CSS(コンプリヘンシブ・ストレージ・システム)は、1959年にジョージ・ネルソンがハーマンミラー社のために設計した革新的なモジュラー収納システムである。「Comprehensive(包括的な)」の名が示す通り、住宅からオフィスまであらゆる空間のニーズに応える統合的な収納ソリューションとして開発された。
本システムは、ネルソンが1946年に発表したベーシック・キャビネット・シリーズの設計思想を発展させたものであり、より高度なモジュラー性と拡張性を実現している。個々のユニットは独立して使用できるだけでなく、水平・垂直方向に自在に組み合わせることで、使用者の要求に応じた最適な収納構成を構築することが可能である。
特徴・コンセプト
CSSの設計思想の根幹には、ネルソンが建築家として培った空間認識と、ハーマンミラー社のデザインディレクターとして推進した「民主的なデザイン」の理念が息づいている。
モジュラー構造
CSSは、基本となるキャビネットユニット、引き出しユニット、棚板、脚部などの標準化されたコンポーネントから構成される。これらの要素は共通の寸法体系に基づいて設計されており、相互に組み合わせることで無限のバリエーションを生み出すことができる。この設計手法は、後のシステム家具の原型となった。
シンプルな造形言語
外観は、直線と直角を基調とした明快な幾何学的フォルムで構成されている。装飾的要素を極力排し、素材の質感と精緻なディテールによって品格を表現するという、ミッドセンチュリーモダンの精神を体現している。脚部には細身のスチール製レッグを採用し、視覚的な軽快さと清掃性を両立させている。
素材と仕上げ
キャビネット本体には上質なウォールナット材やローズウッド材が用いられ、引き手金具にはアルミニウムやクロームメッキを施したスチールが採用されている。木部の温かみと金属の精密さが調和し、住空間にもオフィス環境にも適応する普遍的な美しさを実現している。
エピソード
CSSの開発は、1950年代後半のアメリカにおける住環境の変化と密接に関連している。戦後の経済成長に伴い、住宅の形態が多様化し、また企業オフィスの在り方も変革期を迎えていた。ネルソンはこうした社会的背景を鋭敏に察知し、固定的な家具ではなく、変化する生活様式に柔軟に対応できるシステムの必要性を認識していた。
ネルソンは、1945年にハーマンミラー社のデザインディレクターに就任して以来、チャールズ&レイ・イームズ、イサム・ノグチらの才能を見出し、同社を世界的なデザイン企業へと導いた。CSSは、こうしたコラボレーションを通じて蓄積された知見と、ネルソン自身の建築的視点が結実した作品といえる。
特筆すべきは、ネルソンが単なる「家具」ではなく「システム」という概念を提唱した点である。彼は著作『Storage』(1954年)において、現代生活における収納の問題を体系的に分析し、CSSはその理論的考察を具現化したものであった。
評価
CSSは、発表当時から建築家やインテリアデザイナーの間で高い評価を受けた。モジュラーシステムという概念は、その後のオフィス家具設計に多大な影響を与え、1960年代にネルソンが開発したアクション・オフィスの先駆けとなった。
美術館のコレクションとしても評価されており、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界各地のデザインミュージアムに収蔵されている。現代においても、ヴィンテージ市場では高い価値を保ち、デザインコレクターの間で珍重されている。
CSSが提示したモジュラー収納の理念は、USMハラー、ヴィトソエ606など、後続する名作システム家具の礎となり、現代の収納デザインにおいても参照され続けている。
受賞歴・評価
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション収蔵
- ヴィトラ・デザイン・ミュージアム収蔵
- ジョージ・ネルソン財団による歴史的作品として認定
基本情報
| 正式名称 | CSS (Comprehensive Storage System) |
|---|---|
| デザイナー | ジョージ・ネルソン(George Nelson) |
| デザイン年 | 1959年 |
| メーカー | ハーマンミラー(Herman Miller) |
| 製造国 | アメリカ合衆国 |
| 主な素材 | ウォールナット、ローズウッド、スチール、アルミニウム |
| カテゴリー | 収納家具 / システム家具 |
| デザイン様式 | ミッドセンチュリーモダン |