Tizio(ティツィオ)は、ドイツ出身の巨匠デザイナー、リチャード・サッパーが1972年にイタリアの照明メーカーArtemide(アルテミデ)のためにデザインした革命的なデスクランプである。発表から半世紀を経た現在もなお、世界中のオフィスや住宅で愛用される現代照明デザインの金字塔として、その地位を揺るぎないものとしている。
Tizioは、その大胆なフォルムと卓越した機能性により、デザイン界に衝撃を与えた。1979年にはイタリア最高峰のデザイン賞であるコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)およびメトロポリタン美術館の永久コレクションに選定されるなど、20世紀を代表するインダストリアルデザインの傑作として高く評価されている。
デザインの特徴とコンセプト
革新的な構造システム
Tizioの最も顕著な特徴は、カウンターウェイトシステムによる完璧なバランス機構にある。2本の平行なアームと2つの精密に計算された重りにより、ランプは90度から180度まで自在な角度調整が可能となっている。この機構により、使用者は片手で軽く押したり引いたりするだけで、ランプヘッドを望む位置に正確に配置でき、ネジやファスナーで固定する必要なく、その場でぴたりと静止する。
リチャード・サッパー自身が語るところによれば、Tizioの着想は石油掘削装置から得られたという。工業用重機のような力強いフォルムは、まさに機能が形態を決定するという近代デザインの理念を体現している。初期の試作段階では、サッパーはジャム瓶に水を入れて重さを調整し、完璧なバランスポイントを見出したというエピソードが残されている。
電気配線の革新
Tizioのもう一つの革新的要素は、外部配線を完全に排除したその構造にある。従来のデスクランプでは不可欠であった電源コードが、Tizioには存在しない。ベース部分に内蔵されたトランスフォーマーにより、電圧を220Vから安全な12Vに降圧し、その低電圧電流をアーム自体が伝導する。アーム間の接続部は、構造的な機能を果たすと同時に電気的な接点としても機能する精巧な押しボタン式ジョイントとなっている。
この設計により、Tizioは視覚的な純粋性を獲得し、同時にランプの可動性を阻害する要素を完全に排除することに成功した。万が一転倒した場合でも、ジョイント部分が外れることで破損を防ぐという安全設計も組み込まれている。
光源の革新的採用
Tizioは、照明器具として初めて自動車産業以外でハロゲンランプを本格的に採用した製品の一つである。当時としては画期的であったこの選択により、小型かつ高効率の光源が実現し、ランプヘッドの極限までのコンパクト化が可能となった。小型リフレクターと組み合わせることで、Tizioは高度に集中した指向性の高い光を提供し、デスクワークに理想的な照明環境を創出している。
光量は2段階に調整可能であり、作業の性質に応じて最適な明るさを選択できる。この機能的配慮もまた、サッパーの実用主義的デザイン哲学の表れである。
デザインの背景とエピソード
リチャード・サッパーがTizioをデザインした直接の動機は、極めて個人的なものであった。彼自身が語るところによれば、「私は小さなヘッドと長いアームを持つ作業用ランプを求めていた。机にクランプで固定するのは煩わしいし、簡単に動かせるものが欲しかった」という実用的な必要性から、このプロジェクトは始まった。デザイナー自身の理想を追求した結果が、普遍的な傑作を生み出したのである。
「Tizio」という名称は、Artemide創業者のエルネスト・ジスモンディによって命名された。これは「Tizio, Caio e Sempronio」というイタリア語の慣用句に由来する。この表現は英語の「Tom, Dick and Harry」に相当し、「誰でも」「普通の人々」を意味する。ジスモンディは、この革新的なランプがあらゆる人々に愛用されることを願い、この名を選んだとされる。もう一つの説としては、ジスモンディがサッパーに続編となる「Caio」と「Sempronio」もデザインするよう説得する意図があったともいわれている。
発売当初、Tizioは市場に存在する他のいかなる照明とも異なる外観を持っていた。ブラックの本体に幾何学的なフォルム、そしてミニマリスティックで謎めいた雰囲気は、まさに革命的であった。1980年代初頭のウォール街の好景気時代に、その洗練された外観が若きビジネスエリートたちの支持を獲得し、商業的にも大成功を収めた。エグゼクティブのオフィスや成功者の住居に置かれることで、Tizioはハイテクデザインのアイコンとしての地位を確立していった。
