概要
ジョージ・ネルソン(1908-1986)は、アメリカの建築家・デザイナー・著述家である。1947年から1972年までハーマンミラーのデザインディレクターを務め、製品の設計に加えて、外部の設計者を起用する役割を担った。チャールズ・イームズ、イサム・ノグチ、アレキサンダー・ジラードを同社に迎えたのは彼である。自身の設計ではプラットフォームベンチ、ココナッツチェア、ボールクロック、バブルランプなどを残した。
バイオグラフィー
1908年5月29日、コネチカット州ハートフォードに生まれた。イェール大学で建築を学び、1928年に学士号、1931年に美術学士号を得ている。1932年にローマ賞を受け、アメリカン・アカデミー・イン・ローマで2年間を過ごした。
ローマ滞在中にヨーロッパを回り、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエ、ヴァルター・グロピウス、ジオ・ポンティら12名に取材した。連載は雑誌『Pencil Points』に掲載され、ヨーロッパの動向をアメリカへ伝える役割を果たしている。1935年から1943年まで『Architectural Forum』誌の編集に携わった。
1944年、ヘンリー・ライトとの共著『Tomorrow's House』の執筆中に、壁の厚みを収納に使う「ストレージウォール」を構想した。翌1945年に同書が刊行され、『Life』誌で取り上げられている。この記事を見たハーマンミラー創業者D.J.デプリーの招きで、1945年に最初のコレクションを担当し、1947年にデザインディレクターへ就任した。
1947年にニューヨークで自身の事務所を開き、1955年に George Nelson Associates として法人化した。最盛期には50名以上が在籍し、家具のほか展示、食器、企業ロゴ、パッケージまでを扱っている。1959年にはモスクワのアメリカ国立博覧会で主任設計者を務めた。1986年3月5日、ニューヨークで没した。
デザインの思想と方法
ネルソンは自分の役割を、物をつくることと、つくる人を選ぶことの両方に置いた。ハーマンミラーでの立場がこれを可能にし、自社の設計者を抱え込むのではなく外部の設計者を起用するという方針をとっている。この判断が、同社の製品構成を決めた。
収納を建築の側に置く
ストレージウォールは、家具として床に置く収納ではなく、壁の厚みそのものを収納にするという構想である。部屋の面積を減らさずに収納量を確保できる一方、住宅の側に条件を課す。家具の設計を建築の設計の一部として扱うという立場が、最初期の仕事にすでに現れている。この考え方は1959年のCSSへ引き継がれた。
構造を隠さない
プラットフォームベンチは、木の板を隙間をあけて並べただけの構成をとる。仕上げ材で覆わないため、部材の並びと接合がそのまま見える。隙間があることで視線と光が抜け、体積の割に軽く見える。装飾を加えないという方針が、加工工程の少なさと結果的に一致している。
基本形から始める
時計の一群では、球・棒・円板といった単純な形を組み合わせて文字盤をつくる。数字を持たないため、目盛りの位置は部材の配置だけで示される。ボールクロックの放射状の構成も、時刻を読む機能と造形が同じ要素で成立している例にあたる。
外部の設計者を起用する
デザインディレクターとして、ネルソンは1940年のニューヨーク近代美術館の競技で見たイームズを同社に招き、ノグチ、ジラードを加えた。自身の事務所の製品も George Nelson Associates 名義で発表され、個々の担当者名は表に出ない体制をとっている。マシュマロソファを実際に手がけたのはアーヴィング・ハーパー、ココナッツチェアはジョージ・ムルハウザーである。
ハーマンミラーの歴史や他の製品について詳しくはハーマンミラー ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
プラットフォームベンチ(1946年)
木の板を隙間をあけて並べ、脚で持ち上げただけの構成である。座る・物を置く・収納の台にするといった複数の用途に使え、用途を一つに決めない。仕上げ材を持たないため、部材と接合がそのまま外形になる。1967年に一度生産が止まり、1994年に再開された。→ネルソン プラットフォームベンチ
バブルランプ(1947-1952年)
金属の枠に樹脂を吹き付けて半透明の膜をつくる照明である。型を使わずに柔らかい輪郭の拡散面が得られるため、球・皿・葉巻など複数の形を同じ工法で作れる。輸入品の絹張りの照明を代替するという条件から出発しており、材料と工法の選択が形の範囲を決めている。→ネルソン バブルランプ
ボールクロック(1949年)
中心から放射する12本の棒の先に球を置いた時計である。数字も文字盤の面も持たず、球の位置だけが目盛りとして働く。読み取りに必要な最小限の要素まで減らした結果として、この形になっている。ハワード・ミラー・クロック社から発売された。→ボールクロック
ココナッツチェア(1955年)
三角形の殻を細い鋼管で支える椅子である。殻を身体より一回り大きくとることで、正面を向いて座るほかに斜めに寄りかかる姿勢も成立する。三点で支えるため、床に接する部材が少なく、体積の割に床が見通せる。設計は George Nelson Associates のジョージ・ムルハウザーによる。→ココナッツチェア
CSS(1959年)
ストレージウォールの考え方を製品にした収納システムである。床と天井のあいだに立てたアルミの支柱に、棚やキャビネットを取り付ける。壁面に固定せず、必要な位置と量を後から変えられるため、住宅にも事務所にも使える。→CSS コンプリヘンシブ・ストレージ・システム
評価と影響
ネルソンは一般に、戦後アメリカのデザインを方向づけた人物の一人と評価されている。自身の設計に加えて、ハーマンミラーにイームズ、ノグチ、ジラードを迎え入れた起用の判断が、同社の位置づけを決めたという点が繰り返し言及される。
事務所名義でのクレジットについては議論がある。マシュマロソファを設計したアーヴィング・ハーパーは、後年、自身の関与が知られないことへの複雑な思いを述べている。当時の慣行を反映したものだが、集団での設計と個人の帰属という問題を示す例として扱われる。
1960年代のアクションオフィスは、ロバート・プロプストの構想を George Nelson Associates が実現したものである。後継のアクションオフィスIIが事務所の間仕切りとして普及すると、ネルソンはこれを労働環境の面から批判し、自身との関わりを否定した。約7,400点の資料はヴィトラ・デザイン・ミュージアムに収められている。
