概要
高濱和秀(1930-2010)は、日本出身でイタリアで活動したデザイナーである。東京工業大学で建築を学び、1957年のミラノ・トリエンナーレを機にイタリアへ渡った。以後、ボローニャを拠点に照明と家具を設計している。面と線を最小限の要素で構成し、装飾を持たない形をとる。
高濱和秀(Kazuhide Takahama、1930-2010)は、日本に生まれイタリアで生涯の仕事をした建築家・デザイナーである。1957年のミラノ・トリエンナーレで家具製造業者ディーノ・ガヴィーナと出会い、以後ボローニャを拠点に、ガヴィーナ、シモン・インターナショナル、シッラ、B&Bイタリアといったイタリアの企業のために家具と照明を設計した。トゥルー、アンテッラ、ガヤはカッシーナの現行品として、カズキやサオリはネモの「The Masters」コレクションとして、今日も生産が続いている。
バイオグラフィー
1930年、宮崎県延岡市に生まれる。東京工業大学で建築を学び、1953年に卒業した。卒業後は建築家カズオ・フジオカ(Kazuo Fujioka)の事務所に加わり、戦後の住宅設計に携わっている。27歳で母校の講師となった。
転機は1957年に訪れた。第11回ミラノ・トリエンナーレに日本が初めて参加した際、日本館の会場構成を監督する役目を任され、イタリアへ渡ったのである。この会期中に、ボローニャ近郊で家具製造を営むディーノ・ガヴィーナ(1922-2007)と出会った。マルセル・ブロイヤーの作品の復刻やアキッレ・カスティリオーニとの協働で知られ、後にフロスやウルトラモビレ、パラディーゾテレストレを興すことになる人物である。帰国を前に、高濱はガヴィーナのためにナエコと名づけたソファを設計した。妻の名を冠したこの作品が、量産され市場に出た最初の設計となる。
帰国後は大学で教えながら建築とデザインの仕事を続けたが、ガヴィーナとの往復は途切れず、やがて移住を勧められる。1963年、妻ナエコと長女カオリをともなってボローニャに居を定めた。以後はサン・ラッザロの工場で家具と照明の設計にあたり、ガヴィーナの周辺に集まっていた造形作家や建築家との交流のなかで、自身の造形言語を練り上げていった。
1968年、ガヴィーナは自社ガヴィーナ社をノル・インターナショナルへ売却し、マリア・シモンチーニとともにシモン・インターナショナルを新たに設立する。高濱の仕事はこの二つの流れに引き継がれ、スザンヌ系のソファはノルのカタログへ、トゥルー以降の家具はシモンのカタログへと収まった。シモンは2013年にカッシーナが取得し、高濱の家具は現在もカッシーナの現行コレクションに残っている。2010年2月10日、ボローニャで没した。
デザインの思想とアプローチ
高濱の家具は、輪郭を決める線が少ない。座面と背、脚と枠といった要素をできるだけ単純な幾何に還元し、装飾になりうる部分を先に削っていく手つきが共通している。日本で身につけた造形の抑制と、イタリアで触れた合理主義の構成が、そのまま一つの形に重なった仕事だと評されることが多い。
構法への関心も強かった。トゥルーでは、金属管を曲げて枠をつくる通例に対し、細い丸棒を電気誘導溶接してからクロームメッキするという方法を採っている。管を曲げるより小さな半径の曲線が得られ、複数の溶接ヘッドを使うことで一工程での製作が可能になった。造形上の要求が製法の選択を導き、その製法がさらに造形を規定するという往復が、彼の家具にはしばしば見て取れる。
素材の扱いでは、漆を思わせる塗装仕上げを繰り返し用いた。アンテッラやブラマンテのポリエステル塗装は、日本の漆器の質感を工業製品の表面として翻案したものである。照明では、アルミの枠に伸縮性のある布を張り、和紙の障子が果たしていた役割を別の材料に置き換えている。伝統的な形式をそのまま持ち込むのではなく、その形式が担っていた機能を取り出して現代の材料に移す、という手続きが一貫している。
寡黙な人柄で知られ、周囲からは「石の人」と呼ばれていたという。まとまった発言や著述はほとんど残されておらず、その仕事は主に作品を通して伝えられている。
主な代表作
マルセル / レイモンド / スザンヌ(1965年)
ポリウレタンフォームのブロックを金具で連結し、組み合わせを変えられるようにした一連の座具である。名称はマルセル・デュシャンと、その兄レイモンド・デュシャン=ヴィヨン、妹シュザンヌ・デュシャンに由来する。デュシャンを敬愛したガヴィーナの周辺で生まれた命名であり、1967年にはガヴィーナとともにボローニャでデュシャンにちなむ活動拠点を立ち上げてもいる。三つのうちスザンヌは長く生産が続き、ガヴィーナ社を取得したノルのカタログにも残った。
トゥルー(1968年)
ディーノ・ガヴィーナのシモン社の依頼で設計されたスタッキングチェアである。細い丸棒を電気誘導溶接して構成したフレームにクロームメッキを施し、座と背にはフォームのパッドを取り付ける。管を曲げる代わりに棒を溶接するという選択が、鋭い曲率と細身の輪郭を可能にした。カッシーナがシモンを取得した後に生産方法が見直され、座面に熱成形材と弾性ベルトを加える、カバーをファスナーで着脱できるようにするといった改良が加えられている。
アンテッラ(1974年)
半円形の天板二枚を蝶番でつないだテーブルである。閉じると壁に寄せるコンソール、開くと楕円のダイニングテーブルになる。閉じた状態はマグネットで保持される。折り紙のような操作で用途が切り替わる構成に、漆器を思わせるポリエステル塗装の表面が組み合わされている。この塗装はシモンのコレクションの他の製品にも用いられた手法である。
ガヤ(1978年)
小さなレストランのために作られた椅子が、そのまま製品化されたものである。アーク溶接したクロームメッキの鋼管による開放的な枠組みを持ち、軽く、積み重ねられる。パッドは柔軟性のあるポリウレタンフォームで、張地は布と革が選べる。カウンター用にスツール版のガヤ・バーも用意されている。
カズキ / サオリ / カオリ
シッラのために設計された照明群で、アルミの枠に白い伸縮性のある布を張った構成を共有する。東洋の伝統的な照明が用いてきた和紙を布に置き換えることで、面全体から拡散する光を得ている。枠は布の張力によって形を保ち、構造体がそのまま器具の輪郭になる。名称はいずれも高濱の家族の名前から取られた。シッラの照明資産は後にネモへ引き継がれ、現在は同社の「The Masters」コレクションとして生産されている。
