概要

アルジャント・キューブテーブル(Model PE-37)は、ポール・エヴァンスが手がけたArgente(アルジャント)シリーズのサイドテーブルである。Argenteはフランス語で「銀色の」を意味する。溶接したアルミニウムを主材とし、不透明な黒と反射する銀のコントラストを持つ表面に、星・渦巻き・幾何学模様といったピクトグラフィックな「描画」を施した作品で、約40cm四方のキューブ形状に天然スレートの天板を組み合わせている。1960年代半ばから約6〜7年という短い期間に製作され、現存数が少ないシリーズとして知られる。

特徴とコンセプト

アルミニウムによる表面表現

アルミニウムを溶接して立方体を組み、表面を加工する。トーチでアルミニウムを溶かせば、溶けた部分と溶けない部分で表面の粗さが変わる。粗い面は光を拡散して黒く沈み、平滑な面は反射して銀色に光る。同じ素材のまま、加工の度合いだけで明暗が分かれる。そこにエッチングで図像を刻む。

反射面の見え方

図像は面全体に反復して配される。平面の絵画では図像は固定されるが、反射面を持つ立体では周囲の光が映り込む。見る角度と照明によって、同じ面でも明暗の分布が変わる。

溶接痕の扱い

溶接痕は削り落とされず、そのまま表面に残る。研磨して平滑にすれば接合部は消えるが、残せば加工の順序が読める。図像は手作業で刻まれるため、一点ごとに配置が異なる。

制作背景

Argenteシリーズの製作期間が短かった背景には、技術的・経済的な要因がある。顔料を含んだアルミニウム表面を加工・溶接する工程では有毒なヒュームが発生し、健康面のリスクが大きかったため、この技法は早い段階で用いられなくなった。加えて、厚みのあるアルミニウム材は高価で、各作品の仕上げには多くの手間を要した。こうした事情から総生産数は限られ、なかでもキューブテーブルの現存数は少ない。

Argenteの技法は、Directional向けのPE 100シリーズに取り入れられた。同じモデル番号の作品であっても、表面に刻まれる図像は一点ごとに異なり、星・渦巻き・線・幾何学模様が自由に組み合わされる。購入者は単に「Model PE-37」を手に入れるのではなく、固有のパターンを持つ一点を所有することになる。

樹脂で形をつくって表面だけを金属にするスカルプテッド・ブロンズ・フロント・キャビネットに対し、こちらは金属そのものを溶接して立体を組む。スタラグマイト・ベース・ダイニングテーブル(溶接鋼鉄ベース)も同じく溶接によるが、表面ではなく形状そのものを溶接で生成している。

4館の公開データでは、アルジャント キューブテーブルの収蔵は確認できていない。

基本情報

デザイナー ポール・エヴァンス(Paul Evans, 1931-1987)
国籍 アメリカ
製造期間 1965年頃〜1972年頃
ブランド Paul Evans Studio / Directional Furniture
製造国 アメリカ(ペンシルベニア州)
カテゴリ サイドテーブル / エンドテーブル
主要素材 溶接アルミニウム、天然スレート
サイズ 約 H40cm × W38〜41cm × D38〜41cm(手作業のため個体差あり)
技法 アルミニウムの溶接、トーチによる表面加工、エッチング
表面処理 不透明な黒と反射する銀のコントラスト
装飾 ピクトグラフィックパターン(各作品で異なる)
現在の入手方法 ヴィンテージ市場、オークション
参考文献 Jeffrey Head『Paul Evans: Designer & Sculptor』(2012)