ル・バンボーレ ― 巨大なクッションが変えたソファの姿

1972年、マリオ・ベリーニは「ソファとは何か」という問いに対し、ひとつの明快な答えを示した。ル・バンボーレ(Le Bambole)である。B&Bイタリア(発表当時はC&Bイタリア)から発表されたこのシーティングコレクションは、支持構造の存在を感じさせない有機的なフォルムと、身体を包み込む座り心地によって、張り地を用いた家具の新しいあり方を示した。イタリア語で「人形たち」を意味するその名の通り、ふくよかで愛らしいシルエットは、半世紀を経た今日もイタリアンデザインを代表する存在として知られている。

特徴・コンセプト

ル・バンボーレの特徴は、荷重を支える構造体が外観からは感じられない点にある。初期モデルでは金属フレームをポリウレタンフォームの内部に埋め込む構造を採り、外から見ると大きなクッションを自由に積み重ねたかのような造形を実現した。「布で覆うのではなく、布で構築する」という発想のとおり、張り地は単なる被覆材ではなく、内部のフォームとともに構造の一部を担っている。縦方向のエッジに配された弾性メンブレンが形態と布地を結びつけ、荷重と反力の均衡を保つことで、見た目の柔らかさと実際の座り心地を両立させている。

その造形には、1970年代初頭のイタリア社会に広がった自由な気運が映し出されている。従来のソファが備えた端正な佇まいや規範的なフォルムから離れ、ル・バンボーレは寛ぎと遊び心、そして身体の自然な動きに寄り添うことを優先した。大きなクッションを無造作に並べたかのような外観は、当時の暮らしの変化と呼応する、住まいにおける新しい自由の表現であった。

エピソード

オリヴィエーロ・トスカーニによる広告キャンペーン

ル・バンボーレの発表に際しては、写真家オリヴィエーロ・トスカーニによる広告キャンペーンが展開された。アンディ・ウォーホルのファクトリーで活躍したモデル、ドナ・ジョーダンがソファの傍らで大胆にポーズをとる姿が撮影され、そのイメージは1970年代の記憶に強く刻まれた。挑発的な表現ゆえに一部で問題視されたが、かえって話題を呼び、その後もデザイン誌や展覧会で繰り返し紹介されることになった。この広告は家具のコミュニケーションのあり方に影響を与えた例として知られている。

50周年を機とした刷新

2022年、発表から50年を迎えるにあたり、サステナビリティを軸とした刷新が行われた。新版ではリサイクルポリエチレンによる構造体を採用し、接着剤を用いない組み立て方式によって、パーツを分解してリサイクルできる設計となった。あわせて、ファッションデザイナーのステラ・マッカートニーとのコラボレーションによる限定版も発表され、100%生分解性のポリエステル生地が用いられた。

評価

ル・バンボーレは、張り地を用いた家具の考え方を大きく変えた作品として、デザイン史のなかで高く評価されている。支持構造を視覚的に消し、クッションそのものを製品の核として示す手法は、1970年代のイタリアンデザインにおける実験的な姿勢を示すものであった。1979年にはコンパッソ・ドーロを受賞し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションにも収蔵されている。

50年以上にわたりB&Bイタリアのカタログに掲載され続けていることも、このデザインが長く支持されてきたことを物語っている。時代ごとにフォルムの調整が加えられながらも、柔らかさ、温もり、そして自由な雰囲気というル・バンボーレの性格は一貫して受け継がれている。

コレクション構成

ル・バンボーレは、多様な空間に対応するコレクションとして展開されている。主なラインナップは以下の通りである。

バンボーラ(Bambola)
アームチェア。コレクションの基本となる一人掛け。
ビバンボーラ(Bibambola)
二人掛けソファ。コレクション初期からの中核モデル。
グランバンボーラ(Granbambola)
三人掛けソファ。50周年を機に加わった、より大型のモデル。
バンボレット(Bamboletto)
ダブルベッド。ル・バンボーレの有機的な造形をベッドへと展開したモデル。

基本情報

名称 ル・バンボーレ / Le Bambole
デザイナー マリオ・ベリーニ(Mario Bellini, 1935年– / イタリア・ミラノ)
ブランド B&Bイタリア(B&B Italia)※発表当時はC&Bイタリア
発表年 1972年
分類 ソファ / シーティングコレクション
構造(現行モデル) リサイクルポリエチレン成形フレーム、ポリウレタンフォーム、熱可塑性エラストマー、ポリエステルファイバー
張地 ファブリック(Sila、Manila等)、レザー(Kasia等のフルグレインレザー)
受賞歴 1979年 コンパッソ・ドーロ
美術館収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)コレクション
製造国 イタリア