スカルプテッド・ブロンズ・フロント・キャビネットは、ポール・エヴァンスが1960年代半ばに確立したSculpted Bronze(スカルプテッド・ブロンズ)シリーズの収納家具である。合板またはスチールの基材にエポキシレジンを盛り、手作業で彫刻的に成形したうえで、霧状のブロンズを吹き付けて金属質の表面を与える独特の技法によってつくられる。多くの作品には天然の手割りスレート天板が組み合わされ、ブロンズの光沢と石材の質感が対照をなす。収納家具でありながら、表面の造形は明らかに手仕事によるもので、彫刻的な性格を強く帯びている。
特徴とコンセプト
製作技法
スカルプテッド・ブロンズの製作は、複数の工程を重ねて行われる。合板ベースまたはスチールフレームの上にエポキシレジンと砂の混合物を盛り、手作業で彫刻的に成形する。硬化後、表面をサンドブラストで整え、溶融したブロンズを霧状に吹き付ける「アトマイズド・ブロンズ」の技法で金属的な光沢を与える。さらにニスを塗り、トーチで焼いて陰影のある風合いを加え、研磨と再度のニス塗りを経て仕上げる。この工程により、鋳造ブロンズのような重厚な質感を持ちながら比較的軽量な作品が生まれる。手数の多い独特の手法であり、エヴァンスの仕事を特徴づける造形言語のひとつとなっている。
彫刻としての家具
エヴァンスは家具を実用品としてだけでなく、彫刻的な抽象構成として扱った。スカルプテッド・ブロンズ・シリーズの各作品は、うねりや滴り、有機的なパターンなど自由な造形を特徴とし、表面のレリーフは一点ごとに異なる。収納家具としての機能を保ちながら、その外観は手仕事によって形づくられたことを明瞭に示しており、量産品とは異なる質感を持つ。機能と造形の関係を問い直した点に、このシリーズの意義がある。
ブルータリズムの美学とスレート天板
スカルプテッド・ブロンズ・キャビネットは、1960年代から70年代にかけて広がったブルータリズムの家具の代表的な例に位置づけられる。荒々しく力強い表面処理、素材の率直な表現、重量感のある存在感がその特徴である。天然スレートの天板は、加工されたブロンズと対照をなし、素材そのものの表情を引き立てる。手で割られた石の不規則なエッジと、手で成形されたブロンズの有機的な表面が、自然と人為の対比を生んでいる。
基本情報
| デザイナー | ポール・エヴァンス(Paul Evans) |
|---|---|
| 製造 | ポール・エヴァンス・スタジオ、ディレクショナル・ファニチャー |
| シリーズ | スカルプテッド・ブロンズ(Sculpted Bronze) |
| 制作年代 | 1960年代半ば〜1970年代 |
| 製造国 | アメリカ |
| 主要素材 | エポキシレジン、アトマイズド・ブロンズ、合板またはスチール、天然スレート |
| 製作技法 | 手彫刻によるレジン成形、サンドブラスト処理、ブロンズ吹付け、トーチ仕上げ |
| 様式 | ブルータリズム、アメリカン・スタジオ・クラフト |