かして注ぐという一連の動作から寸法と把手の位置を決めた直火式のコーヒー沸かしである。1979年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。ニューヨーク近代美術館が収蔵している(収蔵番号262.1979)。→9090 エスプレッソコーヒーメーカー

IBMの設計顧問(1980年〜)

1980年からIBMの設計顧問を務めた。1995年のThinkPad 701は、開くと本体より広い鍵盤が現れる構成をとる。ニューヨーク近代美術館が収蔵している(収蔵番号112.1996)。

評価と影響

サッパーは一般に、機構がどう成立するかを先に決め、そのうえで形を整える設計者と評価されている。ティツィオの「構造そのものに電流を流す」という構成が、その方法を最も明確に示す。

1958年から1977年までのマルコ・ザヌーソとの協働では、家電と事務機器の分野に多数の製品を残した。作品は連名で発表されている。

1980年から30年以上IBMの設計顧問を務めた。イタリアの家具・照明メーカーと、アメリカの情報機器メーカーの双方に関わる立場になる。

受賞・収蔵

受賞

  • コンパッソ・ドーロ賞を複数回受賞(1967年 グリッロ、1979年 9090 ほか)

収蔵

4館のAPI(MoMA、V&A、Met、AIC)で照合したところ、計32件が確認できた。マルコ・ザヌーソとの共同名義で登録されているものを含む。以下は主要なものの抜粋である。

  • MoMA ラムダ チェア(1959年) 収蔵番号 369.1989
  • MoMA ドニー14 テレビ(1962年) 収蔵番号 481.1970
  • MoMA ラジオ モデルTS502(1963年) 収蔵番号 483.1970.1-2
  • MoMA ナイフシャープナー(1963年) 収蔵番号 426.1972
  • MoMA アルゴル11 テレビ(1964年) 収蔵番号 571.1970
  • MoMA グリッロ 折りたたみ電話機(1966年) 収蔵番号 1238.1968.1-5
  • MoMA ブラック201 テレビ(1969年) 収蔵番号 482.1970
  • MoMA ロケット 電子時計(1971年) 収蔵番号 197.1973.1-2
  • MoMA ミニタイマー(1971年) 収蔵番号 334.1977
  • MoMA ティツィオ テーブルランプ(1971年) 収蔵番号 198.1973
  • MoMA 9090 エスプレッソメーカー(1978年) 収蔵番号 262.1979
  • MoMA ThinkPad 701(1995年) 収蔵番号 112.1996
  • V&A ティツィオ(1971-72年) 収蔵番号 CIRC.505-1973
  • V&A ブラック201 テレビ(1969年) 収蔵番号 CIRC.5:1, 2-1974
  • V&A ラ・チントゥーラ・ディ・オリオーネ(1986年) 収蔵番号 M.26-1990
  • Met ティツィオ テーブルランプ(1972年) 収蔵番号 1988.236.10
  • Met タンタロ 時計(1960年代後半-70年代) 収蔵番号 1988.236.4
  • AIC ラジオ モデルTS502(1963年) 収蔵番号 2015.605
  • AIC IBM PC コンバーチブル(1986年) 収蔵番号 2012.681

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド
1962年 テレビ ドニー14(ザヌーソと共同) Brionvega
1963年 ラジオ TS502(ザヌーソと共同) Brionvega
1964年 椅子 K1340 子供用椅子(ザヌーソと共同) Kartell
1966年 電話機 グリッロ(ザヌーソと共同) Siemens / Italtel
1969年 テレビ ブラック201(ザヌーソと共同) Brionvega
1971年 時計 ミニタイマー、ロケット Terraillon / Ritz-Italora
1972年 照明 ティツィオ Artemide
1978年 什器 9090 エスプレッソコーヒーメーカー Alessi
1986年 照明 ラ・チントゥーラ・ディ・オリオーネ Alessi
1995年 情報機器 ThinkPad 701 IBM
1980年代〜 情報機器 IBMの設計顧問 IBM

プロフィール

生没年 1932年5月30日〜2015年12月31日
出身地 ドイツ・ミュンヘン
国籍 ドイツ
活動拠点 ミラノ
分野 照明、家電、情報機器、什器
主な協働ブランド Artemide、Alessi、Brionvega、IBM

Reference

Richard Sapper(公式アーカイブ)
https://www.richardsapperdesign.com/
Richard Sapper | Artemide
https://www.artemide.com/en/designers
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2325
The Metropolitan Museum of Art Collection
https://www.metmuseum.org/art/collection