1990年代には、デンマーク政府の安全規制に対応するため、ランプヘッドに赤い球体が付いた細い棒が追加された。これは、ランプヘッドが支持面に直接触れることを防ぎ、熱による表面の損傷を回避するための装置である。この赤いアクセントは、機能的必要性から生まれたものでありながら、Tizioの視覚的アイデンティティの一部となっている。
評価と影響
Tizioは発表以来、照明デザインの分野において計り知れない影響を及ぼしてきた。その成功の要因は、単に美しい外観にあるのではなく、形態と機能の完璧な統合にある。「形式は機能に従う」という近代デザインの原則を、Tizioは見事に体現している。あらゆる角度から見ても調和の取れた美しさを持ち、同時にいかなる位置でも極めて正確に光を配置できるという実用性を備えている。
デザイン史家たちは、Tizioを20世紀後半のポストモダンデザインにおける重要な作品の一つとして位置づけている。ハイテク美学とイタリアンデザインの優雅さを融合させたその姿は、1970年代から80年代にかけてのデザイン潮流を象徴するものとなった。
Artemideにとって、Tizioは同社の歴史における最も重要な製品の一つである。半世紀にわたるロングセラーとして、世界中で数百万台が販売され、同社の名声を確固たるものとした。現在でも、Artemideを代表する製品としてカタログの中心的位置を占めている。
デザイン界における権威ある評価として、TizioはArtemideのみならずイタリアンモダンデザインを代表するプロダクトとして、数多くの美術館や教育機関で参照されている。その影響は照明デザインの領域を超え、インダストリアルデザイン全般における技術と美の調和の模範として、今日も研究され続けている。
受賞歴
- コンパッソ・ドーロ賞(Compasso d'Oro)- 1979年
- 第15回ミラノ・トリエンナーレ グランプリ(Grand Prix Triennale XV)- 1974年
- 第15回ミラノ・トリエンナーレ 金賞(Gold Medal Triennale XV)- 1974年
- リュブリャナ国際産業デザインビエンナーレ(BIO 9)金賞 - 1981年
製品バリエーション
Tizioは発表以来、様々なバリエーションが展開されてきた。オリジナルモデルであるTizio 50(ハロゲン電球50W仕様)を基本として、より小型のTizio 35(35W)、さらにコンパクトなベッドサイドランプとしても使用できるTizio Micro(20W)が開発された。また、フロアランプ版のTizio Terraも製造されており、70センチメートルの台座にTizioを組み合わせた構成となっている。
2008年には、環境配慮と省エネルギー化の要請に応える形で、LED光源を採用したTizio LED版が発表された。LED版は従来のハロゲンランプの赤い球体付きロッドを持たず、調光機能を備えた緑色のスイッチによって区別される。8W(60W電球相当)のLEDを搭載し、低消費電力でありながらデスクワークに十分な光量を提供している。
カラーバリエーションとしては、最も広く知られるブラックのほか、ホワイト、グレーメタリックが展開されている。また、限定版として磨き上げられたアルミニウム仕上げやチタンカラーのモデルも製作されてきた。2002年には発表30周年を記念して、デザイナー自身のサインと番号が入った特別版「Tizio X30」が全面クロームメッキ仕上げで製造された。2022年には50周年記念として、サッパーが好んだレッドカラーの特別版が発表されている。
基本情報
| 製品名 | Tizio(ティツィオ) |
|---|---|
| 分類 | デスクランプ/タスクライト |
| デザイナー | Richard Sapper(リチャード・サッパー) |
| 製造 | Artemide S.p.A.(アルテミデ) |
| デザイン年 | 1972年 |
| 主要素材 | アルミニウム塗装仕上げ、ABS樹脂、亜鉛合金(カウンターウェイト)、クロームメッキ鋼(アームスペーサー) |
| サイズ(Tizio 50) | 最大高さ119cm×最大幅108cm、ベース直径11cm |
| 光源 | ハロゲン電球 G4 12V 50W(オリジナル)/LED 8W(LED版) |
| 電圧 | 12V(ベース内トランスフォーマーにより降圧) |
| 原産国 | イタリア |