シリオ(1977年)
シッラのためのハロゲン照明である。艶消しの塗装を施した金属の骨組みに可動式のリフレクターを組み合わせ、スイッチが調光を兼ねる。ウォール、シーリング、フロアの各形式が展開された。ジュリアーナ・グラミーニャの『Repertorio del Design Italiano 1950-2000』に1977年の作として収載されている。
評価と影響
高濱の仕事は、日本人デザイナーの海外進出という文脈で語られることが多いが、実態はやや異なる。彼はイタリアの製造業の内側に入り、その生産技術と流通を前提として設計を続けた。ガヴィーナ、シモン、シッラ、B&Bイタリアという取引先の顔ぶれは、いずれもイタリア国内で完結する体制であり、日本市場を意識した仕事ではなかった。
そのためか、生前の日本での知名度は限られていた。近年になって、カッシーナがシモンの資産を引き継いだこと、ネモがシッラの照明を再生産したことにより、彼の設計は再び市場に出るようになっている。ヴィンテージ市場でも、ガヴィーナ期およびシモン期の作品への評価が上がっている。
作品に共通するのは、材料と製法の選択が形の説明になっているという性格である。トゥルーの溶接、アンテッラの蝶番とマグネット、カズキの張り布は、いずれも構成の要点がそのまま外形に現れている。装飾を加えずに輪郭だけで成立させるという方法は、後の世代のミニマルな家具設計にも通じる考え方として参照されている。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館)。
- MoMA サギ ラウンジチェア(1972年) 収蔵番号 471.1974
V&A、Met、AIC では該当する収蔵は確認できなかった。日本・イタリア国内の館については照合手段がない。
作品一覧
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1950年代後半 | ソファ | ナエコ / Naeko | Gavina |
| 1965年 | ソファ・椅子 | マルセル / Marcel | Gavina |
| 1965年 | ソファ・椅子 | レイモンド / Raymond | Gavina |
| 1965年 | ソファ・椅子 | スザンヌ / Suzanne | Gavina(後にKnoll) |
| 1968年 | 椅子 | トゥルー / Tulu | Simon International(現Cassina) |
| 1970年代 | 棚 | オリント / Olinto | B&B Italia |
| 1970年代 | 照明 | カズキ / Kazuki | Sirrah(現Nemo Lighting) |
| 1970年代 | 照明 | サオリ / Saori | Sirrah(現Nemo Lighting) |
| 1970年代 | 照明 | カオリ / Kaori | Sirrah(現Nemo Lighting) |
| 1970年代 | キャビネット | ブラマンテ / Bramante | Simon International(現Cassina) |
| 1974年 | テーブル・コンソール | アンテッラ / Antella | Simon International(現Cassina) |
| 1974年 | ソファ・椅子 | マンティーリャ / Mantilla | Paradisoterrestre |
| 1977年 | 照明 | シリオ / Sirio | Sirrah |
| 1978年 | 椅子 | ガヤ / Gaja | Simon International(現Cassina) |
| 1978年 | スツール | ガヤ・バー / Gaja Bar | Simon International(現Cassina) |
| 1983年 | ローテーブル | ジューナ / Djuna | Cassina |
プロフィール
| 生没年 | 1930年〜2010年 |
|---|---|
| 出身地 | 日本 |
| 国籍 | 日本 |
| 活動拠点 | ボローニャ、イタリア |
| 分野 | 照明、家具 |
| 主な協働ブランド | Nemo Lighting、Cassina、Knoll、B&B Italia |
Reference
- Kazuhide Takahama | Biography and products | Designer | Cassina
- https://www.cassina.com/ww/en/contemporanei/kazuhide-takahama.html
- Tulu Chair - Innovative Design by Kazuhide Takahama | Cassina
- https://www.cassina.com/gb/en/products/tulu.html
- Kazuhide Takahama | Architect and designer - Paradisoterrestre
- https://paradisoterrestre.it/product_designer/kazuhide-takahama/
- Kazuhide Takahama - Wikipedia(イタリア語版)
- https://it.wikipedia.org/wiki/Kazuhide_Takahama
- Kazuhide Takahama - USA - NEMO LIGHTING
- https://www.nemolighting.com/usa/en/designer/kazuhide-takahama/
- Kazuki 2 (1975) - Kazuhide Takahama, Sirrah | Objects | M+
- https://www.mplus.org.hk/en/collection/objects/kazuki-2-2017275/
- Revisiting the Poetic Work of Kazuhide Takahama - Sight Unseen
- https://www.sightunseen.com/2023/03/revisiting-the-poetic-work-of-japanese-born-italian-by-choice-designer-kazuhide-takahama/