受賞・収蔵
受賞
- 1932年 ローマ賞
- 1953年 ニューヨーク・アートディレクターズクラブ ゴールドメダル
- 1964年 アルコア賞(アクションオフィスIに対して)
- 1965年・1982年 アスペン国際デザイン会議 議長
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA モバイルテーブル(1949年頃) 収蔵番号 219.1953
- MoMA トレイテーブル(1948年) 収蔵番号 296.1984
- MoMA アスタリスク ウォールクロック(1950年) 収蔵番号 1273.2018
- MoMA ボール ウォールクロック(1952年頃) 収蔵番号 1276.2018
- MoMA ファン ウォールクロック(1954年頃) 収蔵番号 1275.2018
- MoMA スポーク クロック(1955年) 収蔵番号 1274.2018
- MoMA スリングソファ(1963年) 収蔵番号 576.1963
- V&A テキスタイル「チップス」(1950年) 収蔵番号 CIRC.136-1950
- V&A テキスタイル「ペインテッド・デザート」(1954年) 収蔵番号 CIRC.146-1954
- Met プレッツェルチェア(1952年) 収蔵番号 1984.558
- Met CSS モジュラー収納システム(1950年代) 収蔵番号 1985.427.1-17
- AIC プラットフォームベンチ(1946年設計) 収蔵番号 1978.141
- AIC バスケット ウォールクロック(1952年設計) 収蔵番号 2016.437
- AIC ココナッツチェア(1955年) 収蔵番号 1986.35
- AIC スワッグレッグ アームチェア(1956年設計) 収蔵番号 1984.1389
- AIC ボールクロック(1948-69年) 収蔵番号 1999.678
- AIC アクションオフィス 壁掛けデスク(1964年) 収蔵番号 2001.434
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1944年 | 収納 | ストレージウォール(構想) | — |
| 1946年 | ベンチ | ネルソン プラットフォームベンチ | Herman Miller / Vitra |
| 1947年 | 照明 | ネルソン バブルランプ | Howard Miller / Herman Miller |
| 1948年 | 時計 | クロノパック | Howard Miller |
| 1949年 | 時計 | ボールクロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年 | 時計 | アスタリスク クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年代 | 時計 | サンバースト クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年代 | 時計 | アイ クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年代 | 時計 | ペタル クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年代 | 時計 | タービン クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年代 | 時計 | スター クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1950年代 | 時計 | ステアリングホイール クロック | Howard Miller / Vitra |
| 1952年 | 椅子 | プレッツェルチェア | Herman Miller |
| 1954年 | ベッド | ネルソン・シンエッジ・ベッド | Herman Miller |
| 1955年 | 椅子 | ココナッツチェア | Herman Miller / Vitra |
| 1956年 | ソファ | マシュマロソファ | Herman Miller / Vitra |
| 1958年 | デスク | スワッグレッグデスク | Herman Miller |
| 1958年 | デスク | ホームデスク モデル4658 | Herman Miller |
| 1959年 | 収納 | CSS コンプリヘンシブ・ストレージ・システム | Herman Miller |
| 1963年 | ソファ | スリングソファ | Herman Miller |
| 1964年 | オフィス家具 | アクションオフィス デスク | Herman Miller |
| 1964年 | オフィス家具 | アクション・オフィス・ロールトップ・デスク | Herman Miller |
プロフィール
| 生没年 | 1908年5月29日〜1986年3月5日 |
|---|---|
| 出身地 | アメリカ・コネチカット州ハートフォード |
| 国籍 | アメリカ |
| 活動拠点 | ニューヨーク |
| 分野 | 家具、照明、時計、展示、著述 |
| 主な協働ブランド | Herman Miller、Howard Miller、Vitra |
Reference
- George Nelson | Herman Miller
- https://www.hermanmiller.com/designers/nelson/
- George Nelson | Vitra
- https://www.vitra.com/en-us/product/designer/george-nelson
- George Nelson Archive | Vitra Design Museum
- https://www.design-museum.de/en/collection/estates.html
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- The Art Institute of Chicago Collection
- https://www.artic.edu/collection