アルジャント・キューブテーブル(Model PE-37)は、ポール・エヴァンスが手がけたArgente(アルジャント)シリーズのサイドテーブルである。Argenteはフランス語で「銀色の」を意味する。溶接したアルミニウムを主材とし、不透明な黒と反射する銀のコントラストを持つ表面に、星・渦巻き・幾何学模様といったピクトグラフィックな「描画」を施した作品で、約40cm四方のキューブ形状に天然スレートの天板を組み合わせている。1960年代半ばから約6〜7年という短い期間に製作され、現存数が少ないシリーズとして知られる。

特徴とコンセプト

アルミニウムによる表面表現

Argente Cube Tableは、アルミニウムを溶接して立方体を組み、その表面を加工して仕上げる。1960年代当時、アルミニウムを家具に用いる例は少なく、エヴァンスはこの素材を彫刻的・表現的に扱った。表面はアセチレントーチでアルミニウムを溶かして濃淡のパターンを生み、顔料を含ませて不透明な黒と反射する銀の対比をつくり出し、そこにエッチングでピクトグラフィックな図像を刻む。反射面は周囲の光を取り込むため、見る角度や照明によって表情が変わる。

オプアートとの関わり

高コントラストの表面に刻まれた反復的なパターンは、1960年代に隆盛したオプアートの視覚言語と関連づけて論じられることがある。テッセレーション状に配された図像が生む視覚的な躍動感は、ブリジット・ライリーやヴィクトル・ヴァザルリの絵画を思わせる。ただしエヴァンスの作品は平面の視覚実験にとどまらず、反射面が設置環境の光を映し込むことで、時間帯や季節によって異なる見え方をする点に家具ならではの特性がある。

ブルータリズムと手仕事

Argenteシリーズは、生々しい溶接痕や工業素材の率直な露出、装飾と構造の一体化といった点で、1960年代のブルータリズムの美学を小さな家具に凝縮している。同時に、各作品に異なる図像が手作業で刻まれるため、量産品でありながら一点ごとに表情が異なる。工業的な生産方式と手仕事とが同居するこの性格が、エヴァンスがアメリカン・スタジオ・クラフト・ムーブメントのなかで占める独自の位置を示している。

制作背景

Argenteシリーズの製作期間が短かった背景には、技術的・経済的な要因がある。顔料を含んだアルミニウム表面を加工・溶接する工程では有毒なヒュームが発生し、健康面のリスクが大きかったため、この技法は早い段階で用いられなくなった。加えて、厚みのあるアルミニウム材は高価で、各作品の仕上げには多くの手間を要した。こうした事情から総生産数は限られ、なかでもキューブテーブルの現存数は少ない。

Argenteの技法は、Directional向けのPE 100シリーズに取り入れられた。同じモデル番号の作品であっても、表面に刻まれる図像は一点ごとに異なり、星・渦巻き・線・幾何学模様が自由に組み合わされる。購入者は単に「Model PE-37」を手に入れるのではなく、固有のパターンを持つ一点を所有することになる。

21世紀に入り、エヴァンスの仕事が改めて評価されるなかで、Argenteシリーズも再注目された。ニューヨークのTodd Merrill Studioは、2020年に個人コレクションから集めたArgenteの作品を紹介する展覧会を開催している。

基本情報

デザイナー ポール・エヴァンス(Paul Evans, 1931-1987)
国籍 アメリカ
製造期間 1965年頃〜1972年頃
ブランド Paul Evans Studio / Directional Furniture
製造国 アメリカ(ペンシルベニア州)
カテゴリ サイドテーブル / エンドテーブル
主要素材 溶接アルミニウム、天然スレート
サイズ 約 H40cm × W38〜41cm × D38〜41cm(手作業のため個体差あり)
技法 アルミニウムの溶接、トーチによる表面加工、エッチング
表面処理 不透明な黒と反射する銀のコントラスト
装飾 ピクトグラフィックパターン(各作品で異なる)
現在の入手方法 ヴィンテージ市場、オークション
参考文献 Jeffrey Head『Paul Evans: Designer & Sculptor』(2012)