概要

ラウンドチェアは、ハンス・J・ウェグナーが1949年に発表したアームチェアである。背もたれとアームレストが途切れずにつながって半円を描く構成を持ち、当初はヨハネス・ハンセンの工房で、現在はPP Møblerが製作している。

座面を籐編みとするPP501と、張り座とするPP503の2つの型番で構成される。デンマークではラウンドチェア(Den Runde Stol)、アメリカではザ・チェア(The Chair)、イギリスではザ・クラシック・チェアと呼ばれてきた。ウェグナー自身は「丸いやつ」と呼んでいたという。

共通する設計原理

半円をつくる3つの部材

背もたれから左右のアームレストへ続く半円は、3つの部材を接いで作られる。背は厚さ5インチの無垢材から削り出され、左右のアームレストもそれぞれ無垢材から削り出す。左右の部材は同じ丸太から並べて木取りされ、対になるよう組み合わせられる。木目の流れを左右で揃えるための手順である。

背もたれは垂直の桟を持たず、水平に伸びた一本の面が腰を支える。ウェグナーはこの構成に至る過程で、中国の明代の椅子や古代ギリシャのクリスモスを参照している。

材の調達と乾燥

PP Møblerは、伐採したばかりの木から部材を粗取りし、樹種に応じて1〜2年かけて調湿すると説明する。この工程は短縮できず、代替する技術もない。

そのため、注文が調湿済みの部材の数を上回ると、納期は材の乾燥と新たな木の入手に左右される。同社が生産数を限っているのはこのためである。両型番とも同じ工程を経るため、この制約は座面の仕様にかかわらず共通する。

樹種と仕上げ

オーク、アッシュ、チェリー、ウォールナットから選べる。仕上げはソープ仕上げ、ホワイトバイオオイル、クリアバイオオイルなどがあり、樹種によって選べる組み合わせが異なる。仕上げの違いは見た目だけでなく、手で触れたときの感触にも表れる。

成立と展開の経緯

1949年の家具職人ギルド展

この椅子はコペンハーゲンの家具職人ギルド展で公開された。デンマーク国内の反応は乏しく、ウェグナーはのちに、デンマークの新聞は一言も書かなかったと記している。

状況を変えたのは国外の反応だった。1950年、アメリカのインテリア誌『Interiors』がこの椅子を取り上げる。PP Møblerはこれを、デンマークのデザインが国外で報じられた最初の例と位置づけている。記事を受けて購入先の問い合わせが相次ぎ、デンマーク家具の輸出が伸びていった。アメリカの家具業界ではこの椅子が近代的な椅子の原型と見なされ、単に「ザ・チェア」と呼ばれるようになる。

1960年のテレビ討論会

1960年、ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンによる史上初のテレビ中継の大統領候補討論会で、両者はこの椅子に座った。この討論会は選挙の行方を左右したと評され、椅子の名も広く知られることになった。

製造の引き継ぎ

初期の製作はコペンハーゲンのヨハネス・ハンセンの工房が担った。カタログ上の型番はJH501とJH503である。同工房が閉じたのち、PP Møblerが製造を引き継ぎ、型番はPP501とPP503になった。設計と型番の対応はそのまま保たれており、旧型番からの読み替えができる。

メンバー間の差異

2つの型番の違いは座面の仕様にある。ただし成立の順序をたどると、違いは座面だけにとどまらない。幅63cm、奥行52cm、高さ76cm、座面高44cmはいずれも共通する。

接合部の作り分け

1949年の初期型は、座枠に籐を編み込んだ座面を持っていた。背の3つの部材はダボと突き付けで接がれ、その接合部は籐の巻きで覆われていた。座面の籐と巻きの籐が対応する構成である。

翌年、ウェグナーが張り座の型を作ろうとしたとき、この処理が問題になった。座面から籐がなくなると、背の巻きだけが理由を失う。木の面をそのまま見せるために、接合部はフィンガージョイントに改められた。隠すための籐を、見せるための木工に置き換えたことになる。これがPP503にあたる。

現在は501もこの接合方法で作られており、両者の外形上の違いは座面に限られる。籐の巻きを持つ背は、1949年から1950年ごろの個体にのみ見られる。

比較表

比較項目 PP501 PP503
発表年 1949年 1950年
座面 (ケイン)の手編み ファブリックまたはレザー張り
手入れ 籐を定期的に湿らせる。乾くと割れることがある 張り地に応じた通常の手入れ
向く場所 湿度を管理できる住宅 使用条件を選ばない
旧型番 JH501 JH503

メンバー一覧

発表年 区分 製品名 位置づけ
1949年 アームチェア PP501 ザ・チェア 籐編みの座面を持つ最初の型。背の接合を籐で覆う構成はここから始まった。
1950年 アームチェア PP503 ザ・チェア 張り座の型。籐を使わないため、背の接合部をフィンガージョイントに改めた。

評価と影響

この椅子は、1950年代を通じてデンマークの複数の家具メーカーの中心的な商品となる一連の設計の起点となり、ダニッシュ・モダンが国際的に広まる原動力になったと位置づけられている。

座面の仕様を変えるために接合方法まで作り直したという経緯は、この椅子の性格をよく示している。見えている面の理由が失われたときに、装飾として残さずに構造から作り替える判断が、2つの型番の関係を決めている。

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館)。

  • MoMA アームチェア(1949年、オーク材と籐) 収蔵番号 486.1953

籐座であることから、PP501にあたる初期型である。同館が収蔵したウェグナーの椅子としては最初の一脚にあたり、ゲオルグ・イェンセン社からの寄贈による。V&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)、Met(メトロポリタン美術館)、AIC(シカゴ美術館)はいずれもウェグナーの他の椅子を所蔵しているが、この2型番は確認できなかった。

基本情報

デザイナー ハンス・J・ウェグナー
ブランド PP Møbler(当初はヨハネス・ハンセン)
共通構造 3つの部材を接いで半円をつくる背とアームレスト
共通素材 無垢材(オーク、アッシュ、チェリー、ウォールナット)
共通する工程 伐採直後の木から粗取りし、1〜2年かけて調湿する
別称 ザ・チェア(米)、ザ・クラシック・チェア(英)、Den Runde Stol(デンマーク)

Reference

PP Møbler | pp501/pp503 Round Chair
https://pp.dk/product/pp501-pp503/
MoMA | Hans Wegner. Armchair. 1949
https://www.moma.org/collection/works/4041
danish architecture and design review | design classic: The Chair by Hans Wegner 1949
http://danishdesignreview.com/blog/2015/12/14/design-classic-the-chair-by-hans-wegner

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