Action Office Roll-Top Desk(アクション・オフィス・ロールトップ・デスク)は、1964年にジョージ・ネルソンとロバート・プロプストによってデザインされ、Herman Miller社から発表された革新的なオフィス家具である。世界初のオープンプラン・オフィスシステムとして誕生したAction Office(アクション・オフィス)シリーズの中核をなす製品であり、従来のオフィス家具の概念を根本から覆す先駆的なデザインとして、20世紀のオフィス環境に革命をもたらした。
ウォールナット材のタンブール(蛇腹)構造による開閉機構、アルミニウムフレーム、ホワイトラミネートの天板という異素材の組み合わせは、それまでのオフィス家具には見られなかった斬新なアプローチであった。このデスクは単なる作業机としての機能を超え、オフィスワーカーの身体的・心理的ニーズに応えるという新しいデザイン哲学を体現している。
特徴・コンセプト
Action Office Roll-Top Deskは、Herman Miller Research Corporationにおける3年以上にわたる綿密な研究成果の結晶である。同研究所の所長ロバート・プロプストは、オフィスにおける人間行動、環境が生産性・健康・仕事への意欲に与える影響について広範な調査を実施した。その知見をもとに、ジョージ・ネルソンがデザインを担当し、従来の階層的なオフィス構造に挑戦する革新的な家具システムを生み出した。
タンブール・ロールトップ機構
本製品最大の特徴は、ウォールナット材の細い板を連結したタンブール構造による蛇腹式の天板である。この機構により、一日の終わりに未完了の作業をデスク上に残したまま蓋を閉じることができ、翌朝すぐに作業を再開できる。また、プライバシーの確保という観点からも、来客や同僚の視線から作業内容を遮断する実用的な機能を有している。
素材の革新的な組み合わせ
ネルソンは、ポリッシュ・アルミニウム、ラミネート・プラスチック、ウォールナット材という、それまでオフィス家具では組み合わせられることのなかった素材を大胆に融合させた。キャストアルミニウム製のフレーム、ホワイトラミネートの作業面、ウォールナットのタンブールドアという構成は、モダニズム、機能主義、そして伝統的な職人技を同時に体現している。
人間工学的配慮
Action Officeシリーズは、座位と立位を交互に取ることで集中力と創造性を高めるという理念に基づき、異なる高さのデスクを用意している。Roll-Top Deskにはスタンディング用のハイデスク(モデルNo. 64916-64919)と着座用のローデスク(モデルNo. 64901-64904)が存在し、フットレスト、引き出し、深い収納スペース、電源コンセントなど、ワーカーのニーズに応える機能が統合されている。
エピソード
Action Office Roll-Top Deskは、映画史に残る名作との関わりを持つことでも知られている。スタンリー・キューブリック監督の1968年の傑作SF映画『2001年宇宙の旅』において、宇宙ステーション5の受付シーンでこのデスクが使用された。キューブリック監督は製作のあらゆる側面に関与し、俳優の衣装の生地選びから映画に登場する家具の選定まで自ら行った。宇宙船のエレベーターを出たフロイド博士を出迎える受付係の背後に置かれたのが、白く塗装を施されたAction Officeデスクであった。
このデスクの開発過程では、ネルソンとプロプストの間で設計思想を巡る議論が交わされた。最終的にAction Office Iシリーズは商業的には成功を収めることができなかった。プロプスト自身が「中間管理職向けのツールとしては、あまりにも華やかで目立ちすぎた」と評したように、その先鋭的なデザインは当時の保守的なオフィス環境には受け入れられ難い面があった。しかし、この挑戦的な試みが後のAction Office IIの開発、そして現代のオフィス・キュービクルの誕生へと繋がっていくことになる。
興味深いことに、ネルソンは後年、Action Office IIについて「人間性を無視した労働環境」を生み出すものとして批判的な見解を示した。1970年に彼は「AO IIは、人々を詰め込む方法を探しているプランナーには最適だが、個人としての人間にとって満足のいく環境を生み出すシステムではない」という書簡を残している。皮肉にもこの予言は的中し、Action Office IIは後にオフィス・キュービクルとして普及し、2005年までに累計売上50億ドルを達成することになる。
評価
Action Office Roll-Top Deskは、発表当初から高い評価を受けた。1965年にはAlcoa Industrial Design Awardを受賞し、その革新的なデザインが業界から認められた。また、1964年には『Home Furnishings Daily』誌からBest Collection of the Yearに選出されている。
Vitra Design Museumはハイデスク・ロールトップ(No. 64916)をはじめとするAction Office Iシリーズの主要作品を永久コレクションとして所蔵しており、デンバー美術館もAction Office 2 Roll Top Desk(1967年製)を収蔵している。これらの事実は、本製品が単なる実用家具の域を超え、20世紀デザイン史における重要な文化遺産として認識されていることを示している。
1985年のWorldesign Congressでは、Action Officeが「1961年から1985年までの世界で最も重要なインダストリアル・デザイン」に選出された。この評価は、単一の製品としてだけでなく、オフィス環境全体の在り方を変革したシステム家具としての先駆的価値を讃えるものである。
受賞歴
- 1964年 Best Collection of the Year, Home Furnishings Daily
- 1965年 Alcoa Industrial Design Award
- 1970年 21st Annual International Design Award, American Institute of Interior Designers
- 1985年 世界で最も重要なインダストリアル・デザイン(1961-1985), Worldesign Congress
基本情報
| 製品名 | Action Office Roll-Top Desk(アクション・オフィス・ロールトップ・デスク) |
|---|---|
| デザイナー | George Nelson(ジョージ・ネルソン)、Robert Propst(ロバート・プロプスト) |
| ブランド | Herman Miller(ハーマンミラー) |
| 発表年 | 1964年 |
| 生産期間 | 1964年 - 1968年(Action Office I) |
| モデル番号 | No. 64916-64919(ハイデスク)、No. 64901-64904(ローデスク) |
| 素材 | ウォールナット(タンブールドア)、オイルドアッシュ、ポリッシュ・アルミニウム(フレーム)、ラミネート・プラスチック(天板)、ソフトビニール(エッジ) |
| 寸法(ハイデスク) | H100-110.5cm × W125.5-166cm × D81cm |
| 寸法(ローデスク) | H72.5-82.5cm × W125.5-166cm × D81cm |
| シリーズ | Action Office I(No. 649シリーズ) |
| 生産国 | アメリカ合衆国 |